プロローグ 雪山山荘殺人事件

もし事件が起きることが先にわかっていたならば、私はもっとく立ち回れただろう。

平成の名探偵 つきづき(享年七十二 二〇〇九年没)



犯人の独白


 魔が差した、としか言いようがなかった。

 確かにアイツのことは殺したいぐらい憎かったが、実際に殺すなんてあり得ない。

 やってはいけないことの分別ぐらいついている。

 殺してやりたいと思っても、せいぜいが頭の中の想像で済ませるだけだろう。それで表面上は仲のいふりをして酒を飲む。そういう付き合いも大人にはある。

 現実で殺人だなんて、捕まったらどれだけの間、刑務所に入れられるか。

 人生終わりだ。

 だが、そう、捕まらなければいい。バレなければいい。

 事故死、事故死なんだ。防犯カメラはなかった。証拠なんてない。誰にも見られていない。

 こんなことで、捕まってたまるか。

 そんな思考をしていたところに「パンパン」と二回手が打ち鳴らされた。


「はい、ちゅうもーく!」


 まだにもなっていないだろう若い女が場違いに明るい声をだす。


「皆さんご存じの通り、不幸にもこの山荘で殺人事件が起きてしまいました。警察が到着するまで暇だと思うので、今のうちに犯人を特定したいと思いまーす」


 この山荘には自分を入れて九人の人間がいる。

 女は一同の前で勝手に話を進めていき、


「談話室の方が雰囲気でるからそこに移動で!」


 くだらない理由で談話室へ集合させ、


「あなたは見事犯人に選ばれました! ぱちぱち~!」


 こちらを指差し、推理とも呼べない暴論を披露しはじめた。


「────! ────!」


 自分は当然反論をする。ふざけるな。納得できるか。証拠がない。


「じゃあここからは探偵役をあおにバトンタッチしまーす」


 そうして女は自分が座っていたソファを若い男に譲る。


「……あか、いや妹が失礼した。しかし俺の話を聞けば諸君も納得するだろう」


 暖炉のそばの一人掛けソファ。男はその特等席に偉そうに足を組んで座った。


「身構えなくともすぐに終わる。俺の仕事はもう終わらせたからな」


 またわけのわからないことをのたまいやがる。

 全く、この探偵ごっこはいつまで続くんだ……?