やれやれ。挑戦を受けるとは言ったものの、待っている間は退屈だな。
「そういや、江奈ちゃんとこういうトコに来たことはなかったな」
手持ち無沙汰なこともあって、俺はしみじみとそんなことを思い返す。
江奈ちゃんとデートする時は、だいたい一緒に映画館で映画を観るか、喫茶店で好きな作品について語り合うかだったもんなぁ。
俺はそれだけでも十分楽しかったんだけど……やっぱり江奈ちゃんからしたら、こういう「普通のデート」ももっとしたかったんだろうか。
「はぁ~……こういう気が回らないところもダメだったのかなぁ」
「颯太~、ちゃんとそこにいる~?」
ため息をついたところで、カーテンの向こうから水嶋に呼ばわれる。
「はいはい、おりますですよ」
「よかった。じゃあ、さっそく一着目をお披露目しようかな」
さてさて、何が飛び出してくるのやら。
まぁ、たとえどんなファッションで来ようと、俺はけして動じたりは──。
「じゃーん」
「ブ───ッ!?」
シャッ、と開かれたカーテンの向こう。
バッチリとポーズを決めて立っていた水嶋の格好に、俺は思わず噴き出した。
「水着じゃねぇか!」
そう。水嶋が身にまとっていたのは、コバルトブルーを基調とした涼やかな雰囲気の水着だった。上は普通のビキニだが、下はいわゆるパレオのような形になっている。
「どう? 似合ってる?」
「いやっ、お前っ、水着は違うだろ水着はっ! ファッションショーっていう話はどこへ!?」
「水着だって服は服じゃん」
「うっ……そりゃ、そうかもだけど……!」
こ、この女! 初っ端から平然とした顔で搦め手を使ってきやがった!
まさか水着を持ってくるなんて、予想外にもほどがあるだろ。
「ファッションショー」というワードから、勝手にその可能性を除外してしまっていた。
くそ、まんまとコイツのミスリードに引っ掛かっちまったってことか!
「ふふふ。颯太はこういうの、好き?」
後ろ手に手を組みながら、水嶋が見せつけるようにしてポーズを取る。
見るからにきめ細やかそうな白い肌に、太過ぎず細過ぎずの健康的な四肢。しっかりとくびれのあるお腹周りは適度に引き締まっていて、無駄な筋肉や脂肪は全くと言っていいほどない。
そして何より目を引くのが、青いビキニに包まれた豊満なバストだ。
制服を着ていた時点でもその大きさははっきりわかるレベルだったが、脱いだらさらに凄い。ズッシリとした重量感がありつつも、けして重力に負けずにつんと上向きになった美巨乳だ。
前から薄々感じていたけど……こいつ、クールでボーイッシュな顔とは反対に、首から下の女子力(エロさ的な意味で)が高すぎる!
こういうのが好きか、だって?
そんなもん……そんなもん、健全な男子高校生なら誰でも好きに決まってるだろうが!
「顔、真っ赤だよ? 私の水着姿、そんなに気に入った?」
「気に入ってない! 全然、まったく、これっぽっちも気に入ってない!」
「噓。だって颯太、めっちゃ興奮してるじゃん」
「し、してないから! 仮に興奮してたとしても、それはお前にじゃなくてお前の体に興奮してただけで……はっ!?」
し、しまったぁ! ムキになりすぎてなんかすげぇクズ発言をしてしまった気がする!
慌てて振り返ると、水嶋はきょとんとした表情を浮かべた後、心底おかしそうに笑い始めた。
「あは、あははははっ! 言い方!」
「ち、ちがっ! 水嶋のスタイルやプロポーションの良さは認めるけど、別にお前自身を認めたわけではないって意味で!」
「は~あ、そっかぁ。颯太は私の『体』にしか興味ないんだ~。所詮、私は体だけのオンナか~……いや、でもそれはそれでアリ、かも?」
「お前こそ言い方ぁ! 誤解を招く表現はやめろ! さっきからなんかもう周りの女性客からの視線が痛いから! 突き刺さってるから!」
周囲からの訝し気な視線に耐えかね、俺は水嶋を試着室へと押し戻してカーテンを閉める。
「いいから、とにかくもう着替えろ!」
「ごめんって。さすがにおふざけが過ぎたね。まぁ、水着は半分冗談として、次からはちゃんとした格好で出てくるからさ」
「やっぱり、まだ続くんだな……」
もう正直いっぱいいっぱいだが……それでも、まだたった一着目だ。
こんな序盤も序盤でおめおめ白旗をあげるわけにはいかない。
早くも疲労困憊ながら、俺は覚悟を決めて再び試着室前の椅子に腰かけた。
「じゃあ、どんどん行ってみようか」
「お、おう! 来るなら来やがれ! いや、着やがれ!」