第二章 記念すべき(じゃない)初デート ②

だいじようおうえんしてくれるのはうれしいけど、こっちも今日はプライベートだからね。それになんてったってそうとの初デートだもん。こっち優先」


 さいですか。

 まぁ、それに関しちゃ部外者の俺がとやかく言う事でもないか。


「はぁ~、写真で見るよりカッコよかったなぁSizuさん」

「それ~。……っていうか、となりにいるあのモサい男はなんなの?」

「マネージャーとか? いや、でも全然業界人っぽくないよね。地味だし」

「だよね~。荷物持ちに呼ばれた事務所のバイト君とかでしょ、どうせ」

「だとしても、あんまSizuさんに近寄らないで欲しいんですけど」


 歩き出した俺たちの背後で、ファンの女の子たちが何やらヒソヒソとやっている。

 し、視線が痛い。というかみなさんようしやないなぁ……まぁ、実際モサくて地味ないんキャだけど。


「…………ふ~ん?」


 となりを歩いていたみずしまがそこで不意に立ち止まり、時計台の女の子たちをチラリとり返る。

 気のせいか、そのいつしゆんだけはみずしまの目が笑っていないように見えた。


みずしま? どうした?」


 不思議に思った俺が声をけると、みずしまは再びニコリとほほみ。


「えい」


 次には、いきなり俺のみぎうでき着いてきた。


「ふぁっ!? ちょ、お前なにして……!」

「動かないでね」


 ぐいっと俺に身を寄せたみずしまは、それからなぜか自分の顔をスマートフォンでりする。


「何やってるんだ?」

「いいから。で、この写真をこう……えいっ」

「んなっ!?」


 みずしまがいじっていたスマホの画面をのぞき込み、俺はギョッとする。


「お前まさか、今の写真をネットの海に放流したんじゃあるまいな!?」

「うん、したよ。『今日はオフだからお出かけ♪』って」

「『うん』じゃない! 何を勝手に!」

だいじようだって。私の顔しか写ってないもん」

「いやこれ、俺のみぎうでがちょっと写っちゃってるし!」

「知ってる。だってわざとだし」


 そう言って、みずしまは勝ちほこったような顔で、時計台にいるファンの子たちに視線を向ける。

 その先では、さっそくとう稿こうを見たらしい何人かが「なにこれ!?」「Sizuさん、そういうことなの!?」などと悲鳴を上げている姿が見て取れた。

 やーばい。


「あははは」

「笑ってる場合か! いいから早くこの場をはなれるぞ!」


 このままここにとどまっていたら、あの女の子たちに何されるかわかったもんじゃない。

 しつくるった強火ファンにされて死亡、とか絶対イヤだ。

 のんに笑っているみずしまの手をつかみ、俺はげるようにして駅前広場を後にした。



 駅前広場から移動した俺たちは、駅近くにある大型のショッピングプラザにやってきた。

 休日なだけあって、せつ内は買い物客であふれかえっている。

 これだけ人ごみにまぎれていれば、そうそう見つかることもないだろう。


「ね、見て見てそう。さっきの写真、プチバズってる」


 ごとみたいにそう言って、みずしまがスマホを見せてくる。

 画面には彼女のインスタのとう稿こうと、そのコメントらんが表示されていた。


〈Sizuさん、久々のこうしんキター!〉

〈オフSizuさんもカッコよすぎます!〉

〈これうで組んでない? だれといるところ?〉

〈え、となりにいるのだれ? マネージャー?〉

〈友達から目情きた。さくらちよう駅前で男と歩いてたっぽい〉


 やはりというべきか、コメントらんにはみずしまへの賞賛よりも、画面はしに写っている俺のうでいぶかしむ向きの声が多いようだ。


「あはは、ウケるね」

「ウケないよ!? お前これ、プチバズってるっていうか、プチえんじようしてんじゃねぇか!」

「そうかな? ま、本当にマズそうならウチのマネがすぐ火消しするだろうし、へーきへーき」


 あっけらかんとそう言って、みずしまはヘラヘラと笑うばかりだ。どこまでも楽観的なやつ。


「はぁ……よくわかんないけどさ。こういうのって、事務所の人とかにおこられるんじゃないのか? モデルの仕事に支障が出たりしても、俺は責任とれないぞ?」

「大げさだってば。うちはそこまで大きい事務所じゃないし、雑誌を読んでくれているような層の女の子たち以外にとっては、私だってしよせんただの女子高生だしね。大物タレントじゃあるまいし、あんまり大事にはならないでしょ」


 う~ん、そういうもんかねぇ。

 まぁ、たしかにこうやって人混みを歩いていても、さっきみたいにみずしまの周りに人が集まるような事態にはなっていない。

 通りすがりに彼女の方をり向く人もそれなりにはいたが、それもきっと「今の人、めっちゃ美形だったな」くらいの感覚なんだろう。


「それに、この一か月はモデルの仕事は全部休むことにしたし」

「は? なんで?」


 思わず聞き返すと、みずしまはさも当然といった風に答えた。


「そりゃあもちろん、この一か月はなるべくそうと過ごすって決めてるからね」

「お前、優先順位ちがってるって、絶対……」


 こいつ、そこまで本気で俺を「こうりやく」しようっていうのか?

 単なるイタズラやドッキリにしては、ちょっと手がみ過ぎてる気もするけど……。


「まぁまぁ、細かい事はいいじゃない。今日はせっかくの初デートなんだしさ」


 考え込む俺の手を取って、みずしまはスタスタと歩き出した。


「お、おい。引っ張るなって。ていうか、どこに行くつもりだ?」


 俺が聞くと、みずしまは「ふふん」と得意げにほほんで言った。


、だよ」

「ファッションショーだぁ?」


 いまいち話が読めないまま、俺はみずしまに連れられてエスカレーターを上る。

 辿たどり着いたのは、プラザ三階にある大型アパレルショップだった。

 だだっ広い売り場には、子供服からビジネススーツまで様々な服が並べられている。


「おい。こんな所でファッションショーなんかやるもんなのか?」

「やるよ。私がね」

「はい?」

「私、仕事がらいろんな服を着る機会はあるんだけど、基本的に見せる相手は女の子ばかりだからさ。たまには同年代の男子からの感想も聞いてみたいなって」


 なるほど、「ファッションショー」ってのはそういうことか。

 どうやらこいつは、俺に「服選びに付き合え」と言っているらしい。


「いやいや、ちょっと待て。俺はファッションに関してはドしろうとなんだぞ? げんえきモデルであるお前に何を意見しろと?」

「意見じゃないよ。感想がしいだけ」

「どっちにしろ似たようなもんだ」


 感想って言っても、俺には何がオシャレで何がそうでないのかすらよく分からないんだが?


にぶいなぁ、そうは」


 こんわくする俺に、みずしまはやれやれといった感じで首をすくめる。


「要するに、そうの好みが知りたいんだよ。としては、ね」

「……なるほど」


 つまり、これも俺を「こうりやく」するための作戦ってわけだ。

 まずは自分の服装から俺好みのもので固めていき、より「こいびと」として意識させようという腹づもりなんだろう。


「オーケー、よくわかった。そのちようせん受けて立つぜ」


 しかしあまい。あまいなみずしまよ。

 相手がちゃんならいざ知らず、たかだか服装ごときで心を変えられる俺ではない。

 カリスマモデルだろうが、人気インフルエンサーだろうが、関係あるもんか。

 たとえお前がどんなファッションをろうしようとも、このはらそうるぎもせぬわ!


「『ちようせん』って、そうは何と戦ってるのさ」


 クスクスと笑いながら、みずしまが試着室のカーテンに手をける。


「じゃあ、今から何着か着るから。最後にその中で一番いなって思ったものを選んでよ」

「へいへい」


 試着室に入ってカーテンを閉めるみずしまを見送り、俺は近くにあったこしかけた。