第一章 ⑤

「番号は何番ですか?」

「B六十三」

「分かりました」


 B六十三……B六十三……。


「ありませんね」

うそぉ!?」


 悲鳴のような声を上げて、ルチカがおおっていた手をどけました。目を皿のようにしてけいに視線を走らせます。


「あ……え……? あるじゃん……」

「ええ、おめでとうございます、ルチカ。足切りギリギリではありますが、合格です」

「もおおお! おどかさないでよ! ホントに落ちたかと思ったじゃんか!」

「ふふ、レオニーちゃんたら」


 ちょっとしたいたずらのつもりでしたが、ルチカが思いのほか真面目にろうばいしてしまったので罪悪感にられます。悪いことをしてしまいました。


「すみません、ルチカ。たちの悪いジョークでした」

「いいよ、別に。あーでもよかったぁ」

「でもルチカちゃん。あんしてもいられないと思うよ……?」


 ノールがそんなことを言いました。その表情は晴れません。何事か心配事があるようでした。


「どういうこと、ノール?」

「ほら、実技試験は一対一の戦でしょ? ルチカちゃんの相手は──」


 ノールの言葉にルチカはもう一度り紙を見ました。私の相手はすでかくにん済みで、そこそこ名の知れたほうの使い手でした。ノールの相手も実力あるけんでしたが、彼女の実力をかんがみれば危ないこともないでしょう。問題はルチカの相手でした。


「ボクの相手……あ」


 ルチカも気がついたようです。彼女の相手は──。


「ダニタかぁ」


 そう、ルチカの戦の相手はあのダニタだったのです。ひったくりの時に見た限り、彼女もなかなかやるようですが、いくらなんでも次代最強の勇者とうたわれるダニタほどとは思えません。ギアが告げたダニタの才能はけんじゆつであり、《せん》の勇者ににんていされた彼女の父より上とも言われているのですから。

 ところが、


「うーん、ボクってラッキー。ダニタとはぜひ戦ってみたかったんだ」


 そう言って、ルチカはまるでピクニックを待つ子どものように笑ったのでした。


「正気ですか? これは勇者学校の入学試験なのですよ? せっかく筆記が通ったのに、これでは──」

「やー、それはそうなんだけどね。やっぱり強い子には興味があるよ。ダニタはすごく強そうだし、きっと楽しいと思うんだよね」

「た、楽しい……?」


 ノールも理解不能、という顔をしました。生来大人しい気質で、争い事を好まない彼女らしい反応です。その割に、彼女の戦い方はなかなかにれつではあるのですが。

 かんきゆうだい

 ひとまず実技試験会場へ移動することになり、私たちは学校内の広場へやって来ました。すでに実技試験は始まっているようで、広場の中央では二人の男性が切り結んでいます。


「勇者学校の試験って言っても、みんながみんなダニタみたいに強いわけじゃないんだね」


 戦っている二人を見ながら、ルチカはあくび交じりにそう言いました。


「確かにそれはそうですが、あの二人も相当使うと思いますよ?」

「どうかなあ。背の低い方はそこそこだけど、高い方は大分無理してると思う。決着まであと五合いってとこかな」


 ルチカはそんな予言者めいたことを言いました。まさか、と思いながらも、私とノールは試合舞台の二人を見ました。すると、


「……きっちり五合い。どうして分かったのですか?」


 戦はルチカの言ったとおり、背の低い男性の勝ちで幕を下ろしました。決着までにかかった手数もぴったりで。


「んー? なんとなく。かんだよかん


 そう言ってルチカは何でもないことのように笑いましたが、そんな長い時間射程の予測はギアにも出来ません。このむすめは一体……。