一─二 ③

 技術中尉、と後ろから呼ばれた。

 振り返ると、桜色のショートヘアの少女、サクラが気まずそうに笑っている。


「ごめんね。アズマのやついつもこんなだから。気にしないでいいよ」

「……はあ」


 ここで自分が大人にならなければならない──と、カグヤはそう思った。

 何せ相手は戦闘兵科だ。きっとこれからこういう場面も増えてくるだろうし、その度にいちいち相手をしていたらキリがない。

 カグヤはにっこり笑って右手を差し出した。握手の構えだ。


「違う立場ではありますが、抱く意思は同じですからね。出来るだけけんはせず、これからよろしくお願いします、アズマたい──」

「ふん」


 と、鼻でわらわれた。

 まるで見下すかのような表情に、カグヤは笑顔のまま固まる。瞳がゆがみ、まるで侮蔑とけんをそのまま表しているかのようだった。

 そんなカグヤに気付いてか気付かずか、アズマは偉そうに言い捨てる。


「まあそこまで言うなら仕方ない。よろしくな、中尉」


 そして握手を求める手すら取らず、いちべつもくれず去っていくアズマ。

 残されたのは、きの笑顔を張り付けたまま静かにキレているカグヤ。


「…………」

「……えっと、技術中尉? 大丈夫?」

「教えてください……!」


 迫力のある声に、桜色の少女はびくっと身を震わせる。


「アズマ大尉──いえあのアクマ大尉が一番嫌がることを……全て教えてください……!」


 アクマ大尉という呼び名にその場の面々がざわざわとする。

 少しして、サクラが笑い出した。

 爽やかな笑い声が部屋に響く。


「アクマ大尉って、面白いこと言うんだね」


 部屋の雰囲気が少しだけ柔らかくなった。その笑顔のまま、サクラは続ける。


「機械に弱いんだあいつは。覚えとくといいよ」


 機械に弱い。それはいいことを聞いた──とカグヤはくらく笑う。

 その表情を知ってか知らずか、サクラはこう言った。


「ようこそ『カローン』へ。歓迎するよ、中尉」