こちら、終末停滞委員会。2

プロローグ『守り人たちの声』

 希望を目指し続けるんだ。


 何度負けても。

 どれだけ泣いても。


 それが人間であり続けるって事なんだ。


 だから、一緒に行こう。


 ──逃げるだなんて、許さない。





 彼らが座っていたのは、そうごんなモザイク画が敷き詰められた鮮やかな一室の円卓だった。


「本日の議題は事案1123──こいひかりについて」


 それぞれの顔は情報ジャミングで認識を阻害されている。対面の人間がどこの誰なのかさえ分からない。それがこの『匿名者たちの会』のルールだ。


「早急な対応が必要かと思われる。彼女は生きているべきではない」


 いろの髪の少女がつぶやいた。そのたわごとを笑い飛ばしたのは、長身の男性だ。


「そりゃあ当然さ。あいつはだ。三学園の秩序を不安定にしている。それを抜きにしたとしても、あの化け物は下手な終末よりずっと危険だろう」


 多くの反現実組織にとって、こいひかりという存在は目の上のたんこぶだった。出来る事なら排除したい。そう──出来る事なら。


こいひかりは強すぎる。あいつの前ではあらゆる装甲は紙切れ同然で、どんな攻撃もそよ風扱いさ。人類最強はじゃないぜ。そりゃあ、出来る事なら──」

「出来るさ」


 いろの髪の少女がつぶやいた。震えるような声色で、しかしハッキリと。


「問題は、最近こいの部下に入った人物──ことよろずことだ」


『匿名者たちの会』のメンバーは納得したようにうなずいたり、何の話か分からずに首をひねったりする。ことよろずこと。彼の情報はだ決して多くはない。


「カウス・インスティトゥートがつかんだ話だと『ことよろずこと』は終末持ちで、未来予知のような力を持っているらしい。先に排除する必要がある」


 そんな都合のい機会がそうそうあるとは思えないが──機会は近かった。


「私は三学園合同の『天空競技祭』。当日に動く。諸兄等の援助を求めたい」

「あはは。マジかよ。むちゃくちゃだな、アンタ。そんな無謀な案に、誰が乗ると?」


 いろの髪の少女は大真面目な顔でうなずいた。


「私なら出来る。私にだけは。だから力を貸してくれ」


 匿名者たちの半分が、胸に使命を秘めながらうなずく。


「この美しい世界をまもりぬくために」



刊行シリーズ

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