こちら、終末停滞委員会。2
第2話『noapusa』 ③
「どうして? 何の作戦遂行能力も無い君に共有する理由が無い」
……全く問題ないというのは、俺の間違いだった。彼女としては、俺は
「俺達を監視してるのは、2m前後の生物だ。ミミズ……いや、もっと平べったい。多分、サナダムシみたいな見た目だと思う」
「!」
肌に突き刺さるような殺意を感じていた。それも、泥で出来た地面の下から。距離は10m前後だろう。俺達に気づかれないように、息を殺しながら、出てくる瞬間を待っている。
「視力は低いな。多分、振動で外界を把握してる。何か……準備してるみたいだ」
「……それが君の終末? ──未来予知、だったっけ」
未来予知じゃなくて、読心術だ。けれどそれは秘密にしている。
(この能力があって良かった、なんて思った事は一度だってないけどさ)
もしも神様が居て願いを
「ごめんけど、もう黙っててくれる?」
「……え?」
「終末に助けられるぐらいなら、死んだ方がマシだから」
「な……っ」
「君に援護されるつもりはないし、君を援護するつもりもないよ」
またしても前言撤回だ。この人、作戦だろうがなんだろうが俺を徹底無視するつもりだ!
「待った待った! 終末が憎いのはなんとなく分かるよ。だけどそれを言ったら、この深穴だって終末じゃないか! ここは良くて、俺は駄目なのかよ!?」
「私はこの深穴を利用しているだけ。自由意思を剝奪して、便利に使用しているだけ。君は違うでしょ。人間だから。対等だから。君を道具扱いは出来ないでしょう。だから嫌なの。気持ち悪いの。正直、視界にも入って欲しくはないの」
「にゃ、にゃろう……」
ランは笑ってしまうほど正直に、心で考えている事をそのまま言葉にしていた。
「──だから、後ろに引っ込んでて。邪魔」
ランが腕を軽く振る。その瞬間に現れたのは、フリントロック式の細長いマスケット銃だった。古めかしい銃身。鮮やかな装飾が刻まれた持ち手。
(融通の利かない少女の心の形をそのまま描いたような──)
彼女が一歩踏み出して、大地が揺れる。その瞬間、地面から白い血管の浮かんだ、細長い化け物が土を
「
ランが引き金に指をかける。その瞬間だった。
「らああああああああああああああああああッッ!」
「──!」
ランの頰を、拳大の石が
(神経のダメージが少ない。そうかこいつ、ベースが虫だから、中枢神経が頭に無いのか)
しかし、飛び出た衝撃とぶん投げられた石の衝撃が合わさって、そのダメージは決して少なくない。俺はボウリング球ぐらいの大きさの岩を振りかぶって、
「オラぁ!」
岩を思い切り振り下ろして、巨大な虫を地面に
「ふは。ははは。はははは」
「……
「はっ。なーにが銃痕じゃい。ンなもんいるかぁ!」
俺は虫の血液を体中に浴びながら、ランを見た。
「そっちが俺を必要としないなら、こっちだって望む所だ! アンタの力なんて借りずに、攻略しやるよ。この深穴実習!」
「……ふぅーん、そう。そんなん無理に決まってるけど。言うだけなら簡単だよね。弱い一層の合成獣だから何とかなっただけ。もっと深くまで潜れば──」
「賭けるか? どっちの方が深い階層まで行けるか」
俺は半ばヤケクソ気味に続ける。
「負けた方は、『私は負け犬です』って書いたプラカードを下げながら、学園のグラウンドを逆立ちで一周する。どうだ」
「ふん。訓練も重要な任務だよ。そんな
「
「…………」
ランは笑った。額に血管を浮かび上がらせながら。
「かかってこい。ぶっ殺してやる」
俺達は、深穴を全力で駆け抜け始めた。
■
アタシ──Lunaが
「うわー、空、青……。まぶしー……」
アタシはこの次元の生物では無い。臓器の作りや構成している物質が異なる。
(正直、授業はあんま興味ないし。学校は早起きがだるいけど)
──こういう普通の人みたいな日常は、楽しくないわけじゃない……とは思う。『フリルの騎士』と呼ばれていたあの次元の、訓練学校をほんの少しだけ思い出すから。
「てか、腹減ったー。先に早弁しちゃおっかな」
今日は、寮の冷蔵庫の残り物を使ってお弁当なんかを作ってみた。一応、ご主人ちゃんの分も用意してある。なんか恥ずくて、
(まあ、あの人の舌は単純だから、喜んでくれるだろう)
味付けは少し濃い目に、タンパク質多めで。どうせ
(だけど、喜んでくれるといいな)
なんつって、ピュアすぎるかアタシ。ちょっとウケる。まあ、でも、早弁は我慢しよっかな。
「あいー。すんません、Luna戻りましたー」
クラスメート達が居るグラウンドの隅に
「あーLunaちゃんおかえりねえ」
アタシを出迎えてくれたのは、優しげな笑顔を糸目に浮かべたクラスメート──あーちゃんだった。アタシの登校初日に話しかけてくれた子で、今でも世話を焼いてくれる。
「どしたン。なんかすげー盛り上がってンね」
クラスメートたちは「行け行けー!」「がんばれー!」「負けるなー!」など、競馬場のおじさまがたのように声を張り上げて、小さなモニターを見ているようだった。
「あはは。
「へ?」
急に身内の名前が出て驚いた。アタシはもちもちと笑うあーちゃんに手を引かれて、モニターの前まで躍り出ると、その少年の雄姿を視界に入れた。
『うらぁああああああああああああ!!』
その少年──
「……はい?」
「すごいでしょ、
何してンの、あの子。あんな命知らずな──
「すげ──! マジで飛んだ! どういう根性してんだ!?」
「こ、ここに来るまでに数本骨折れてるよな、アイツ!? エグいって!」
クラスメートたちの感嘆と歓声の中で、アタシは
「いったー!」
ご主人ちゃんの大剣は、反現実の性質を持つ特殊な物だったのだろう。巨大なドラゴンを相手にして、まるで豆腐に包丁を入れるかのように両断した。
『ぎゃっ!』
『何でも切れる刃』に全体重を預けていたご主人ちゃんはドラゴンの硬い肌に激突して、その生き物が崩れ落ちるのと同時に、まるで紙人形のように地面に激突した。
「あ、あれは
「ひえー! 脳出てる! 脳出てるぅ!」
クラスメートたちの悲鳴が響く。アタシは
「これで
静かに見ていた田中先生が