こちら、終末停滞委員会。2
第2話『noapusa』 ②
「今回の天空競技祭でも、すでに数十件のテロ行為が予定されている」
ケイト隊長は、何でもなさそうに言い放ちます。
(今、予定されているって言った? テロ行為が?)
それはなんというか、非常に良くないのではないでしょうか。
「我々の手で、そして諸君の手で、
彼女の背から、
「──我々は終末停滞委員会! たとえ相手が何者だろうと、歩みを止める事は無いッ!」
どうやら思ってた以上に、大変なことになりそうです。
■
「ほいじゃあ、今日の授業は深穴実習でーす」
学園前の広いグラウンドに集められた俺たちは、体操服を着て並んでいた。
《深穴実習! 苦手なんだよなあ》
《今日こそ、新タイムを出したる! ……パートナー次第だけど》
学友たちは思い思いに準備運動をしていた。俺にはどういう実習なのかさっぱりだ。
(深穴……ってのはどう見てもアレだろうけど)
グラウンドの端にある切り立った崖に、ぽっかりと巨大な洞窟が開いている。今から、あの中に入るとでも言うのだろうか?
「今回のコンビを発表する。PM・アーラヴ!」
PMが俺の背中を
「田中先生。まさか私のパートナーが彼……って事はないですよね?」
「ないことはないですね。委員長。
「そんなのっ」
「先生よくないと思うぞ仲間外れとか。もう決定事項だから。これを機に仲良くなること」
ランは不満げな視線を隠そうとしないままに田中先生を
「先生! 俺わかんないンすけど、そもそも深穴実習って何するんですか?」
「おぉ。
「人に嫌われるの慣れてンで」
ランは一瞬だけぎょっとした。俺は彼女に嫌われているんだろうが、マジで特に何も思わなかった。どうやらメキシコ幽閉生活が相当心を鍛えてくれたらしい。くそったれ。
「
「はい。今朝、これが」
俺は小さな拳銃──『noapusa』を先生に見せた。
「もう、撃ってみたか?」
「はい」
その辺りの石ころに向けて、引き金を引く。笑ってしまうぐらいに軽い感触。パスン、と申し訳程度の破裂音を響かせると、石ころをころりと転がした。
「わっはっはっは。すっげー、こんなに威力がない銃痕初めて見た」
「え──笑われてンだけど俺の心の形」
田中先生は、石ころに触れる。
「傷も
「なんか分かりますか?」
「まあねえ。おじさん結構教師生活長いからね。ある程度は。これは……はは」
田中先生はヘラヘラと笑った。
「まあ、がんばれ」
「ええええ! それだけっスか!?」
「これ自分で何とかしなきゃいけない事だから。お前の心の形の話だからさ。教師があーだこーだ言って、変な先入観とか、どうあるべきだとか、考えてほしくないのよな。最初は」
「で、でもなにか、ヒントとか」
「自分の理解を深めるんだ。それ以外には無い」
俺には、この銃痕の能力がサッパリだった。こんな威力の無いおもちゃで、一体どうやって戦えって言うんだろう? 困り顔の俺に、田中先生は続けた。
「『深穴実習』は銃痕の訓練みたいなモンだから。最適だな」
ぽっかりと口を開ける真っ黒な洞窟。どうやらそれは、深穴、と言うらしい。
「ざっくり説明します。アレ、訓練用のダンジョン。中には、アブねーモンスターみたいのがウヨウヨ居ます。そいつら全部倒して、最下層まで下りましょうねっつー話」
「訓練用って事は、危なくは無いんですか」
「いや、普通に危ないよ。ちゃんと殺されるし」
「えええええ!」
驚いている俺に露骨にため息を
「
「出る時に……なんて?」
「『深穴』で死んでも、死体を『深穴』から出せば、『深穴』に入る前──生きた状態に戻る」
「ええええええ!」
「……先生。こんな事も知らない人とコンビ組まないといけないんですか」
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【No.192『
○性質──
○詳細──とある修行僧の即身仏が
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「ぶっちゃけシミュレーターを使う方が現実に近いンだけどね。台数がそこまで無いから上級生や羽が多い連中を優先で、君たちガキのぺーぺーはこれで十分ってワケ」
なるほど。深穴で色んなモンスター相手に『銃痕』を試してみて、これがどういう能力なのか試していけば良いってわけか。ちょっと怖いけど、やりがいはありそうだ。
「それじゃあ、行こうか、ラン。初心者だから迷惑かけると思うけど、よろしく」
「……ふん」
ランは、俺の握手も無視して深穴へと歩みだす。
「たはは。ガキの青春って感じ。おじさん、何だか涙が出てくらぁねえ」
ヘラヘラ笑う田中教諭に見送られながら、彼女の背中を追いかけた。
視界を照らすのは、洞窟の壁に一定間隔に取り付けられたLEDのライトだけだ。
「ランは深穴実習を何度かしているんだろう? 最下層まで
「…………」
黙々と歩くランは、俺の話に
《終末なんかと共に行動する事になるなんて》
《これだからこの学園は嫌いなのよ。やっぱり、カウスに行けばよかった》
俺と会話する気は金輪際無いらしい。終末という現象全てを、心の底から憎んでいるようだ。まあそりゃそうか。終末だもんな。普通に、人類の敵だよな。
「止まって」
不意に、ランが暗闇の奥を
「R値が僅かに上がった。何かが私達を観測してる」
「──え?」
「六占式盤を開いて」
入学する時に職員室で
「ホントだ。現在のR値、0.967。さっきより少し上がってる。どうしてわかったんだ?」
「……そういう体質。別に珍しくはないけど」
R値は平常の値が『1』だ。1.02以上か0.98以下だと、何か異常があると言われている。
「深穴の1階層は危険度の低い反現実性を持った
俺は、了解と簡潔に応える。
「今のうちに聞いてもいいか? ランの銃痕はどういう能力なのか」