【外伝・書き下ろし】こちら、終末停滞委員会。です! ――例えばこんな、普通の日々の物語。

第1話『レトロゲームと宮廷料理』



 心葉先輩が恋兎寮に帰ってから、5日。


「暇だなー……」

「暇ですねー……」


 私――小柴こしばニャオと心葉ことは先輩は、寮のリビングでだらりと過ごしておりました。寮のリビングは沢山のカーペットと沢山のクッションがあるので、だらだらするのには結構最適なのでした。


「先輩はいつから“学園”に戻れるんです?」

「あと3日は休み貰ってんだ。小柴は?」

「小柴のトコは振替休日が明後日までです」


 蒼の学園の中等部は、ちょっとした大型連休。心葉先輩は宇宙から帰ってきたばかりで当分休みを貰ってしまい、暇を持て余していたのでした。


(たいちょやメフ先輩は、お仕事だし)


 お二人は、東京防衛戦の後始末が恐ろしいほどに残っているのです。特にたいちょは心葉先輩が居ない間、完全に抜け殻だったので書類がたまっているのでしょう。


「そういえばLunaさんはどこに?」

「ネイルサロン行ってマッサージ行くから、戻るのは午後だって」

「……意外とエンジョイしてるんですね、あの人」


 Lunaさんはオシャレで、髪もいつも可愛い。大人みたいでちょっと憧れます。


「良くない。これは良くないぞ、小柴」

「何でです?」

「折角のお休みなのに、散漫と過ごすだなんて!」

「……!」


 それってもしかして、『遊んでくれる』っていう意味でしょうか。私の心の中の尻尾がぶんぶんと反応するのを感じます。だって折角二人きりでいるんだから、本当はずっと遊んでほしかったし。


「なにして遊びます!?」

「……」

「え、なんですかその顔は」

「いや。そんな急に目を輝かせるとは思わなくて。可愛いガキだね~~小柴クン」

「……」


 小柴は、近くのクッションを心葉先輩に投げつけるのでした。


   ■


 というわけで。


「おお、すげ。恋兎こいと先輩、こんな物を持っていたとは」


 俺と小柴は、恋兎先輩の部屋に入っていた。恋兎先輩は小柴と同室で、部屋は可愛いものやアニメグッズで散乱としている。2人とも綺麗好きとは言えない性質なので、整理が行き届いているとはとても言えなかった。


「どれで遊びます?」


 俺達は、恋兎先輩のゲームコレクションを見上げていた。


「すごい。なんでもあるんだな」


 ア◯リにゲー◯&ウォッチ、ファ◯コンにP◯エンジン、メガドラ◯ブ。ネ◯ジオにバーチャル◯ーイ、エッ◯スボックスやスイ◯チに至るまで。


「あの人、お金ありますからねえ」


 幅広い年代のゲームソフトが、ここだけキッチリ美しく陳列されていた。どうやら、コレクションしているらしい。


「へえ、どれで遊ぼっか」


 今日は恋兎先輩から勝手にゲームを借りて勝負の1つでもしようという話になったのである。ゲームで遊ぶ許可は、ちゃんと恋兎先輩には頂いている。


「ン? ここの棚には何が入ってんの?」


 俺は、一番下の棚を開こうとした。


「あ、そこは……」


 どうやら鍵付きの棚のようだが、基本ずぼらな恋兎先輩は鍵をかけ忘れていたようだ。俺は何とは無しに、棚をスライドさせる。そこにあったのは、色とりどりの箱だった。



「こ、これはっ」


 俺はすぐに棚を閉めた。


(今の、エッチなゲームだったよな!?)


 いや、一瞬しか見れなかったけど、大きな箱の側面に銀色に輝く『18』のシールが貼られている気がした。横目で小柴を見るとなんとなく分かっていたのか、気まずそうに視線を逸らしている。ちょっとほっぺも赤かった。


「……ゲ、ゲームが沢山あって、どれで遊ぶか悩むナー」


「……ネ、ネー。ほんとですよね、心葉センパイ~」


 俺達は、何も見なかったことにした。


(恋兎先輩、エッチなゲームとかするんだ)


 とか一瞬思った。けれど日本のオタクカルチャーに触れるということは、90年代からゼロ年代に渡るアダルトゲームムーブメントに触れざるを得ないのだ。やましいことなんて、なにもない。むしろ正しいとさえ言える。


「って、これは――」


 俺は恋兎先輩のゲームコレクションの1つに、目が止まる。


   ■


 1人の少女と2人の男が、魔法で作られた二足歩行の機械に乗って、雪山を歩く。


「うわぁー懐かしい……」

「これ、何のゲームなんですか?」


 物悲しげな、けれどどこか威風堂々としたBGMの中で、オープニングのスタッフロールが始まった。俺達はスナック菓子を片手に、ゲームを遊ぶ。


「94年に発売したRPGゲームだよ。俺もあんま知らないけど、超売れたらしい」

「94! 小柴、まだ生まれてすらないですよ」


 確かに。ってか、俺もそうだ。


「このゲーム、ガキの頃、マジで死ぬほど遊んだんだよな」

「へえ。そうなんです?」

「俺、小学校ぐらいで寺に入ったんだけどさ。何か思い出の物……っていうか、大切な物を持って行きたくて。おもちゃ箱をひっくり返すんだけど、ピンと来る物がなくて。ただ昔、仲の良かったおじさんが住んでた部屋の押入れに、このゲーム機が置いてあって……」

「うん」

「なんとなく、持っていったんだ。ゲームなんてあんま興味なかったし、そもそも持ってすらなかったのに。何かを持っていかなくちゃいけない気がして……。そのシールがペタペタ貼られたゲーム機が……無性に羨ましくて…………なんとなくね」

「……へえ」


 スカスカの大きな鞄に、シールだらけのゲーム機を詰め込んだ。誰かの思い出でいっぱいの玩具を。それぐらいしか、心のよすがにするものが無かった。


「これが、寺で結構流行ってさ」

「あはは、そうなんだ」

「そう。チビ達でも出来る簡単なゲームとか、沢山あったし」

「うん」

「……その中でも、このRPGが」


 沢山の仲間に出会い、山程の旅をして、世界が崩壊したとしても諦めず、絆の力で終末から人々を護る。主人公は居ない。ただのカッコいい人たちの冒険物語。


「チビ達がこれで遊んでさ、詰まっては、俺に進めてくれ。って言ってくるわけ。そのチビがクリアしたら、次のチビが。そいつがクリアしたら、また次のチビが。強いボスキャラの倒しキャラを聞いてきて……」

「……」

「……俺は少しだけ……居場所を手に入れた気になって……」


 得意になって披露した。ネットで検索すればすぐに出てくるような裏技を。それだけで、チビたちがすげーって喜んでた。俺は……あの時間が、好きだった。


「だから、懐かしいなって」


 その16Bitの音楽の全てを、音の1つに至るまで覚えている。テレビから流れるピコピコした音が、どんなオーケストラよりも雄弁に感情を想起させる。


「……小柴にも、出来ますかね? ゲームあんま上手じゃないんですけど」

「大丈夫。実はこれ、2人プレイも出来るから」

「えっRPGなのに?」


 戦闘のコマンドバトルの時だけ、パーティに4人いるキャラクターを2人で操作出来るんだ。大人になったら別に必要のなさそうな機能なのに、ガキの頃はこれが本当に嬉しかった。


「せ、先輩! なんか出ました! キモ! かたつむり!!」

「ふふふ、こいつには弱点があって――」


 なんて、そんな、昼下がり。俺達は陽が沈むまで、ゲームに興じた。


   ■


 心葉先輩の話を聞いて、小柴にもそういうのがあるなって、思い出したのでした。


(確か名前は――ムーサロン)


 第12地区に来る前。第11地区の山奥の村で、おばあちゃんが作ってくれた。


『これはね、ニャオちゃん。宮廷で振る舞われる料理なんだよ』


 しわくちゃの掌で、すっかり曲がった腰で、枯れ木の細い腕で。丁寧に、丁寧に、豚の挽肉に細い麺を巻き付ける。とっても手が込んでいるのに、ものすっごく美味しいってわけでもなくて。でも誕生日の度に作って貰える物だから、嬉しくて。


『ニャオもやる!』


 小柴も一緒にひき肉に麺を巻き付けるんだけど、おばあちゃんの方がずっと綺麗で、いっつも、魔法みたいだなって思ってた。

 ――でも、ある日。


『こんなの、嫌だ! なんでうちにはケーキがないの?』


 いつかの誕生日。たしかあれは、9歳の頃だった。うちは貧乏で、滅多におやつも食べれなくて。けれどタブレットで配信されているアニメ映画で、子どもたちが誕生日にケーキを食べているのを見て。何だか、無性に悲しくなった。


『……ごめんね、ニャオちゃん』


 その――おばあちゃんの表情が、忘れられない。

 おばあちゃんの魔法みたいな料理だったのに。特別な宮廷料理だったのに。大好きだった筈なのに。おばあちゃんは悲しげに眉を寄せていた。


(そんな思い出がある。たまに、ふとした瞬間に思い出す)


 だから心葉先輩の思い出のゲームで遊べるの、楽しかった。本当に、一緒にボウケンしてるみたいだった。いや実際に、沢山ボウケンはしてるんだけどさ。


「って、もうこんな時間!」


 気がつけば日は傾いていた。お昼前から遊び始めたのに、楽しい時間っていうのは、本当にあっという間だ。


「ふう……疲れたし今日はこの辺でセーブしとこうか」

「はいっ。また絶対遊びましょうね!!」


 小柴があんまり楽しそうに言うものだから、心葉先輩は一瞬、驚いてしまいます。


(うっ……またからかわれちゃうかな)


 って、小柴は一瞬、警戒します。けれど先輩は優しく笑って。


「ああ。約束な」


 小柴は、何だか分からないけど、胸が、ちょっと、きゅーって。


(……あら?)


 針を呑んだような痛み。何なのかよくわかりません。きっとお腹がすいたから。


「先輩先輩! 夕飯作りしましょ。小柴作りたいのがあるので、手伝ってください」

「おお、良いぜ。何作るの?」


 小柴は、思いっきり笑うのです。あの日のおばあちゃんの悲しそうな顔を思い出しながら。いつかおばあちゃんより上手に作れるようになるんだ、と決めながら。


「それは――宮廷料理です。特別な日にだけ食べる、ごちそうですよ♪」


 豚の挽肉に麺を巻いて揚げる、コロコロまん丸なムーサロン。

 今日は、きっと美味しく作れるでしょう。



刊行シリーズ

こちら、終末停滞委員会。3の書影
こちら、終末停滞委員会。2の書影
こちら、終末停滞委員会。の書影