こちら、終末停滞委員会。3

第3話『永田町』 ②

 3つの巨大なポータル。これだけでも、すさまじい脅威だ。けれど──


「小規模のポータルが、上野から半径50km以内に200個」

「……200……ですって?」

「おわかりですか? 東京が戦場になるのは、既に確定しているのです」


 俺たちは、東京に造られる200の小規模ポータルと、日本近郊にある3つの大規模ポータルから現れる侵略者を駆逐しなければならない。


「ボクたちの調査によると、ポータルの持続時間は12分から13分程度。その間、『りよう次元』から際限なく、侵略者が湧き出る事になります」


 沢山の勲章を付けたスーツの男が、少し考えてから。


「東京都民を速やかに退避させるには、プロトコル─Eを発令するしかないでしょう」

「待て、その議論はまだ早い。エリフさん。その……ポータル? を移動させたり、発現する前に破壊する事は出来ないのでしょうか?」


 その疑問に答えたのは、会長ではなくフォン・シモン先輩だった。


「『りよう次元』の扱うポータルは、物質的な物ではありません。もっと現象的なもの。重力や色のようなものだと考えて下さい。破壊したり、回避出来るような物ではありません」

「出てくる場所が分かっているのに、それを止める手段はない……か。がゆいですな」

「逆に考えれば、こちらは万全の準備で待ち構える事が出来ます」

「確かに、これは大きなハンディだ。そのかせを負うほど、彼らは我々を脅威に感じていない、ということなのでしょうか?」


 シモン先輩は冷静に、眉1つ動かさないまま応える。


「いえ。それだけ、彼らに余裕が無いのでしょう」

「……余裕?」

「彼らは最大限準備したはずなのです。しかし、それだけ多次元へのポータルをつなぐというのは難しい。彼らの文明力全てを費やしても、これが精一杯だったのです」

りよう次元』も、もっと万全の準備をして戦いに挑みたかったはずだ。大型ポータルは今の数倍欲しかったはずだ。当然、ポータル波の観測されるのも防ぎたかったはずだ。


「彼らも必死で、限界なんです。SF映画のエイリアンのように、人類を一方的に狩ることが出来る捕食者では無い。我々に敗北すれば故郷が崩壊する──生き物なのです」


 状況だけを見るのなら、俺達の次元『桜次元』は、圧倒的に有利ではあるのだ。戦力は幾らでも補充できるし、慣れた科学法則の下で戦う事が出来る。


「『りよう次元』について調べた所──」


 シモン先輩が言いかけたのと同時だった。パタリとドアが開く。


「ごめんごめん! 久々にふわいおとんで寝たモンだから、寝坊しちゃってさ〜〜」


 ──まがまがしい幾何学模様のあお。闇よりはるかに黒い髪。黒曜石のような瞳。


「黒の……魔王……ッ」


 シモン先輩が立ち上がった。その瞬間だった。


「ほえっ!?」


 黒の魔王の周囲を囲うように、数十発の銃弾が現れた。四方八方から彼女を取り囲む銃弾は、まばたきするよりも早く黒の魔王の全身を貫く。


「痛ッたぁあああああ──!!」


 全身に穴の開いた黒の魔王は、痛みでその場にうずくまる。俺は思わず、彼女に駆け寄ろうとした。しかし彼女のらんまんとした笑みは、途絶えてさえいなかった。


「……げええええ」


 大きく口を開いた黒の魔王が、そのこうこう内から数十発の銃弾を吐き出す。


「はあ……ほんっと、ひどいことするなあ。私はただの魔王なのに」


 体中を銃弾で穴だらけにされたはずの少女は、何事もなかったようにニコニコと笑っていた。


「──まあでも、好きだよ。あおの学園の人たちのそういう、自分たちの役割に忠実な所。あ、ことちようの人たちもしき内で好き放題発砲されたワケだけど、許してあげてね? 見ての通り、あの程度の銃弾だったら、ちょっと痛いなあぐらいで済んじゃうから」


 相変わらず、長尺な早口で事もなげに物事を語る少女である。


「今のはぁ……キミのそれじゃ、なさそうだね?」


 黒の魔王は、銃痕を抜いていたフォン・シモン先輩を見つめた。彼の銃痕は、二丁の赤と青の拳銃だった。しかし発動された形跡はない。


「じゃあ今のは──そこのおちびさんか」


 黒の魔王は、何事もなく涼しげに席に座っているエリフ会長を見つめた。


「はじめまして、黒の魔王。ボクはエリフ・アナトリア。あおの学園を率いている。そして聞かせていただこうか、ことちようの方々。どうして、彼女がこの場所に居るのかを」

「わお、生徒会長さんなんだ。私、その手のお硬い人とは相性悪いんだよねえ。アメリアちゃんのことも、なんか苦手だったしぃー」


 黒の魔王はそんな風に笑いながら、視線を平行に動かして。


「──へっ♡」

「……やあ」


 俺の事をやっと見つけて、目をまんまるにした。


こと……きゅんっ?」

「きゅんは何?」


 彼女はじぃーっと俺の顔を見つめていた。徐々に、その頰は赤く染まっていく。目もせわしなくぐるぐると動き始め、頰の熱さでじゅーっと音を立てたときには、彼女は俺に背を向けて、両手をパタパタと振っていた。


「ちょまっ……! 何っ。え、何でいるの、こんなトコっ。も最悪! 最悪なんだけど! もぉーっ調子乗って銃弾吐き出し一発芸とかやっちゃったんですけど!? 死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ。ねーえー! そゆこと先にちゃんと言ってよ、もちさん!」

「……いや、知らないから。ていうか大事な場だから、さっさと座ってね」


 スーツを着た30歳ぐらいのれいな女性はあきれたようにつぶやいて、一瞬俺の方を見た。



《……あー。これが例の『だぁりん』ね》


 と思ってから(だぁりんってなんだ)、もちさんは隣の席を引いた。

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