異能アピールしないほうがカワイイ彼女たち2
一章 可愛い=Xの法則 ⑦
「ゾロゾロ、ゾロゾロ……深夜のコンビニでたむろするゴロツキみたいに群れを成して、みっともない。バルサン焚きたくなっちゃうわー……ってそれじゃあゴキブリか。人並みの節度も持ち合わせていないのね、生徒会って」
朔先輩の悪態に「ふんっ」と正面切って対峙する会長。
間合いを詰めていく二人は、ぶつかり合う寸前でメンチを切る──ことはなく。
「ようやく姿を現したか、斎院さく──」
「ああ〜〜んっ」
「…………ッ!?」
次の瞬間、ぼいーん、という丸みを帯びた効果音。
そんな漫画チックなSE、現実に生じるはずないのだが。この場にいる全員が同じ幻聴を耳にしたのではないか。早い話、両者は正面衝突。条件次第では頭蓋骨がごっつんこ、悶絶不可避だったけど、幸か不幸か難は逃れていた。
無駄にぜい肉が詰まってはち切れそうな朔先輩の胸が、エアバッグの役割を果たしたから。問題は当たり所。いくら柔らかいとはいえ、そんなものをいきなり顔面に押し付けられれば、ドッジボール的にはセーフでもいい気はしない。
どちらが一時停止を怠ったのかは明白。
「き、き、き、貴様ぁ〜…………」
反動で二、三歩よろめいた会長は、鼻先を押さえながら朔先輩を睨みつける。
──おっとと……見えなかったわ。
性悪な台詞で品位を下げるような真似はせず。
「ごめんあそばせ、ちっちゃくて可愛いお嬢さん?」
思慮深く笑いかける朔先輩。これが大人のやり方だぞ、とでも教示するように。
実際、朔先輩が女性にしては背が高いのを加味しても、それより頭一つ分以上小さい会長は──目測、百四十と少し。見たまんま大人と子供の差があった。
畏れ多くもその事実を指摘することは、明確な宣戦布告を意味しており。
「ちっちゃいって言うなぁ────!!」
十秒前まで王族みたいな振る舞いをしていた少女が激高。
「可愛いって言うなぁ──────!!」
気品や余裕をかなぐり捨てた二連発のシャウトに、
「落ち着いてください、会長」
冷静に諭すのが副会長。補佐役だけあって、癇癪の扱いにも慣れているのだろう。
「ボイスレコーダー、作動中です」
「……ふーっ……ふーっ……くふ〜〜〜〜っ!」
「感情のまま叫んだりしますと、その…………」
外見相応に幼く見えますとは口が裂けても言えない中、何かに納得するように息を吞んだ獅子原は僕の耳元へ口を寄せる。
「略して『ちっかわ』……だよね?」
「略さないでいい」
しかし、それに近い愛称が広まっていてもなんら不思議はない。
そう思えるほどちっちゃくて可愛い女の子が、我が校の生徒会長を務めていた。