異能アピールしないほうがカワイイ彼女たち2

一章 可愛い=Xの法則 ⑥

 正式には、朔先輩が何をやらかしたかなのだが──

 正直、心当たりが多すぎる。


「せめてなんの罪に問われているのかくらい教えてほしいよー」

「一理ある。そこんとこどうなんです、副会長?」

「順番が前後しましたね、申し訳ありません。実は……」

「待て、柊。私の口から説明しよう」


 凜とした声に目を向ければ、キープアウトのテープをくぐってくる生徒が一人。

 瞬間、生徒会メンバーたちは作業を中断し、一斉に彼女の方へ向き直った。


『会長、お疲れさまです!』


 重なった声は、敬礼こそしていなかったが軍隊を彷彿とさせる。

 空気が一変したのは肌を通して体感できた。塗り替えたというよりは調伏の類──あたかも悪しき怨霊を祓って隷属させるように。それほどの存在感。


「手を止めるな、続けろ」


 指示に従い、生徒会のメンバーは作業に戻る。一方で、僕は彼女から目を離せずにいた。真っ先に目を引くのは透明感を帯びた金髪──腰下まで届く長いプラチナブロンドが二つにまとめられている。同じ色のまつ毛に縁どられた青い瞳に、すっと通った鼻筋。それら全て異国の血が通っている証。母親が英国人なんだとか。


「ごきげんよう、文芸部の諸君」


 肩にかけている漆黒の外套はさながら夜空に溶け込む翼。

 ダン! と、踏み鳴らして僕たちの眼前へ舞い降りた彼女こそ、


「生徒会長の赤月カミラだ。よろしく頼む」


 かくして親玉(?)がお出まし。ボスなのかドンなのか棟梁なのか。とにかくそういう名称が浮かんでしまうのは、女子高生らしからぬ語調が要因。よくいえば格式高く、ともすれば尊大にも聞こえ、俗っぽく言えば「かっこつけた喋り方だな」という。

 まさしく怪異の王たるヴァンパイア。少なからず身構える僕の傍らで、


「ふぁ、ふぁ〜〜〜〜……っ」


 甲子園のサイレンじみた何か。とんでもなく間の抜けた声を発する女が一人。

 獅子原は有名人を前に感動を抑えきれないらしい。嗚呼、こんなミーハーにはなりたくない。全力で反面教師にする僕は喉の調子を整える。


「あー、どうも初めまして。僕は──」

「自己紹介なら不要」


 会長はコバエでも払うように手をヒラヒラ。


「二年A組の古森翼だな。安心しろ、君のことならよ──────く知っているぞ」


 意味深長な台詞と共に睨まれる。初対面のはずだが。


「どういう意味でしょうか?」

「こちらの話だ」


 どちらの話だ。言うまでもなく醜聞や悪評なので気にしても仕方ないか。


「そっちは獅子原真音でよかったかな?」


 あらあらまあまあ、とその瞬間にミーハー日本代表が甘い息を漏らす。名前を認知されているのが(もしくは呼ばれたのが)尊いしんどいもうマジ無理って反応だったけど。口角が一ミリも上がっていない会長がファンサービスを狙ったとは思えず。


「単刀直入に聞こう。TCG部の人間から強奪したというブツは、どこに隠してある?」


 間合いを詰めた彼女は『ネタは上がってるんだぞ?』とでも言いたげに僕の目を覗き込む。厳然たる威圧、それこそ取り調べをするベテラン刑事だったが。


「強奪……穏やかじゃないですね」


 他人事みたいにうそぶけるのは備えが万全だったから。


「何があったのか、聞かせてもらっても?」

「生徒会の投書箱に匿名で告発が寄せられてな。斎院朔夜が、悪質な賭け勝負によって高額カードを巻き上げたのだという。彼女の単独犯という線で捜査を進めているが……庇い立てするのなら、君たちも同罪になり得るぞ?」

「滅相もない。可能な限りご協力させていただきます」

「殊勝な心掛けだ。で、肝心の斎院朔夜はどこにいる?」

「さあ? 自由人なのでなんとも」

「…………」


 噓ではない。しかし、真偽とは別の何かを見極めるように半眼を作る会長。必然的に顔が近くって、小心者の僕は気圧される──なんてことは全然なく。

 ──会長に対して『可愛い』って言うの禁句だから。

 駄目だ、変なこと考えるな。フラッシュバックした舞浜の台詞を振り払っていたら。


「会長、よろしいですか?」


 話しかけてきたのは副会長。


「一通り調べ終えましたが、該当の品は見当たらないようです。残っているのは……」


 眼鏡のブリッジを押し上げた彼女が視線を向ける先には、施錠済みのロッカー。


「悪いがあそこにあるロッカー、改めさせてもらっても?」


 お目当ての証拠物件は悪質洗浄済みだが、芋づる式に余罪を追及されかねない。


「鍵が手元にないんです。部長が持ち歩いて……いや、職員室に保管してあるんだっけな?」

「はっきりしろ」

「はっきりとはわからないって言ってるんです」

「……なるほど」


 暖簾に腕押し、僕のそれが意図的なものだと会長は確信したのだろう。


「協力するというのは口だけのようだな」

「お言葉を返すようですが。ろくに訳も聞かされないまま家捜しされて、一方的に犯罪者みたいな扱いを受けて、まともな協力が得られると本気でお思いですか?」


 喧嘩を売るつもりはないけど、最低限の主張は通さねば対等な交渉は望めない。果たしてこの部活(ひいては朔先輩)に、そこまでして守る価値があるのか。答えに窮するので、なんだかんだ僕も権威に逆らいたいお年頃だったという理由にしておこう。

 空気がピリつく。図らずも生徒会長とバチバチの展開だったが。


「あの〜…………カイチョー、カイチョー?」


 もはや九官鳥のさえずり。惚気切った獅子原が持ってきたのは竹編みのバスケット。お茶請けがたんまり入っているそれを貢物のように会長へ捧げて。


「食べます、これ?」


 ニヤケ面は「全部どうぞ!」と口ほどにものを言っていた。


「いらん」

「そんなこと言わないでー。甘いのしょっぱいの酸っぱいの色々あるんで……へへへっ」

「結構」


 仏頂面の会長にも臆することなく、餌付け(?)を続行する獅子原。放っておいたら大爆発しそうなので。


「おい……おいって、ハッピーセット。こっち来い」

「うわっ、なに?」


 怖いもの知らずを腕ごと引き寄せて隔離。


「明らかに嫌がってるし、下手すりゃ事案な絵面だぞ」

「えっ! うそ、ごめーん……でもでも、全身全霊で甘やかしたくなっちゃうじゃん、よしよしって頭撫でたくなっちゃうじゃん」

「シーッ! 黙れ! いいかぁ? 韓非子って思想書によれば……」


 人には誰しも『触れられたくない領域』がある。

 それこそ竜や虎を相手取ったときのように敬意を払う──つもりだったが。


「そーか、そーかぁ……本当によく理解できたぞ」


 腫れ物に触るようなその態度が、まさしく会長の逆鱗に触れてしまったらしい。ふっふっふっふ、と肩を揺らすのは笑いであり怒りの発散。


「揃いも揃って年輩者をコケにするのが得意らしいな」

「いやいや、僕は全然……撫でたいとかほざいてるのこいつだけです」

「コラー! 仲間を売るなー!」

「下っ端がこれなら束ねる長の程度も知れる……大体にして、どうだ? 己の住処に土足で踏み入られているこの惨状においてなお、吞気に姿をくらましているだなんて。人の上に立つ者の行いとは到底思えない」


 あまりに的確すぎる批評で頷きそうになっていたとき。


「あーら、嫌だわ〜。騒がしいと思ったら、うちの部室だったなんて……なにこれ、邪魔ね」


 べりべりべり、入り口に張られていたテープをむしり取って現れたのは、濡れ羽色の髪をなびかせる長軀の女。渦中の朔先輩お出ましだった。



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