異能アピールしないほうがカワイイ彼女たち2
エピローグ あなたの特別になりたいから
六月の、第三日曜日。
その日がなんの記念日かパッと答えられる人は、あまり多くないように思うのだが。
街に繰り出してみれば否が応でも答えを知れる。どこの店にも『ハッピー・ファザーズ・デー』の文字が躍っている通り、今日は父の日だった。
「ふぅん。どこもかしこも、在庫処分みたいに必死で宣伝してるわねぇ」
上下共にジャージ──いつも通り機能性重視の服に身を包んだ朔先輩は、ただでさえ人目を引いているのに明け透けな暴言を吐く。誘っておいてなんだけど、やっぱり隣を歩きたいタイプの人じゃないよなぁと再認識。
「あんまり失礼なこと言わないでください……まあ、当日にプレゼントを買い求める人間は少数派なので、在庫処分はあながち間違ってない気もする」
「でしょ。っていうか、父の日って何を贈るのが王道なの?」
「日頃から使う物がいいんでしょうね。それでも財布とかネクタイとかハンカチとか選択肢は豊富……母の日なら花って相場は決まってるのに」
「なるほどね。そういう面倒臭さが要因で、母の日よりも影が薄いわけだ」
否定できないかもしれないが、僕の場合は母の日すら毎年忘れているので、序列的には平等である。親不孝者だと誹りを受けても仕方ない。
とりあえず今言った候補が一通り置いてありそうな、紳士服店に僕らは入った。
適当なネクタイを手に取って、柄を確認していると。
「そういえば、どうして急に父の日のプレゼントなんか?」
ストライプのネクタイを持った朔先輩が尋ねてくる。『なんか』って言い方はないけど、確かに僕は今まで一回も父の日のプレゼントなんか買ったことがなくって。
「文化祭というか、ミスコンを経て。家族は大切にした方がいいなと僕なりに思ったんです」
「へーえ。私の最強無敵な弁論に感化されてしまったわけね?」
「負けたんだから最強無敵を自負するのはどうかと」
「負けてないわ。日本にロリコンが多すぎるだけ」
「ずるい言い訳を見つけたなー」
試合に負けて勝負に勝ったのは事実なので、彼女の思惑通りではあるのだろうが。
「知らなかったですよ、僕」
「え?」
「朔先輩が一人暮らしだとか、そういうの」
「あら、信じちゃったの? あんなのぜーんぶ噓っぱちに決まってるでしょ」
「ま、困ったことがあったらなんでも言ってください。お金以外の相談なら乗ります」
「どういう結論よ」
朔先輩は不思議そうに笑った。正直、噓だという言葉が噓なのは僕にもわかったけど。
あえて追及はしないでおいた。たぶん自分はまだその領域には達していない。人の問題に首を突っ込むよりも先に、やらなければいけないことがあるはずだから。
「そうだ。実は今日、予算が一万円ほどありまして」
「一万? だいぶ潤沢ね」
「はい。なので、もう一つ買いたい物が……このあと、花屋に寄ってもいいですか?」
一か月以上遅れてしまったけど、元々このお金はそのために渡されたもの。
「花屋……そう。いいことね?」
誰に買うかは言わなくてもわかったことだろう。朔先輩は母親を大切にしているから。
「気合入れて行きなさい。あなたにとってのラスボスなんだから、手強いわよ」
「そうですね。手強い。ただ……」
「ただ?」
「なんでもないです」
「なーによ、ニヤニヤしちゃって。変な翼くん!」
ただ──もう一人の裏ボスみたいな人と比べたら、幾らか与しやすいと思ったんだ。
僕にとっての最終目標はやっぱり、朔先輩以外に考えられないから。
この人の特別になれるよう、頑張ろう。
何が真実の愛かなんてまだわからないけれど、いつかわかる日が来るのを信じて。