錆喰いビスコ

15 ④

「行けいッ!」しろひげろうは一声さけぶと、えんじんのごとき身軽さで部屋中をび、ひつちゆうの矢をばらまいて、つづける黒スーツ達をかたぱしからそうしていく。

 ミロはさけぶビスコをかかえて建物を飛び出し、吹雪ふぶきの中を必死でけた。

 ジャビのらした黒スーツ達は、遠くげてゆくミロへ向けてボウガンを構え、いつせいはなつ。うち、一本の矢がビスコをとらえ、そのかたぐちさった。傷口はみるみるうちに、バキバキと音を立ててさびへと変わってゆく。

 ミロはビスコをかかなおして、なおも必死でげた。一本、二本と、矢が自分の背中を突き破るのを感じても、痛いと思わなかった。けつるいすら流しながら、必死で歯を食いしばり、雪をみしめてつづける。

 そこへ、大きなオレンジ色のこうかくが、雪をくように飛び出すと、両ハサミを金づちのようにして、思い切り雪原へたたきつけた。黒スーツ達がしようげきで吹っ飛ぶ中、息も絶え絶えのミロが、ビスコをそのくらへ乗せ、自分も、最後の力をしぼってそこへつかまった。主人二人の重みを背中に受けてころいをさとったアクタガワは、身体にすがり付いてくる黒スーツをはらいのけて、雪原をす。


「……ビス、コ……矢が……うでに……」

「バカろう。お前の方がひどい。あんまり、しやべるな……今、気付けをしてやるからな」


 怪我けがは、ビスコのそれももちろんたいがいであったが、ミロの背中はもはや、矢ダルマ同然であった。幸いにしてさほどりよくのないボウガンのはしかし、ミロの白いはだをじくじくとむしばみ、むごはだに変えているにちがいなかった。


「ほら、ハッカダケだ。むなよ。ゆっくりめ……」

「ビスコ……」

「どうした……痛いか?」


 ビスコは吹雪ふぶきの中で、雪を積もらせてれる、空色のかみはらってやった。

 ミロは、こおったくちびるを動かして、かろうじて、


「死なないで……」


 と、言った。

 走ってゆくアクタガワの上で、ビスコは少し笑った。理由の知れぬなみだが、わずかにじりからこぼれた。夜は暗く、地平線に陽がのぼるまで、もう少し時間がかかりそうだった。




刊行シリーズ

錆喰いビスコ10 約束の書影
錆喰いビスコ9 我の星、梵の星の書影
錆喰いビスコ8 神子煌誕!うなれ斉天大菌姫の書影
錆喰いビスコ7 瞬火剣・猫の爪の書影
錆喰いビスコ6 奇跡のファイナルカットの書影
錆喰いビスコ5 大海獣北海道、食陸すの書影
錆喰いビスコ4 業花の帝冠、花束の剣の書影
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