序章 凡人転生
俺の人生を一言で表すのであれば、つまらないスタンプラリーだと思う。
金持ちの家に生まれたわけでも、かといって食うに困るような
小、中、高校と進み、
そこからは同じ生活を
平日は会社まで歩いて通って、土日は家で
人に言えるような
配信を見たり、ソシャゲをしたりはする。けど、金が無いから投げ銭も課金もしたことがない。だから、それを
人生に何か大きな変化があるわけでもなく、自分からイベントに飛び込むなんてこともない。
だから俺の人生は同じ形のスタンプを毎日毎日押し続けるだけの、つまらないスタンプラリーなのだ。
「あー。彼女ほし~」
大して
本当に口先だけのものだ。
出会いのある場所に自分から足を運んだりはしたくないし、外に出る
結局のところ、俺はこの代わり
「飯、買わなきゃな」
スマホから視線を外して窓の外を見ると、夕暮れの日差しがちょうど差し込んでいた。
コンビニ飯は何も考えなくて良いから楽だ。
買うものはいつも決まっている。五百五十円のラーメンと、形だけでも健康に気を使おうと思って合わせて買う野菜ジュースのセット。
「……なんもねぇな、俺の人生」
目を細めながら、そんなことを
何もないのは自分がそういう人生を望んでいるからで、それを良いと思っているからだ。
だから俺は、心の底から自分の人生に満足しているはずで、
「やめやめ。そんなこと考えたって意味ねぇわ」
俺は首を横に
ポケットに入れたスマホを取り出しながら、自分の
そう、意味など無い。もし本当に自分の人生に満足してないと分かったとして、俺は今の生活を変えるだろうか?
いや、絶対に変えるはずがない。このぬるま湯のような代わり
「……寒」
もう冬も近づいてきたからだろうか。日曜の夕方なのに
目の前に、不気味な男が立っていた。
『はっ、はっ……』
こんな寒いのにタンクトップ一枚しか着てなくて、ガリガリの
……んだよ、気味悪ぃな。
無関係だと言わんばかりにスマホに俺は視線を落とす。
こういうやつには関わらないのが一番だと、そう思って男を無視しようとしたのが……それが悪手だった。
『……はぁっ!』
不気味な男の、不気味な
それが俺の耳に届いた
「あぐ……っ」
声を出そうと思ったのに、口をついたのは変な音。
それが自分の声だと気がつくのと、俺が地面に
『……おまっ、お前だろ! 朝から晩までセール中なのは! 人間
男の声がガンガンと頭の中で
何を言っているのかさっぱり分からない。分かるはずもない。
痛みが俺の脳みそを焼く。
痛くて痛くて何も考えられない。なのに男はぎゃあぎゃあと
呼吸ができない。やり方を思い出せない。吸うのか、
目が回る。視界が黒くなっていく。胸からやけに温かいものが流れて、寒さが増す。
死ぬ。
「……しに、たく……ない」
死にたくない。
死にたくなんてない。
死にたくないのに、
「…………いやだ」
そして、俺の意識は
目を覚ますと、そこには木の
鼻先が冷えきっているのに、
ここは病院……だろうか?
だったら、どこだここ? さっきの男はどうなったんだ? というか、
いろんな疑問が
とりあえず
「あぇ」
頭が重すぎて上がらないのだ。しかも
なんだこれ。何が起こってるんだ。
とにもかくにも、自分の
「……うぇ?」
なんだ、と言おうとしたのに口が動かなかった。いや、それは正しくない。口が動かなかったんじゃなくて、舌が思うように動かせなかったのだ。まるで口の中に張り付いてしまったみたいに重たい。
そんな舌を
歯がないのだ。
あの男に
意味が分からない。何だ。何なんだこの
何もかも理解できない
「ふぎゃぁ! ふぎゃあ!」
俺がそうやって泣いていると、バタバタという安心感を覚える足音とともに部屋の中へと一人の女性が姿を現した。
だが、その背はあまりに高い。きっと俺の数倍はある。
そんな女の人はそっと俺の
「イツキ。お
そう言って、あやしはじめた。
俺も良い
「ああ、
とても、
胸の底にひびく女の人の声を聞きながら、俺はこの
小さくて、白い
そして何よりも、俺の名前とは一文字もかすっていない『イツキ』という名前。
考えられないが……考えたくもないのだが、俺はどうやら、赤ちゃんになったのだ。
「もうちょっとしたら、パパが帰ってくるからね」
「……んまぁ」
俺はパパ、と言ってみたのだが、やっぱり言葉にはならなかった。
聞こえてくるのは日本語だし、目の前にいる母親っぽい女の人は日本人だ。
どうも日本に生まれ直した……ぽい。だとしたら、俺の死体はどうなったんだろうか。通り
そう思って首を動かそうとしたのだが、これまた重たくて全く動かなかった。
なんでだ……? と、思ったが、家庭科の授業で習ったことを思い出して
そうだ。赤ちゃんのときは首が
仕方がないので目線だけ動かして部屋の中を見ているが……見える
さらに言えば
もしかしたら、俺はかなり金持ちの家に生まれ直したのかも知れない。
そう思うと、ほっとした。そもそも日本に生まれ直せた時点で幸運なのに、その中でも金持ちの家に生まれたのは……不幸中の幸いだ。
これで生まれ直して、すぐに死ぬことは無いだろう。
もし治安の悪い国とか、
もう死にたくない。
俺はもう死にたくないのだ。
包丁だか、ナイフだか知らないけど、あれを
あれから
そう思ってしまうほどあの痛みは
赤ちゃんになってしまったとはいえ、すぐに死ぬことはないと思うと
……赤ちゃんの
それに大人のときと
きっと母親が横にしてくれたんだろう。たったそれだけのことなのに、すごい安心感がある。
どんなことがあっても守ってくれるんだという、言葉に言い表せないくらいの
俺がそれに身を任せて
母親がぎゅっと手を合わせたのだ。まるで、何かに
「どうか無事に、三歳を
心の底から