1 夜のいざない⑥
「いやさ、あたしら二年になってから親睦会してなかったじゃん? 中間も終わったし、そろそろどっか遊びに行こうかなって」
「あ、僕たちも誘ってくれるの?」
「もちろん! 今のところカラオケが有力かなあ……どこか行きたいとこある?」
「僕もカラオケがいいな。
「おおっ、あたしの
女子たちが「え~またぁ~?」とブーイングをあげた。
そこでふと思う。
「もしかして、
「ヴっ」
「そりゃーもちろんさー。クラス全員で行けるのが理想だけどさー……」
「
「だって! 話しかけても『いいえ』と『今忙しいので』しか言わないんだよ!? イクラちゃんより語彙が少ねえ」
再び爆笑。でも俺は笑えなかった。
やはり学校における
「うぅうぅ、ノアちゃんにも参加してほしいんだけどなあ」
「
本当はスウェーデンではなく
むむむ、と
「じゃあ、
「
場に緊張が走った。
恐る恐る振り返ってみると、
ガタン! と
「の、ノアちゃん! あはは、いつからいたのー!? びっくりさせないでよもー」
「これを読んでください」
これは──折り畳まれたノートの切れ端?
「何これ?」
「こうするほうが効果的だとカルネが言ってました」
カルネ──あの
最初に沈黙を破ったのは
「
「なかった」
「
『昼休み、屋上で待ってます
……どうしてわざわざ爆弾を投下するのだろう?
あいつは目立ちたいのか? 想像力が欠如しているのか?
「きゃ────!!」
「な、なんでなんで!? あたしには素っ気ないのに!? なんで
「『なんか』って失礼じゃね……?」
「ノアちゃんに何をしたの、されたの!? 吐けよ
本人に聞いてほしかった。
俺が吐けるのは羞恥と諦めの
□
俺は
この世には
「無視するわけにもいかないよな……」
時間は矢のように過ぎ去り、あっという間に昼休みになってしまった。
俺は妙にドキドキした気分で屋上を目指す。背後から誰かがついてくる気配がしたが、気にしている余裕はなかった。どうせ野次馬根性を働かせた
四階からさらに階段を上がり、がこぉん…──と金属製の扉を開け放った。
うららかな日差しが差し込み、思わず目を細めてしまう。屋上はもともと開放されているため、お昼ご飯を食べたり勉強したりしている生徒がちらほら見られた。
その中でもひときわ異彩を放つ、純白の妖精。
「
「何の用だ?」
「ではさっそく──」
フェンスに手を添え、ゆっくりと振り返りながら言った。
「あなたを落としたいと思います」
「……落とす? ここから? 殺害予告?」
「ち、違います」
白い頰が
「あなたの心を落とすと決めたのです。ナイトログと
心なしか早口だ。何かを誤魔化すように。
「しかし現実問題として、強制的に
「どうやって?」
「恋愛的な意味で落とします。そうするのが一番だとカルネが言ってました。私はあなたのことを好きになろうと努力しますから、あなたも私のことを好きになってください」
「ごめん。発想が異次元すぎてついていけない……」
「あなたは私の愛刀です」
かんっ!!──背後の物陰で誰かが何かを落とした。
「わああ!」と悲鳴をあげたのは
「あなたは、どうしたら私のことを好きになってくれますか?」
「よく分からないが、お前はナイトログなんだろ? 人間とそういう関係になれるの?」
「はい。私は抵抗がないですし、そういうアベックもいたとお父様が言ってました」
「アベックてお前」
「それに最近の研究によると、ナイトログと人間には生物学的な差異はないそうです。
「生物学的に随分違うと思うけど……」
「ダメですか?」
「俺は猿とはつきあえない」
「あなたが猿です」
「ややこしい!」
「お願いです。私の刀になってください。あなたは私の初めての
「それが俺に執着する理由か。俺のことが好きってわけじゃないんだよな」
「
なんというか、話が面倒くさい方向にどんどん変化している。「妹さんの捜索に協力するので手を組みましょう」ならまだ分かるが、アベックとはいったいどういう了見だ。
俺は
「悪い。昨日も言ったが、そういう関係にはなれない」
「ど、どうしてですか? 私が無口で
「そうじゃない。そもそも俺は」
「──ノア様!! 敵が来ていますっ!!」
がさり!!
プランターの陰から赤髪のメイドが躍り出た。
その
「危ないっ」
「ぐへ!?」
そのまま
次の瞬間、それまで俺たちが立っていた場所に無数の
爆発した。
火薬による爆発ではない。それは漆黒のエネルギーの奔流だった。プランターが吹っ飛び、おぞましい黒煙が立ち上がる。生徒たちの生っぽい悲鳴が屋上にこだました。
「い、いったい何が……」
「
夜に咲く花のような香りが
俺を押し倒す形で
「足を
「だ、大丈夫か? くそ、俺が動けていれば──」
「はっはっはっは! お前が
野太い
驚いて見上げると、悲鳴をあげて戸惑う生徒たちの向こう、ペントハウスの上に奇妙な男が立っていた。
まるでヒーローショーに出てくる怪人のような。
それは明らかにナイトログだった。
男は屋上に飛び降りると、酔っ払いのような千鳥足で近づいてくる。