第二章 ドラゴンのドは同行者のド②

◆◇◆


「魔王軍第三都市、領都エヴィルグランデにようこそ! ここは四天王であられるライコ様が治める地! くれぐれも騒動などは起こさぬようにな! では、行って良し!」

「えーと、ありがとうございます?」

 仮の入場許可証を骸骨の兵士から受け取り、タツさんと共にエヴィルグランデという都市の中に入る。道中のリアルな風景にも驚いたけど、ここのNPCにも驚いた。受け答えがすごいスムーズで、まるでプレイヤーと話してるみたいなんだよ。

すごいね、NPCじゃないみたい」

「新世界をうたもんにしとるからなぁ。NPCひとつとってみても、他のゲームとは一線を画しとるわなぁ」

 タツさんとそんな感想を交わしながら、見上げるほど大きい巨大な黒門をくぐける。門には魔術的? もしくは魔法的? な意味でも持たせてあるのか、何やら意味ありげな彫刻が彼処かしこに刻まれており、時折、虹色のきらめきを放っていてれいだった。一応、スクショ撮っておこうっと、パシャ!

 そして、門から見える街並み!

 これもまた黒を基調にした街並みで、全体的に鋭い剣のようなイメージをした建物が多く建てられている。スペインのサ〇ラダ・ファミリア──、アレの規模を落として真っ黒に塗ったものが普通の家として建ち並んでいると想像すればわかりやすいかもしれない。

「魔王軍四天王の治める土地だからか知らんけど、いきなり活気のある街に辿たどいたなぁ」

 タツさんに言われて、改めて周囲を見渡してみると、結構な種類の魔物族が街をかつしている。二足歩行の蜥蜴とかげが武装していたり、紫色の皮膚をした牛とゴリラを掛け合わせた悪魔みたいなのが歩いていたりするし、ひとつ目の巨人なんかも片手でさかだるあおりながら歩いていたりする。むしろ、私のような人型が少ないのである。

 いや、異世界に来たって感じがするね! しかも、それを肌で感じられるのが素晴らしい!

 新世界をLIAは体験できるっていうキャッチコピーを見た時には、はいはいまたそういうキャッチコピーのVRMMORPGね、うそ松乙とか思っていたけど、これはまさに新世界だよ! 道のすなぼこり、巨体が起こす震動ひとつとってみても、リアルとしか思えないもん!

「まさに、人種の坩堝るつぼって感じやなぁ」

 タツさんも私が街の雰囲気に感じ入っていたことに気がついたのか、同じように街を眺めながらつぶやく。

「まぁ、人族じゃないんだけどね」

「せやなぁ」

 人の街だとエルフやドワーフがかつしてたりするのかな? それはそれで見てみたいかも。

「で? ヤマちゃんはどうするんや? ワイはこの後、チュートリアル受けに行くついでに、冒険者ギルドでギルドカードを発行してもらおうと思っとるんやけど」

「じゃあ、冒険者ギルドまでは一緒に行くよ。私もチュートリアルは受けないといけないし」

「ギルドカードの発行はえぇんか?」

「私は、商業ギルドの方で発行してもらうよ。生産職志望だし、そもそも、モンスター退治は私には難しそうだしね」

「そうかぁ? 慣れれば簡単やと思うけどなぁ」

 というわけで、タツさんと冒険者ギルドを目指す。

 ちなみに、現在は門のところで受け取った『仮の入場許可証』のおかげで身分が証明されており、街中をウロウロできるけど、早い内に身分証を作っておかないと、その内に入場許可証が失効して街から追い出されてしまうらしい。

 その身分証となり得るのが各ギルドの登録カード……通称、ギルドカードと呼ばれているものだ。

 一応、初回登録は無料で、誰でも登録可。

 ただ、各ギルドによってノルマが定められており、そのノルマを達成できないと、ギルドを退会、登録カードも失効してしまうといった仕組みらしい。

 そして、二度目の登録時には相応のほうしようせきもかかるとかなんとか。

 つまり、働かざる者食うべからずといった具合なんだろう。

 リアルでもバーチャルでも生きるということはなかなかにシンドイものらしいね。

「お、アレがそうやないか?」

 一枚の盾の前で剣が二本交差したマーク。

 うん。説明書に描いてあった冒険者ギルドのマークだね。

「ほな、ちょっくら行こか」

「そだねー。あ。チュートリアルも受付で頼まないといけないのかな? だったら、一緒に並ぼうよ、タツさん」

「せやな。ま、ヤマちゃんは間違って冒険者登録せんようにせんとな」

 冒険者登録をするともれなく冒険者ギルドのギルドカードが付いてくるので、私はここでは冒険者登録はしない。ちなみに、ギルドの多重登録については可能らしい。ただ、各ギルドごとにノルマが課されていて、負担が増えるのでオススメはしないというのがタツさんのアドバイスだ。

 というわけで、タツさんと一緒に受付に並び、チュートリアルを申し込む。

 おみの『冒険者登録に来たヒヨッコ共にイジワルな冒険者がからんでくる』みたいなイベントはなかった。LIAなら実装してると思ったのに……。

「かくなる上は、私が登録しに来た冒険者にからんじゃう?」

「そういうのは、商業ギルドでやってな?」

 冒険者ギルドに併設の酒場でグダグダとタツさんと過ごす。

 なんでも、チュートリアルは決まった時間にしか行われておらず、次のチュートリアルが始まるまで三十分ぐらいの時間がかかるらしい。その間は待ちぼうけである。

「タツさんは、チュートリアルは何をやるか知ってるの?」

「大したことないで。薬草見せられて、薬草を見分けられるようになったり、魔術の説明を受けて属性の解説とか受けたり、教官と戦って戦闘レベルを測ったりするだけや」

「超重要じゃん! 特に薬草関連!」

 タツさんとのおしやべりに興じていて、【鑑定】のスキルを取るのをすっかり忘れていたよ!

 それが、チュートリアルを受けるだけで薬草だけとはいえ、アイテムの見分けがつくようになるなんて……。生産職を目指す者にとっては神イベントかもしれないね。

「まぁ、冒険者になると、ポーションとかアホほど使うからなぁ。それぐらい自作しろっちゅうことやろな」

「それってつまりプレイヤーなら誰でも使えるワールドマーケットにポーションを流したらもうかるってこと?」

「序盤はもうかるやろな。せやけど、スキルとかもそろってくると回復手段も増えてくるし、ただのポーションやと売れなくなってくるんとちゃうか」

「なるほどねぇ。生産職としてやっていくために、【調合】とかも取っちゃおうかなぁ」

「そうやって色んな方面に手を伸ばしていって失敗すんねん」

 グダグダと話していたら三十分はあっという間に過ぎたので、タツさんと一緒にチュートリアルの会場に向かう。どうやら、最初のチュートリアルは座学らしく、冒険者ギルドの二階にある一室で行われるらしい。あらかじめ教えられていた部屋に入ると、そこには既に四人のプレイヤーがいた。

「あ──、やっほ~、タツ兄!」

「ん……? キタコやんけ!? なんでそこにおんねん!?」

「いや、キタコはやめてよ! ボクにはアイっていう名前があるんだからさぁ!」

 その中のプレイヤーの一人にタツさんが反応する。ん? 知り合いかな?

 それにしても、キタコかぁ。

 アシンメトリーの髪型だけ見れば、確かにげげげっのキタコって感じがする。

 それにしても──、

「タツ兄?」

「本物の妹とはちゃうで。例のバイトの時の後輩や」

 アルファテスターをわざとボカして告げてきたってことは、不特定多数の人間に吹聴する話ではないってことかな。逆に、そういった判断の中で私に打ち明けてくれたってことに、タツさんと仲良くなれたことを感じてニンマリとしてしまう。

「隣の美人さんは、タツ兄の彼女さん?」

「深い仲の人です」

「誤解招く言い方すんなや! 偶然、ここまで同道した整形美人さんや!」

 整形に違う意味を感じるんですけど? アバターとして、こねくり回してないって言ったよね?

「あのぉ、お知り合い同士で盛り上がっているところ、すみません。どうも全員着席してないとイベントが始まらないみたいなんで……そろそろ着席してもらえませんか?」

 控えめにそう言ってきたのは、ちょっと直視に堪えないゾンビの男の子だ。彼は変にからまれるのも嫌だったのか、低姿勢のまま頼むとそのままそそくさと自分の席へと戻っていく。

 そして、ゾンビの男の子の隣の席には、深紅のパーティードレスを着た黒髪ボブカットの女の子が座っており、かコチラをガン見してきていた。

 え? 何かにらまれるようなことやったかな、私?

 私が戸惑っていると──、


 ▼Merlinに【鑑定】されました。

 ▼【鑑定】に抵抗しました。

 ▼【バランス】が発動しました。

  【鑑定】をし返します。

 ▼【鑑定】に成功しました。


【名前】Merlin

【種族】レイス 【性別】♂ 【年齢】0歳

【LV】5 【SP】8

【HP】70/70 【MP】150/150

【物攻】2 【魔攻】20

【物防】8 【魔防】20

【体力】7 【びんしよう】11 【直感】10

【精神】15 【運命】3

【ユニークスキル】暗殺の刃

【種族スキル】物理無効

【コモンスキル】火魔術Lv2/闇魔術Lv1/鑑定Lv2/隠形Lv1


 部屋の一番隅に座っていたローブの男の子に【鑑定】を仕掛けられたみたい。

 ローブで顔を隠しながら、口元だけでニヤニヤと笑いながらコチラを見ている。

 ニヤニヤと笑っているところを見ると、自分が【鑑定】し返されていることにまでは気付いてないのかもしれない。

 それにしても、人の許可も得ずに【鑑定】をするのは、どのVRMMORPGでもマナー違反なんだけど? 彼はこのゲームが初めてのVRMMORPGだったりするのかな? それとも確信犯?

 私が変な顔をしていたからだろう。

 タツさんが、それに気付いていぶかしげな視線を送ってくる。

「なんや、どうした?」

「いや、いきなり【鑑定】を食らったんだけど、LIAでもコレはマナー違反だよね?」

「なんやと? どこのどいつや! そんな常識知らずなマネしたやつは!」

「別にいよ、タツさん。コッチの情報は抜かれなかったし、逆に相手の情報は抜かせてもらったから」

 私の言葉にローブの奥の薄ら笑いが凍る。

「だから気にしなくていいよ、マーリン君?」

 私がそう言うことで、部屋中の視線がローブの男に集まる。

 彼は何かを語ることなく、小さく舌打ちをすると沈黙を貫くようにうつむいて顔を隠してしまった。

刊行シリーズ

デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる3の書影
デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる2の書影
デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させるの書影