第1章 深窓の令嬢の夜の顔⑧
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この街はいいところだと思う。
中心部にJRといくつかの私鉄が交差するターミナル駅があり、そこに広がるショッピングモールをはじめとする商業施設に行けばたいていのものは手に入るし、たいていの娯楽はある。もっと都会に出たければそこから電車に乗ればいい。
住んでいる街の満足度ランキングがあれば、意外と上位にくるのではないだろうか。そんな地方都市だ。
普段もっぱらネットストアを利用しているという
「あの子かわいー」
「すごーい。モデルかな?」
僕の家を出たときはよかったのだが、駅が近づき、行き交う人が多くなるにつれ、そんな声が耳に届いてくるようになってきた。
「あ、あの、もしかしてわたし、目立ってます……?」
「目立ってるか目立ってないかで言えば、まぁ、目立ってるな」
先ほどの声は当然
もともと破格の美少女で、ただそこにいるだけでも
「気にするな。似合ってるから目立ってるんだ」
「そ、そうでしょうか……?」
「いつもコンビニには行ってるだろ」
「ですが……」
僕に言われただけですぐに胸を張れるほど
程なくして予想通りになった。
ショッピングモールのファッションフロアに入ってしまえば、周りにあるのは服ばかり。
そして、
「あ、これ、すごくいいです」
そのファッションフロアを歩いている最中、何か琴線に触れるものがあったのか、
ほかのアイテムやコーディネイトされたものを見るに、やはりここはギャル系ファッションを扱う店なのだろう。ただ、これ単体なら普通の服に見える。ということは、ギャル系ファッションというのは服を組み合わせた上で、何ならメイクやヘアスタイルまで含め、そこから漂う雰囲気の総称なのかもしれない。
「ここ、見ていきましょう」
と、そのときだった。
「こんにちはー」
「今日はどんなのを探してるんですか?」
「え? えっと……」
いきなり砕けた調子で話しかけてきた店員に
そこで店員が何かに気づいた。
「あ、その服、素敵ですね。すごくいいです! それに髪がきれい。こういう明るい色だといろんな服に合っていいですよね」
戸惑う
どうやらばっちりコーディネイトした
「え、ええ、まぁ……」
だが、残念ながら店員の予想は外れていた。
「何かSNSやってます? やってないならぜひやりましょう。服やコーデの紹介に自撮りを載せたりして。絶対人気でますよ。よかったら連絡先──」
「すみません」
仕方がないので僕が割って入る。
「商品を見せてもらっても? 聞きたいことがあれば呼びますので」
「あ、そうですね。わかりました。何でも聞いてくださいね」
店員は笑顔で離れていった。おそらく彼女はちょっとはりきりすぎたくらいの気持ちで、
「す、すみません。
「いいよ、別に。ほら、好きに見るといい」
謝る
「あ、はい……」
そうは言ったものの
「もう出ましょう。
そして、結局そそくさとこの店から退散したのだった。
つまるところ、服が変わっても
§§§
その後も
僕たちは気分転換に一度ショッピングモールの外に出る。
「
表には広場のような場所があり、その周りにいくつかの店があった。コーヒースタンド、ソフトクリーム屋、ホットサンドの店、などなど。その中にクレープを扱う店もある。
「え? あ、いいですね」
沈んだ顔をしていた
彼女がそう答えたことで、僕たちはそちらに足を向けた。
「いらっしゃいませー。どれにしましょう?」
店員の明るい声が僕らを迎える。
「僕は後でいいよ」
「じゃ、じゃあ……」
と、彼女は店舗のあちこちに貼られたクレープの写真に目を向ける。
「わたしはこれを」
やがてそう言って注文したのは、フルーツやらアイスクリームやらが載った派手なクレープだった。
「ありがとうございまーす」
能天気なお礼の言葉とともに値段が告げられる。確認した素振りはないので、すべての商品の価格を覚えているのだろう。僕は
「
「いいよ。たいした値段じゃない」
僕はお釣りを受け取りながら答える。こうして千円札一枚でお釣りが返ってくるのだから、たかがしれている。クレープひとつにその値段が妥当なのかは知らないが。
「でも……」
「お待たせしましたー」
まだ何か言おうとした
「じゃ、じゃあ、いただきます……」
差し出されたクレープをいつまでもそのままにはしておけず、
続けて今度は僕が、先ほどのお釣りに少し小銭を足してオーソドックスな生クリームとカスタード入りのクレープを買った。見た目はごくありふれた三角形に近いやつだ。それに紙が巻かれている。
僕たちは空いているベンチに移動した。