一方的運命の出会い ④

───● バスケ部JCは意識する ●○●



 私はバスケットボールが好き。

 元々身体からだを動かすのが好きだったし、ボールがゴールに入った時のスパッっていう音が気持ちよくって、すぐに私はこのスポーツに夢中になった。

 ──けど、少し夢中になりすぎちゃったのかもしれない。

っちお疲れ~私帰るね~」

「あ、うん! ばいばい!」

 小学校の体育館。

 春休みなこともあって、今の時期は卒業生である私達に自由に開放してくれている。それならばと、友達とバスケをしていたけど……。

 皆昼過ぎには帰る感じに。

(仕方ないよね)

 本当はもう少し練習したかったけど、皆に合わせるのも大事だから。

 私もしぶしぶ帰り支度を整えた。


「えっ! りかって、しょうや君と付き合うことになったの!?」

「卒業式に告白したらOKもらえちゃって~!」

 帰り道、皆は男子との恋愛話で大盛り上がりだった。

「え? でもしょうや君ってすずかと付き合ってなかったっけ?」

「別れたんじゃない? まー最悪別れてなくてもいっかなーって感じだけど!」

 恋をする、告白する、付き合う、恋人同士になる。

 その事自体に憧れはあれど、私にはそうなりたいと思う相手がいない。

 クラスにもバスケ部にも男子自体はいるけれど、全然魅力を感じない。

「……? なにボケっとしてるのよ。あなたは誰にも告白しなかったの?」

「え? 私? うーん、好きな人も、いないから……」

 本当のこと。

 同級生の男子は、皆子供だし、なのになんか上から目線が多くて、苦手……。

ったら本当にバスケバカなんだから~」

「すごいよね、私もちろんバスケしたかったからバスケ部入ったけど、正直言うと男子狙いだったところもあるし」

「それ言っちゃう? まあ私も多少は期待してたけど!」

 バスケは、男子もやる人が一定数いるスポーツ。

 他クラスの男子との交流を狙って、バスケ部に入る人がいる……というのを聞いてとても驚いた。

 でも、私はシンプルにバスケがしたかったし、皆には言わなかったけど試合にももっと勝ちたかった。

 そんな性格なのを知られてるから、どうせ私にこの手の話題は振られない……そう思っていると。

「でもねーはバスケバカに見せかけて、実はむっつりだから」

 爆弾が投下された。

「なっ……! ち、違うよ!?」

「隠さなくていいよ~がむっつりなの皆知ってるから」

「そ、そんなことないよ! 普通! 普通だってば!」

 周りを見渡せば、うんうんとうなずく友人達……。え?! んでそんな皆知ってるよみたいな雰囲気出してるの!?

「え~? だって授業中えっちな本読んでニヤニヤしてるじゃん」

「!?」

「ねーそういえばの家遊びに行った時、ベッドの下になんか怪しいものが」

「わーわー! やめて! 本当に!」

 頭が沸騰しそう!

 私だって女の子だし、男の子に興味くらいはそりゃあるよ!

「こりゃむっつりですわ」

「むっつりっちだね」

「やめてよもー……!」

 人並みだよ人並み!


「じゃあねー!」

「また中学校でねー!」

 友達に別れを告げる。

 だいたいの友達は同じ地元の中学校に行くから、卒業しても離れ離れにはならない。

「うーん……」

 手を振った後、その右手を開いたり閉じたり。

 正直まだ、動き足りないんだよね。そう思って空を見上げれば、まだ青空がまぶしいくらいに広がっていて。

「公園、行こうかな」

 私はそのまま、よく行く近所のバスケゴールがある公園に向かうことにした。


 ダム、ダム、ダム。

 バスケットボールが地面を跳ねた時に鳴る音が、好きだった。

 けど、まだ私が目的地についていないのにこの音が聞こえてきたということは……先客がいるということ。

(この時間に人がいるの珍しいな……)

 先客がいるとわかったからって、おずおずと帰るわけにもいかない。

 2人くらいであれば、代わる代わるシュートも打てるし、何も問題はない。そう思って、足を進めると。

 バスケをしている人の様子が見えてくる。

「……男の、人?」

 バスケをしていたのは、男の人だった。

 おそらく、高校生か大学生くらい。

 存在自体は、そこまで珍しくない。けど男の人が1人で練習している、という状況は、珍しいかも……?

 コートの近くまできて、顔が見えるくらいの距離まできた。そして……私は人生で一番の衝撃を受けた。

「ふっ……!」

 ドリブルが速い。手に吸い付くかのようなハンドリング。クロスオーバー、バックビハインド。私が習得したい技術の数々。

 そしてその後、ゴールに風のように向かって行き……。

「よっ、と」

 レイアップシュート。それも前からじゃなく、ディフェンスがいた想定で裏からの、バックレイアップ。

「……!」

 思わず目を奪われた。

 いプレーは動画とかで見てきた。

 けれど、全然違う。男の人が、ここまで華麗にプレーするのを目の前で見るのが、初めてだったから。

 カッコ良い、と素直にそう思った。

「ん……?」

 目が合った。

 顔立ちも整ってて、れいなお兄さんだった。急に、胸がどきどきする。

「あ、僕もう帰るんで、どーぞ使ってください!」

「……え? あっ、はい、ありがとうございます……」

 もう帰っちゃうの!?

 はっ、私が来たからか。こんなボール小脇に抱えて突っ立ってたら、そりゃバスケしにきたってわかるよね。

 そうしている間にも、お兄さんは自分のボールをリュックにしまって、帰り支度を整えている。

 なにか、なにか声をかけたい。

 今を逃したら、二度とチャンスなんてこないかもしれない!……一度でいいから、話してみたい……!

「あ、あの!」

「……?」

 お兄さんがこちらを向いた。

 ……でも、なんて声をかけたら?

 カッコ良かったです? いやそんなこと言ったら引かれるに決まってる!

 連絡先教えてください? 下心丸出しだよそんなの!

 私と一緒にバスケしてください? いやいや初対面でそれは無理があるよ~!

「な、なんでもないです……」

「? そう? じゃあ俺、帰りますね!」

 ああ……やっちゃった。

 ちょっとお話ししたかったのに……。

 お兄さんはどんどんと離れていって、やがて見えなくなった。コートに残されたのは私1人。

 急激にった身体からだが、冷めていくのがわかる。

 とくん、とくん、と自分の心臓が鳴っている。

 カッコ良かった。

 けど、それだけじゃない。あの人のもつ雰囲気が、声が、全て自分に突き刺さったような感覚。

「なんで……声かけられなかったんだろ……私のバカ」

 自分の無力さを呪いながら、ぽつりと私はつぶやいた。



 でも私は当然のように諦めなかった。

 諦められるわけないよね! 私はまえ、諦めの悪い女なんだから!

 今日こそあのカッコ良いお兄さんに会うんだ!

「じゃ、私帰るね!」

「え!? ちょっと今日部活説明会があるって!」

「どうせバスケ部だからいいや!」

 あれから私は、時間の許す限りあの公園に行っていた。

 会えたのは午後3時過ぎくらい。既に結構練習していたようだったし、もう少し早めに行けば会える可能性が高い!

 あれから毎日行っているけどあのお兄さんに会えてはいない。

 だけど今日はあの会った日と同じ金曜日だから、確率としては高いはず!

どうしちゃったの最近?」

「アイドルのおっかけでもはじめた?」

 クラスメイトからあらぬ疑いをかけられているけど関係ない。

 なにせ今私は忙しいから!


「いた……!」

 時刻は14時半。

 ついに……ついにあのお兄さんと再会することができた!

 もう会えない可能性だって十分あった。あの時が遠くから来ててたまたま寄っただけとかだったらどうしようかと思った……。

 あの時と変わらないフットワーク。

 シュートフォームも、とてもれい

 やっぱりカッコ良いなあ……。

 私は意を決して、コート近くのベンチへと向かう。すると、練習中だったお兄さんがこちらに気付いた。

「あれ、たしかこの前の……」

 どくん、と心臓が跳ねたのがわかる。

 うそ、覚えてくれている? あんな一瞬だったのに?

 そんなはずはないと思いながらも、覚えてくれていたうれしさでもう既に顔が焼けるように熱い。

 今日こそは! 今日こそはせめて連絡先を、聞かないと……!

 この1週間、お兄さんを探しながらも、もう会えないんじゃないかってすごく不安だった。と、いうか会えない可能性の方が高いよねってわかってはいても、諦めたくなかった。

 もう会えないかもしれないというあの恐怖を、感じたくない!

「あ、あの……!」

 声を絞り出す。

 なにか、なにか言わないと。

「私、元々よく、ここで練習、してて」

「へえ! そうだったんだ」

 あ、あれ? なんか全然違う事言ってない?

 一緒にバスケがしてみたい。だから連絡先を……あーでもこれやっぱナンパになっちゃうのかな? 通報とか、されちゃうのかな?

 どうしよう、なんて言えば……。

「だから、私もここで、練習、したくて」

「そっかそっか! ごめんね、そしたら俺もう帰るからさ!」

「えっ、そうじゃ、なくて!」

 いけない、大きな声が出ちゃった。でも前と同じあやまちは繰り返したくない……!

 お兄さんもびっくりしてる……。早く誤解を、解かないと。

「あ、あの、私と……」

 言わなきゃ。ちゃんと伝えなきゃ……! いつの間にかお兄さんは少しだけかがむようにして、私に視線を合わせてくれている。私の話を、聞いてくれている。

 一緒に、バスケをって言わなきゃ、言わなきゃ……!

 一気に、息を吸い込んだ。

「私と! 勝負してください!」

「ええ!?」


 1時間ほどって。

「いやあちゃんいな!? びっくりしたよ」

「ありがとうっ、ございます……」

 お兄さんに、まったくかなわなかった。プレーを見てたときからわかってはいたけれど、お兄さんはバスケがい。

 同級生の男の子には負けたことなかったけれど、お兄さんにはまるで歯が立たなかった。でもそれが、い。むしろそれでい。

 勝負はとても楽しかったし、勝負の合間に名前を聞けた。かたさとまさ。それがこのお兄さんの名前。

 それにもう一つ。

「はっはっは! でもまだ俺には勝てなかったなあ~。約束通り、ここで俺はまだ練習しても良いってことかな?」

 私が全力で挑んで、そして負ける限り、お兄さんはまたここに来てくれると約束できたから。ちょっといびつだけど、私とお兄さんだけの約束。

 そう思うと自然と胸がきゅっとする。

刊行シリーズ

男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?(3) ~激重感情な彼女たちが無自覚男子に翻弄されたら~の書影
男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?(2) ~激重感情な彼女たちが無自覚男子に翻弄されたら~の書影
男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った? ~激重感情な彼女たちが無自覚男子に翻弄されたら~の書影