少女星間漂流記 【このラノ2025記念SS】
著者:東崎惟子 イラスト:ソノフワン
籤の星
疫病神が宇宙を徘徊していた。
この神、とてつもなく恐ろしい力を持っている。近づいた者の一生分の運を奪ってしまうのだ。
運を奪われた者は、もう朽ちるしかない。どれだけ力が強くても、あるいは頭がよくても抗うことは決してできないのだ。一生分の幸運を失った者は、あっという間に死んでしまう。
疫病神はそろそろ腹が減っていた。こいつの主食は運なのだ。
ちょうどその時、進行方向に馬車の宇宙船を発見した。中には地球人の女の子が二人乗っているようだ。
よし、奴らの運を奪ってしまおう。
疫病神は宇宙船に近づく。そして突っ込む。この神には実体がないので、物体を通り抜けることができるのだ。そうして疫病神は、船内にいる二人から運を奪ってしまった。
「ふう、満腹満腹」
一生分の運×2を食べた疫病神は満足して去っていった。
「明けましておめでとう~!」
その日はたまたま正月だった。
馬車の中で、ワタリとリドリーは新年の到来を祝っていた。
二人とも愛らしい着物を身にまとい、おせち料理を食べていた。船内で新年の行事は、全部やるつもりだ。書初め、鏡開き、羽根つき、凧揚げ、etc……。凧揚げ等々は船内で行うのが難しかったので、色々と散らかって大変なことになった。
それらの行事に一段落ついた後、宇宙ネットワークで放送される新年の特番を二人でだらだら見ることにした。
甘酒を啜りながら、漫然とモニターを眺めているリドリーが言った。
「新年特番ってつまんないのになんか見ちゃうんだよな~」
「だよね~」
「あっ」
そこでリドリーが何かを思い出したような顔をした。
「そうだ。まだ大事なことやってなかった」
言って、リドリーは小物入れから六角形の木の箱を取り出した。上部に黒い穴が開いている。
「あ、おみくじ」
「そうだ。やはりこれがなくては新年は始まらないからな。だが、ただのおみくじじゃないよ。籤の星で買った霊験あらたかな籤だぞ」
「嘘くさ~」
「ホントだって! これで大吉引けたら一生分の運が与えられるんだって!」
おみくじ箱を二人でがしゃがしゃと振った。その後で逆さにする。すると占いの結果が書かれた木の棒が出てきた。二人とも「大吉」だった。
「嘘くせ~~~!!」と二人で笑った。
「こういうのってさ、大吉引いても恩恵感じたこと一度もないんだよな~」
「わかる~~おみくじなんてそんなもんだよね~」
言って、二人はおみくじをその辺に放った。もう関心はなくなった。くじなんてそんなものだ。引くときが一番楽しいのだ。
ちょうどそのとき、疫病神が馬車を通り抜けて一生分の運×2を奪っていったが、やはり二人は気付かなかった。