「インテリビレッジって言葉は知ってるかな?」
目の前の少女は座敷童の分際で偉そうにふんぞり返っている。音楽が恋しいのか、また人のスマホ勝手に使ってるし。真っ赤な浴衣が似合う黒髪の美人だからって調子に乗っているのかもしれん。そもそも童と呼ぶにはグラマラス過ぎるし、何故座敷童なのに散策好きなのだ。ある意味最悪の組み合わせじゃねえか。駄菓子屋へのお散歩で我が家を滅ぼす気かね妖怪さん。
「知ってるよ住んでんだから。田舎の高級ブランド化だろ。三ツ星ホテルや有名百貨店が提唱して広告代理店が喧伝。おかげで国土の三分の一が再開発され、第一次産業は様変わりした」
俺は面倒臭そうに答えた。……頼むから、溶ける前にこの棒アイスを食わせてくれ。
「和歌山の林業、秋田の稲作、山口の漁業。全国の田舎が形を変えたんだ。ここもその一つ。過疎化防止のIターン狙いってのは建前。こんな馬鹿高い土地誰が住むんだよ。実際にゃ安い輸入作物に勝てねえから住み分けしようってだけ。高価、安全、上質が売り文句だ」
「一億人の都市部人口集中も過疎じゃなくて田舎に入れないのが原因って言われているしね。エコと健康ブームが重なって今やこの納骨村も海外別荘地以上のトロフィーよ」
「特に牛肉や果物がスゲーよな。ブドウが一房三万円だぜ。当然、泥棒もおめめキラキラだ。だから見た目はド田舎でも最新セキュリティ網を張り巡らせ、よそから来る花粉にブランド遺伝子がレイプされないようにイオン防御装置も敷設してる。蜜蜂用ネットだけじゃ不安な訳だ」
「土、風、水、草、虫、魚。その辺にある全部に値札があるね。そこらの川の水が一リットル三〇〇円よ。走っている軽トラは電気自動車。あぜ道にはひまわりみたいに向きを変えるソーラーパネルがズラリ。農耕や漁獲の生産管理にAI機器も導入。買い物弱者問題には徹底した光通信網とネット通販で対処する。田園風景と最新鋭のテクノロジーが融合したコラボ地域ね」
「……おかげで村にはコンビニ一軒ないのが難点だがな。寂れた駅舎も時代遅れの駄菓子屋もかき氷固めたみたいなこの棒アイスも希少なブランド品って訳だ」
「ついでに、私みたいなのもね」
「熱中症なりかけで炭酸お供えしてもらっている最中に何故ドヤ顔なんだ夏バテ妖怪」
その内、学校の小さなプールとかに大量の座敷童が集まって、七人岬とか別種の妖怪にクラスチェンジするのではと心配してる。この全体的にアバウトな連中ならやりかねない。
「山姥や一つ目小僧ならともかく、座敷童は別に絶滅危惧種じゃねえ。方々の田舎で公園の鳩みたいに優遇された結果、全国的にインフレ気味でダブついてる。マンション借りたら前の住人の電子レンジがありましたって頻度で家にくっついてんじゃねえの?」
「あらまあ価値の分かってない人。最終的に高価な国産オカルトの輸出も視野に入れられているって話もあるのに」
「夜中に人様の布団を奪っていく以外に何もしない妖怪なんて誰が欲しがるんだ……?」
「ふっ。これでも座敷童は『月刊らぶりー妖怪』の人気投票ベスト一〇〇で一位の人気者よ」
「そんなグラビア雑誌が!? そ、そもそも一〇〇種もエントリー集められたのか……?」
「電子書籍の可能性って無限よね」
「また人のスマホで勝手に買ったな! こんなアバズレが堂々の一位とか信じらんねえ!」
「……、ほほう。いやあ、意外にいる所にはいるもんだよ。特に全国各地の田舎、インテリビレッジは各地を行き交う国産オカルトの給水ポイントとしても機能しているみたいだからね」
「?」
「例えばの話よ。さっきから君の背中に赤ん坊の格好をしたミステリアスジジィが張りついているんだけど……。これはもしや超メジャーなあの妖怪かな?」