ヘヴィーオブジェクト

序章

 結局、戦争はなくならなかった。

 地球という惑星のすみずみまで開発の手が及び、高出力のレーザーが気軽にシャトルを打ち上げ、一部の権力者達が月面に別荘を建てるような時代になっても、人と人の心のすきまでは手を加えられないらしい。いや、今の世の中ならデジタル化された『いやし』やら『スピリチュアル』やらを売り物にするサプリメント企業もめずらしくもないのだが、それでも結局、根本的なところで人は人と争うこうを、自分の精神からのぞく事はできずにいた。

 新兵器の登場によって戦争のルールが変わった事は、相変わらずな人類にとってはおざなりな救いになるのか、あるいはより一層の退化となげくべきか。

 そう、変化はあった。

 くだらない殺し合いに夢中になる彼らにも、変化はあった。

 超大型兵器───オブジェクト。

 本体だけで全長五〇メートル、ほうの長さまで含めればそれ以上のサイズを誇るこの新兵器は、登場と共にこれまであった戦争の常識をすべえてしまった。多くの兵隊は直接戦場で殺し合うのではなく、最強のオブジェクトを万全の状態で戦場へ投入させるために使う方がゆうだ、とまで言われるほどに。

 戦車や戦闘機といった、これまでの主役は全て『旧世代兵器』と呼ばれる事となった。

 並のじゆうほうだん、ミサイルなどは単なるまめでつぽうあつかいになった。

 それぐらい、超大型兵器オブジェクトの戦闘力はけたはずれていた。

 一番最初にその兵器を提示したとある島国は世界中から恐れられ、一四ヵ国からなる連合軍によって試作オブジェクトに対するしゆうそうこうげきを受ける事になり───その全てを退しりぞけた。戦闘しゆうばんには太平洋上で核攻撃を受けたわけだが、半身をえんてんのアイスのように溶かしながらも、残ったへいそうだけで連合艦隊を沈め続けた光景は歴史の教科書にもっている。

 いまだにその島国がオブジェクト開発の最先端にくんりんしているところからも、このオブジェクトがいかに強大な存在であるかが分かるだろう。

 当然ながら、オブジェクトは戦争の代名詞になった。

 では。

 それ以外の者は?



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