神様を決める教室

第五章 願い ②

キングは私がやります」


 ルシアは真っ先にそう言った。


「元々、私に戦う力はありませんから、丁度いいです」

「分かった」


 ルシアの素を知っているミコトとしても、その選択肢しかないと思っていた。

 キングを一番危険な役割と見るか、一番安全な役割と見るかは難しいところだが……。


「あとは猟師ハンター騎士ナイトについてだが、ライオットは猟師ハンターでいいか?」

「おう! 向いてると思うぜ!」

「よし。なら、もう一人の猟師ハンターは……」


 ウォーカーがミコトとナッシェを見て、しばらく考える。


「……俺が妥当か」


 多分、戦力にならないと判断されたな……とミコトは思ったが、黙っておいた。

 猟師ハンターは状況に応じて騎士ナイトの役割も担える。戦える人間が猟師ハンターになるべきなのは間違いない。


「ウォーカーは戦えんのか?」

「多少の経験はある。……心配するな、足は引っ張らん」


 見たところ嘘をついているわけではなさそうだ。


「よーし、お前ら! 準備はいいな!」


 ジャイルが獰猛な笑みを浮かべ、吠えた。

 見た目だけでも生粋の武闘派と分かる男だ。とにかく戦いや争いが大好きで、当事者になっても見物人になっても楽しめる性格なのだろう。


「それじゃあ――試験開始だッ!!」


 まるで祭りが始まったかのようなテンションで、ジャイルは告げた。

 瞬間、上空を飛んでいるドラゴンのうち、三匹が下りてきた。

 反射的に身構えるが、狙いは他のチームのキングのようだ。三匹のうち二匹は地面スレスレを飛ぶように生徒たちへ突進し、残る一匹は地面に両足をつけて暴れ出した。


「近づくと、圧巻だな……ッ!!」


 ウォーカーが冷や汗を垂らす。

 思ったよりも巨大だ。対峙するだけで震え上がりそうなプレッシャーを感じる。

 だが、その巨躯ゆえに制限もある。


(……グラウンドの広さには限りがある。全てのドラゴンが一斉に下りてくることはないな)


 それに、キングを狙うと言っても、全ての個体が餓えた肉食獣のように貪欲なわけではないらしい。空高くには様子見をしている個体もいくらかいる。


「ちっくしょ~、飛んでいる間は俺じゃ手出しできねぇ……!」


 化け物退治を生業にしていたらしいライオットだけは、ドラゴンを見ても特に怯んでいなかった。ただし攻撃手段がないため頭を悩ませている。


「ライオット、投擲は得意か?」

「ん? まあ槍とか斧ならよく投げてたぜ」

「よし。……(クラフトチェンバー)」


 ウォーカーの正面に巨大なルービックキューブが出現する。

 赤いブロックが淡く輝いた直後、カランと音を立てて槍が落ちた。ウォーカーはその槍を拾ってライオットへ投げ渡す。


「これを投げろ」

「うおお! 助かる!」

「数には限りがあるから無駄打ちはするなよ。それと、お前の能力はデメリットが大きいから使いどころに注意しろ」

「分かってるッ!!」


 ライオットはすぐさま槍を構え、


「おらァ!!」


 力強く投げた。

 投げた瞬間、ライオットの腕が霞んで消えた。尋常ではない膂力で放たれた槍は、視認が難しいほどの速度でドラゴンの翼に命中する。

 だがドラゴンの翼は、何事もなかったかのように槍を弾いた。


「……硬ぇな」

「……次はもっと鋭利な穂先を作るか」


 ライオットの力量に問題はない。恐らく武器の問題であることをウォーカーも気づいた。


「ていうか、今更だけど逆鱗ってどこにあるんだ?」

「顎の下だ。だがどのみち、こちらの手が届く範囲まで近づかなければ――」


 猟師ハンターたちが逆鱗について話していると、ドラゴンの一匹が接近してきた。


「ミコト!」

「大丈夫ッ!!」


 試験官ジャイルが説明した通り、狙いはキング

 ミコトは咄嗟にルシアの身体を抱え、大きく飛び退いた。


「ありがとうございます、ミコトさん」


 ルシアは淡々と礼を述べる。

 ドラゴンに体当たりされそうになっても、その目は恐怖を感じていない。


「……危険だが、やはりキングを餌にしてドラゴンを釣るしかないか」


 ウォーカーが複雑な面持ちでルシアを見た。

 ルシアを囮にする。それしか活路を見出せない。


「私はそれで構いません」


 ルシアが覚悟を示した。


「ウォーカー、朗報だぜ」

「朗報?」

「間近で見て分かった。……あのくらいなら多分、止められる」


 真剣な面持ちでライオットは告げた。

 作戦通り、まずはルシアが無防備に立ってドラゴンを釣る。するとすぐに、上空を飛んでいたドラゴンの一匹が接近してきた。

 そこでルシアが立ち去り、入れ替わるようにライオットが立ち塞がる。

 ドラゴンの突進を、ライオットは――受け止めた。


「今だ! 全員やれッ!!」

「ライオット、お前というやつは……っ!!」


 ドラゴンの突進を受け止めた衝撃で、ライオットは二十メートルほど押される。だがその両足は地面につけたままだ。

 亀裂の走った地面を飛び越え、ウォーカーだけでなく多くの生徒がドラゴンに向かった。

 起き上がろうとするドラゴンの手足を、ウォーカーが【クラフトトチェンバー】で生み出した棍棒で叩き落とす。


「逆鱗――貰うぞッ!!」


 オボロが剣を閃かせ、ドラゴンの逆鱗を抉り取った。

 オボロが逆鱗を手に取った直後、その身体がぼんやりと光り、グラウンドの外側へと一瞬で移動する。オボロとチームを組んでいた他四人の生徒も同時に移動した。


「合格者が出たぞー!」


 ジャイルが楽しそうに言う。


「先に取られてしまったな」

「ま、聖女様の方針的には、誰かの助けになったってことで問題ないんじゃねぇの?」


 ライオットの言葉にルシアは頷いた。

 前回の試験と同じように、今回もできるだけ多くの生徒を合格に導きたいのだろう。以前までなら一笑に付していたが、ルシアの呪いを知った今は笑い飛ばせない考えだ。


「ライオットさん。可能でしたら、また同じことを繰り返してもらえますか?」

「おう! このくらいなら、いくらでも――」


 ルシアのお願いに、ライオットは自信満々に頷こうとした。

 だがその時、逆鱗を奪われたドラゴンが雄叫びをあげる。


「な、なんでしょう? 色が変わって、身体も一回り大きくなったような……?」


 ドラゴンの変化を目の当たりにして、ナッシェがわなわなと震える。

 灰色だったドラゴンの鱗は赤く染まり、身体は更に大きくなった。爪と牙も伸び、心なしかその双眸はより獰猛になったように見える。


「……しまった、そういうことか」

「ウォーカー、何か心当たりあんのか!?」

「お前の世界にこの言葉があるかは知らないが……、文字通りな。ドラゴンという生き物は、逆鱗に触れられると激怒する習性がある」


 ドラゴンは怒りで我を忘れたように天に向かって吠え続けている。


「マジかよ。じゃあ、つまり……」

「ああ。……この試験、合格者が出る度にドラゴンが強化されていくぞ!」


 長引けば不利になる。そういう試験だと全員が気づいた。

 変異したドラゴンが、先程の仕返しと言わんばかりにルシアへ襲い掛かる。

 再びライオットがドラゴンの突進を受け止めようとするが――。


「やべ、受け止めきれねぇ……ッ!!」


 あまりの衝撃に、ライオットの両手両足が出血する。

 ドラゴンは一度空高くへ飛び上がり、またライオットへと近づいた。


「ライオット! 赤いドラゴンは受け止めるな! そいつはもう逆鱗がないから、止めたところで旨味がない!」