神様を決める教室
第五章 願い ①
ルシアの生前について聞いた、三日後。
『――試験が始まります。生徒の皆さんは速やかにグラウンドへ移動してください』
空から声が聞こえる。
丁度、最後の授業が終わってこれから放課後といったところだった。肩の力を抜いていた生徒たちが、気を引き締めてグラウンドへ向かう。
広大なグラウンドに全校生徒が並んでいた。今回の試験はクラスごとではなく、全生徒が同時に行うものらしい。
生徒たちの前に、筋骨隆々の男が現れる。
「試験官のジャイルだ。運動学の授業ぶりだな」
まだ一度しか受けていない運動学の授業の教師だった。
初回の授業では、いわゆるスポーツテストを行った。粛正者としてできるだけ警戒されたくなかったミコトは適当に手を抜いたが、恐らく他の生徒も全力を出していなかったので、あのテストで実力は測れない。
「さて、今回はちょいと厳しい試験になるぜ」
ジャイルは集まった全校生徒に向かって言う。
「今回は、強さの試験。その名も――《キングダム・ゲイザー》だ!!」
ジャイルが宣言した直後、頭上から巨大な影が下りた。
急に辺りが暗くなり、思わず空を仰ぎ見ると――。
「なんだ、あれは……!?」
「……ドラゴン?」
グラウンドの上空を、無数の化け物が飛んでいた。
鱗に覆われた体躯、巨大な翼と尾、鋭い爪と牙。
ドラゴン――地球では架空の存在として扱われていた、恐ろしい生物だ。
「ルールは五つ。それぞれ丁寧に説明していくぜ」
ジャイルは一本ずつ指を立てて説明を始める。
「①生徒は五人一組のチームになること。
②チーム内で役割を分担すること。役割は、
③
④ドラゴンは
⑤試験は前半と後半に別れ、切り替わるタイミングで
……以上だ。質問はないか?」
一通りの説明が終わると、ウォーカーが手を挙げた。
「試験中に死亡したら不合格扱いになるのでしょうか?」
「そうだ。③で説明した通り、逆鱗を奪った時点で生存しているメンバーが合格となる」
「ではもう一つ訊かせてください。
「問題ない。だが、ドラゴンから逆鱗を奪う役割は
となればやはり、できるだけ
「制限時間はないのでしょうか?」
「前半と後半でそれぞれ一時間ずつだ。この二時間内に逆鱗を取れなければ失格となる」
セシルの問いに対しジャイルは、そんなに長く粘れるものなら粘ってみろと言わんばかりの不敵に笑みを浮かべる。
前半と後半で条件が違う。そこも考慮しなければならない。
「禁止事項は、
その禁止事項を聞いて、ミコトの脳裏に浮かんでいた作戦の一つが潰れた。
多分、皆考えていただろう。……戦いの矢面に立つ
だが今の禁止事項があるなら、
リーン、と鈴の音が頭に響いた。
粛正者にだけ聞こえる警告の音。……この試験、ミコトも自力で合格しなければならない。
「じゃあ早速、チームを作ってくれ。五分後に試験を始めるぜ」
ジャイルがそう言った瞬間、生徒たちは急いでチームを作り出す。
他のクラスが焦る中、一組の生徒たちはまずルシアのもとへ集まった。
「全員、気兼ねない相手と組みましょう」
ルシアは端的に告げる。
「五分しかないなら相性を確かめている暇はありません。それに、いざとなれば複数のチームで協力すればいいだけです」
そう言ってルシアは、ジャイルの方を見る。
「ジャイル先生。チーム同士の協力は、禁止事項ではありませんよね?」
「ああ、その辺は自由だぜ」
となれば、ルシアの言う通り――いざという時はチームの垣根を越えて協力すればいい。
クラスメイトたちは次々とチームを作っていった。
「じゃあまず、この三人で決定だな」
ライオットが近づいてきて、ミコトとウォーカーの方を見る。
「賛成だ」
「二人とも、よろしく」
ウォーカーに続いてミコトも首を縦に振る。
「残り二人も早々に見つけておきたいところだが……」
ウォーカーが周りにいる生徒を見る。
今回の試験は全クラスが同時に行う。そのためチームメイトは別に他クラスの生徒でもいいが、できれば気心の知れた相手――聖女派で固めたい。
賢さの試験を経て、聖女派とまではいかないが、聖女派に入りたそうにしている他クラスの生徒がいることは知っている。しかし今、彼らを見極めて選ぶのは厳しい。
(王女派は……)
もう一つの派閥の様子を窺う。あちらも一箇所に固まっているため居場所はすぐ分かった。
人集りの中心で何やら指示を出している王女エレミアーノが、一瞬こちらを見る。ミコトはすぐに視線を逸らした。……なかなか勘が鋭いようだ。
その時、遠くからでも目立つ美しい銀髪の少女がこちらに歩いて来た。
「私をこのチームに入れてもらってもいいですか?」
聖女ルシアが、ミコトたち三人を見て言う。
「構わないが、俺たちでいいのか? ルシアなら他にも選び放題だろう?」
そんなウォーカーの問いに、ルシアはミコトを一瞥した。
ミコトは何も言わない。だが視線の意味は分かっていた。
――私を護ってくれるんですよね?
勿論だ。
小さく頷くと、ルシアは微かに安堵の笑みを零す。
「ここでお願いします。このチームが一番信頼できますから」
ルシアがチームに加わった。
「んじゃ、あと一人か。誰か余っている人を探さねぇとな」
試験の恐ろしさを体験しているからか、他の生徒たちも迅速にチームを組んでいた。
一人で行動している人物はいないか捜していると、ルシアが歩き出す。
「ナッシェさん。一人ですか?」
「あ、ルシアさん。えっと、そうです……」
どんな種類の言葉でも理解できる能力の持ち主、ナッシェという女子生徒がルシアを見る。
賢さの試験では活躍した彼女だが、皮肉にもその際に自らの能力が戦闘向きではないことを周りに知らしめてしまった。それゆえに彼女は今、一人でいるのだろう。……或いは、本人の大人しそうな性格が原因かもしれないが。
「では私たちのチームに入りませんか?」
「い、いいんですか!?」
ナッシェが目を輝かせた。
ミコトたち三人も顔を見合わせ、頷く。
「あ、ありがとうございます! その、頑張ります!」
チームが完成した。
ミコト、ライオット、ウォーカー、ルシア、ナッシェ。この五人で、今回の試験を乗り越えなければならない。
「メンバーが揃ったところで、役割分担に入りたいが――」