神様を決める教室

第四章 傷の共感 ⑪

 真っ直ぐパティを見て、ミコトは告げる。


「だからもしかすると、粛正者としては相応しくない行動もするかもしれない。……それでも僕の力になってくれるか?」


 そんなミコトの問いに、パティは少し驚いた様子を見せたが、すぐに頷いた。


「勿論です。以前もお伝えした通り、私は粛正者の味方ではなく、ミコト様の味方ですから」


 いつも気弱なパティが、真剣な表情を浮かべて言う。


「それに、ミコト様は少し勘違いしているかもしれません」

「勘違い?」


 訊き返すと、パティは頷いた。


「ミコト様は、粛正者がどうやって選ばれたと思いますか?」

「……さぁ。腕のいい殺人鬼を、適当に選んだんじゃないか?」


 表の生徒――神様候補として選ばれた生徒は、きっと生前に成し遂げた偉業の規模で選ばれているのだろう。でなければ国とか世界を救った英雄が、こんなたくさん集まるわけがない。

 一方、粛正者はどうやって選ばれたのか。

 それについて考えたことはなかったが、自分が選ばれた時点で大凡の予想はついていた。

 人を殺すことが精神的にも技術的にも得意で、隠密行動にも慣れている。そういう人間が粛正者に選ばれたのではと思ったが――。


「違います。そうじゃないんです」


 パティは首を横に振った。


「粛正者はただの殺人鬼ではありません。生前、誰よりも正義に餓えており……しかし道半ばでその手を汚してしまった、悲しい人たちなんです」


 痛ましい悲劇を語るかのように、パティは静かに言った。


「神様はちゃんと見ています。粛正者の皆様が、かつて抱えていた理想の尊さを。……だからミコト様はこの学園に招かれたんです。私たち天使もそれを知っているからこそ、粛正者の皆様をただの殺人鬼とは全く思っていません」


 確かに、ミコトには理想があった。

 だがそれは、他の粛正者たちも同じらしい。


「粛正者の中に、私利私欲で人を殺すような悪人は存在しません。それゆえに、皆さんには大きな裁量が与えられています。現行犯で粛正できるのもそれが理由です」


 アイゼンは言っていた。……粛正者は自らの信念に基づいて動くだけでいい。それがこの学園のためになるはずだと。

 あの言葉の意味が分かった。アイゼンは、粛正者たちの選ばれた理由を知っていたのだ。

 今……ようやくミコトは、粛正者の真の役割を理解した。

 粛正者には、違反者を処理するという使命がある。だが本当に期待されているのは、淡々と仕事をこなすことではなく、粛正者たちが独自に行動することで生まれるだ。

 この、英雄たちの集団という混沌とした環境に、を抱く粛正者という異分子を加え、より良い化学反応が起きることを期待している。それが神様の真意だ。


「だから、ミコト様はミコト様の正義を貫いてください。神様もそれを望んでいます」


 パティはこれを神様の信頼と解釈しているのか、純粋無垢な眼でミコトに言うが、ミコトからするとこれはそんな生易しいものではない。

 どうやら神様は、最初からこの学園を綺麗に運営するつもりはないようだ。試験とか授業とか、一見厳格な規則があるように臭わせておきながら、その裏では粛正者という異分子を利用して場を掻き乱すことを企てている。

 その結果起きる化学反応が必ずしも良いものとは限らないだろうに。……神様なんて仰々しいものを生み出すためには、そのくらい大胆な考えを持たなければならないのだろうか。


「……結局、掌の上か」


 自分が何を思おうと、神様の掌の上であることに嫌悪感を抱く。

 だが同時に安堵した。

 それは、つまり――何をやってもいいのだと神様から許されたようなものだった。


(……師匠)


 心の中で、最愛の女性のことを思い出す。

 僕は貴女を助けるために全てを捧げたかった。

 でも、どうやらこの世界には、護らなくちゃいけない人がいるみたいだ。


 正しい人になりたかった。

 でも、どうやら自分にはまだ難しいようだった。

 だから、代わりに護ることにした。


 どれだけ手を汚してもいい。

 葉月尊は、正しい人ルシアを護る。