神様を決める教室
第五章 願い ④
「ウォーカーの腕は能力で直せねぇのか?」
「直せるには直せるが、以前説明した通り俺の能力には資源が必要となる。残りの資源は、できれば
千切れた機械の腕を見つめたウォーカーは、その視線をミコトに移した。
「ミコト、得意な武器はあるか?」
「……ナイフかな」
大体なんでも使えるが、強いて言うならやはりナイフには思い入れがある。
「なら、これを使え」
そう言ってウォーカーは【クラフトトチェンバー】で灰色のナイフを作成した。
手に持って、実感する。――ただのナイフではない。羽のように軽く、けれど鋼よりも頑丈だ。そして何より、初めて握ったのに何故か手に馴染む。
「ナッシェは、何か作ってほしいものはあるか?」
「わ、私は戦い慣れていないので大丈夫です。……とにかく、ミコトさんの傍についてひたすらサポートしようと思います! な、何ができるか分かりませんが……!!」
この地獄絵図のような試験で、やる気を漲らせる胆力があるだけでも充分だ。
「ミコトさん」
ルシアがミコトを見つめる。
「任せました」
「ああ」
短い言葉のやり取りだった。
それだけで、全身に力が漲るような気がした。
己は今、成すべきことを成そうとしている。その実感が際限なき気力の源となった。
「後半――開始だッ!!」
ジャイルが試験再開の合図を告げる。
「ミコト! 赤い奴はマジで強ぇから、間違っても受け止めんな! 避け続けろ!」
治療中のライオットが叫ぶ。
無論そのつもりだが、
加えて――。
(……あまり、観察されても嫌だな)
粛正者としての活動に支障を来すだけでなく、聖女派の一員として本格的にルシアを護りたいと思った今、王女派も警戒対象に含まれていた。
この際だから、双方を対策するためにも手の内はほどほどに隠しておきたい。このままパッとしない人間を演じている限りは、粛正者として働く際は相手が勝手に油断してくれるし、王女派にもそれほど警戒されないだろうから動きやすいだろう。
『貴方って、なんていうか……パッとしないわね』
不意に師匠から言われたことを思い出した。
うるさい、演技しているだけだ。……そう言い訳する相手も、もういない。
「ミ、ミコトさん!!」
後半戦が始まってからずっと付かず離れずの位置にいたナッシェが叫ぶ。
前方から、
ドラゴンが尾を振り回してきたので、ミコトはこれを股下に潜り込み、滑り抜けることで回避した。そのままさり気なく位置を調整し、ナッシェの視線から外れる。
ドラゴンが頭上から爪を振り下ろしてきたが――問題ない。
ライオットの言う通り受け止めることは困難だが、受け流すことは可能だ。
「ふ――っ」
身体を翻して爪の先端をナイフで弾く。ガキン、と激しい金属音が響くと同時に、爪の軌道が僅かにズレた。その僅かさえあれば、いくらでもドラゴンの猛攻を避けることができる。
神業。そう表現されてもおかしくないことを容易くやってのけたミコトは、息一つ乱すことなくドラゴンから距離を取る。
「ミコトさん、ぶ、無事ですか!?」
「ああ、なんとかね」
合流したナッシェに問題ない旨を伝え、すぐにルシアたちの様子も見る。
ライオットがルシアを抱えて移動していた。無事なようだ。
「そろそろ本格的に、逆鱗を狙った方がいいな」
赤いドラゴンが増えている。
これ以上、時間をかけていては危険だ。
「あの、ミコトさん! 背中に乗るのはどうでしょう!?」
活路を探していると、ナッシェが提案した。
「ドラゴンの背中に乗って、そのまま上空まで運んで貰うんです。変異した赤いドラゴンはほとんど地上付近にいますから、上空にいた方が安全になるんじゃないでしょうか?」
「……なるほど」
変異した赤いドラゴンは地上付近でずっと暴れているが、変異前のドラゴンは彼らと比べるとまだ大人しく、偶に休憩するかのように空高くへと舞い上がっている。
赤いドラゴンのせいで地上は阿鼻叫喚と化していた。上空にいけば地上の
(ウォーカーたちの状態は……?)
上空に行くとなると、ルシアの警戒を任せることになる。
ウォーカーとライオットの様子を確認するべく視線を向けると、ウォーカーと目が合った。そしてすぐに首を縦に振られる。
こちらは任せろ、何か策があるならやってこい――言外にそう言われた気がした。
その直後、ミコトたちは大きな影に包まれた。
自分もナッシェも、遠くにいるウォーカーたちも同じ影に包まれている。
反射的に空を仰ぎ見ると――。
「なんだ、あのでっけぇドラゴンは……っ!?」
遠くでライオットが驚愕した。
頭上に、他のドラゴンとは比べ物にならないほど巨大なドラゴンがいる。その巨躯は恐らく通常のドラゴンの十倍近い。人間の全長が鱗一枚分である。
ドラゴンには、
だが、今のミコトたちにとっては都合のいい存在でもある。
「ナッシェ、あれに乗ろう」
「は、はい……!!」
上空を目指すとなれば、あのドラゴンはこれ以上ない立派な足場だ。
地上に降りて、他クラスの見知らぬ
「ミ、ミコトさん、助けてください……!!」
巨大なドラゴンが浮上した時、鱗の凹みに指をかけていたナッシェが助けを求めた。
飛び乗るタイミングが遅れたようだ。すぐに近づいて引っ張り上げようとする。
「手を握れ」
「す、すみません……!」
ナッシェが慌ててミコトの掌を握った。
「あ、あの! ミコトさん!」
こんな時に何だ、と内心で思うミコトに、ナッシェは口を開いた。
「――――――粛正者ですか?」
時が凍った。
だがすぐに冷静な思考を取り戻し、答える。
「そうだ」
「わ~~っ!! やっぱり!?」
腕を力強く引っ張られる。ナッシェは反動を利用して軽々とドラゴンの背に乗った。
先程までの鈍臭い印象とはかけ離れた軽やかな所作だ。
猫を被っていたのだろう。その明るい態度は、集会で見た八番そのものだ。
「じゃあ、貴方が十三番なんだ! ふ~ん、なんかイメージ通りって感じ!」
心底楽しそうにナッシェは言う。
しかしミコトは無言を貫いた。
「……あれ? あんまり驚いてないね。アタシが粛正者だって気づいてたの?」
「予想はしていた」
「へ~、いつ?」
「試験が始まった直後。お前がルシアと同じチームに入った時だ」
「え? でも今回の試験のルールだと、別チームの方が疑わしくない? だって同じチームになって、聖女様が
今回は試験開始時に鈴の音が鳴ったため、粛正者と言えど無条件合格はできない。同じチームの
だがそれは、試験中の話。