電波女と青春男

一章『宇宙人の都会』 ④

「七次元キーホルダーとかむかしながらのさんで売ってるから」

「それだけの科学力を三次元でこぢんまりかそうとする商売姿せいが理解できません」


 そして宇宙人と次元は関係ありそうなたんながら、まつたく接点なし。エレクトロニックとレトリックぐらいちがう。


「これからこのまま家に戻るけど、今日は近所を歩いてみたりする?」


 女々さんがこれからの予定を、かくていした部分を話して未定のしよかくにんしてくる。俺は「ん、どうしよ」とこめかみを指でいて、考える時間を返答の前にねじ込む。


「歩くなら、かんたんに道案内とかしちゃおっかなって」


 次いで、親切をかすかにってくる。指でなぞれば簡単にふつしよくできる、あとくされのない量。


「今日は荷物片付けてますから……家にいようかなって」


 家の前に『さんの』とつけようかまよったけれど、結局はかんりやくで返した。事前にふくませたわけじゃないけど、結果として親しみが増したかも知れない。


「りょうかーい。じゃ、ゆうはんは家でいつしよに食べましょうね」


 さんはがおを、身体からだを前に戻す直前まで引っ込めなかった。

 それからタクシーは五分ぐらい、市内のないぞうでも走るように道を流れていく。


「あ、ここです」女々さんの指示で、じるしのないようなへいぼんな位置でタクシーのブレーキがかかる。こうせきの左のとびらひとりでに開き、俺は先に下りる。料金メーターをいちべつすると、俺が両親からあたえられていたづかいでも二回は乗車出来る金額だった。そういえば、これからの新生活は小遣いどうなるんだろう。

 やっぱし、バイト? というか俺の両親は女々さんに仕送りとかしてるのだろうか。


「はい、ここがまことくんの第二の家よ」


 料金をはらって俺のとなりに並んだ女々さんが、にこやかにじようほううわきする。しんせきの叔母さん家ではなく、マイホームとしてあつかえと言っているのだ(ずうずうしい)。

 しかし、俺の新しい生活のきよてんは見上げても、色々とくひつしたいのに自然と書き出せるようが少なかった。

 ふっつーなのである。しやしんってご町内のいたるところに張り出せば『まぁ、てきでクリアランスなごうてい』とかひようを受けずに『カルト? ねぇカルトしゆうきよう?』とがられる、ちゆうけんまとまったお家なのだ。まぁそれは表面上だけで、中はにんじやしきみたいに回転扉とか実生活ではめいわくきわまりないだけのギミックにあふれてるのかも知れない。


「さ、入りましょ」「はい。……えっと、よろしくです」


 家に入る前に、あらためてごあいさつむすの態度がアレだと両親の教育が疑われるからな。


「これはごていねいに」さきほど、俺が発した文章内容をコピペしたみたいに、言い方だけととのえて女々さんがさいようしてくる。


「こっちこそよろしく。ほんとごめんねよろしく」


 はやくちで返事をされた。……ん? 何だかしやざいみたいなのもじっていたような……。

 ああ、こんなりつなお屋敷でごめんってこと? ちょいとしんじようだなぁ、多分俺が。

 俺の疑問解決などたない女々さんがふうの戸を横にすべらせ、げんかんまれる。俺も続いた。どんな生活のにおいがするかな、と鼻をひくつかせると……と、と、と。


「ただいまー」


 女々さんがくつをするするとぎ、軽やかに家へ上がる。……ちょっと待って。

 スリッパく前に、

 俺の名を呼ぶ前に、

 さわやかがおの前に、

 気にかけることが、あんたのあしもとにあるだろう。

 足下に一直線に引かれていたはずのスタートラインが、ぐにゃりとゆがんだ気がした。


まことくんも一回、言ってみて」


 しかし俺の強いせんを受け流し、現金ばらいしたくなる笑い顔でかんげいしめす。

 かいのピントがいつにぼやけだした。


「……え、ああ、はい」と返事すつつ、目線ば右下にくぎけですばい。

 田舎いなかに住んでたのにく田舎ことしやべれず、かくったなまりになる。それはどうでもいいけど、しかし……こう。げんかん上がってすぐのカーペットのわきにいる、ある? のがさ、なんか。

 ……いやな予感で、遠足前のようなワクワク感がもっさりし始めたのはここからだった。

 しやしんで見るとじよう可愛かわいいぬを直接見たら、『何だこのチンチクリンは、ノミが飛び立ちそうじゃないかキミィ』とき上げるのをきよせざるをなかったときの気分だ。

 ゆめの新生活にどっさりと『現実』を運び込んできたもの。

 俺がこれからいやいや学校へ行くときに見送り、遊びつかれた身体からだを引きずって帰ってくるときにむかえるいとしきが家の玄関に、

 なんかちくわみたいなのがいた。




 きゆうじようにいても浮いてしまうファッションでかざったというかみ込まれて。

 寝転ぶことへの躊躇ためらいをすべてねじせ、びきった足のうら

 思わずつぶすかり飛ばしたくなる、しようどうちゆうすうげきするまるまりあい


「………………………………………」


 げんかんにご硝子ガラスしに降りそそぐ春の日差しが、ねばあせと軽いさむを背中に生む。

 あおせんひたいに生えるかんかくが、はだの上をおどった。

 俺の青春ポイント、マイナスに返りき。