電波女と青春男

一章『宇宙人の都会』 ③

 俺が口を開かないから、あい笑いみでもう一度さぐってくる。ひんのあるやわらかさをふくんだ、少女のぐさだった。それががいけんとのギャップを良い方向に作用させて、第一印象を上向きに持っていく。


「あっ、はい。ごめい真です、どうも、いやどうも」


 へこへこ頭を下げる。ちゆうはんけんきよさをアピールしようとして、自分のことながらはらたしい。「しばらくの間、お世話になります」あわてたように付けした。あー、ぎくしゃく。


「いえいえ。こっちこそ、ね」さんも頭を下げる。ちようはつが肩からすべってたきになった。


「あ、めいとかわたしちゃおっかな」


 すじばし戻した叔母さんがハンドバッグをじやつかんあらあさって、プラスチックのケースを取り出す。ふたを開け、おうごんの長方形を成立させている名刺を一枚、俺に差し出してきた。


「これはどーも、ごていねいに」といいげんな丁寧さで受け取って、目を通す。


とう 『三十九歳』」とごういんなカギかつねんれいひようおうとつさせていた。どうやらまだ『じゆうかたとはなんぞや?』というたいつらぬき通したいらしい。めいひよう期限は一年なさそうだが。

 しかし……事前に聞いてはいたけど、下の名前……変わってるな。


「これ、とうわ……げいめいげん、通り名にリングネーム、ついでにおおあなで内なる2Pキャラのこのかいつうしようするためめいってせんもありますけど」「ほんみようなんだな、これが」


 軽い調ちようことふしぶしから若者っぽさのげんえきにじみ出させようとしているのがつたわった。それは知っているけど、読み方が『メメだったかジョジョだったか』と説明あやふやだったし。

 俺のこんわくさつしたのか、さんが自分を指差してしようかいそくする。


「トウワメメ。ジョジョって呼んでくれてもよくってよ」


 叔母さんがウインクしてしわを増やす。口走れば生命線をずたずたに切りきざまれそうなのでつばを飲みこんでたいへのたいしよいつぱく置く。名刺も見直す。

 名付け親のしゆ全開ってことだけは伝わるな。ネットでけんさくしてこの名前が本名として引っかかったらいつしように付すところだけど、とうの本人が目の前にいるんだから口をいて勇気を振りしぼってたいに持ち込んでまで鹿笑いなどしたくない。


「はー」とかかんたんいきくふりしながら、名刺をさいってどうの指示をった。


「それじゃ、今日のところはタクシーで家に行きましょうか」

「あ、はい。ぜいたくですね」当たりさわりのない台詞せりふばかりが口を出る。おいおいれるだろう。

 女々さんのにこやかがおとテキパキきよどうせんどうされて、道路を一つはさんだタクシー乗り場へ向かう。そのちゆうも、まえかみを手の平ででながら女々さんが話しかけてくる。


「電車、長く乗ってたからつかれたでしょ?」

「はい。こっちの方に出てくるの、中学のしゆうがく旅行の時以来ですから」

「そっかー。まことくん、今高二だっけ? おっきくなったなぁ」

「そうです。高校って叔母さんの家から近いんですか?」

「うーんと、自転車で十五分くらい。あ、叔母さんの運転でだから、真くんならもっと早いかな」


 などと五分後にはれいさっぱり忘れりそうな、に限りなく近い会話で道中をめる。ただいんしようてきなのは女々さんの、しんみつでもえんでもないどくとく調ちようだ。ねばじやつかんぞうされたぬるま湯とでも言おうか、ごこは悪くないのにみようあしもとが不安になる。


「へーい」と乗り場で停止している緑タクシーに向かってわざわざ手を振る女々さん。不覚にもちょっと可愛かわいいと思った。だけど俺に年上ぞくせいはないから、遠くで信号待ちしてるさっきの女子高生とかれながめてあのスカートのくねくねしたとこがたまらないなぁとか思ってなんか色々とかいしたりおさえたりした。鹿じゃねーの、とつぶやくのは別にきやつせずに。

 タクシーのこうせきに乗り込む。女々さんはじよしゆ席の方に乗り、ごましおあたまの運転手に行き先をげる。はやくちで、第三者の俺には覚えきらない。深々と座席に座りこんで、重いまぶたを目でこすった。ていうか、何でさんは二人なのにじよしゆせきに乗り込んだんだろう。

 か助手席にすわさんは振り向いてまで俺に話しかけることはない。まぁ、話しかけられても道中のふうせん会話がふくらみもせずにちゆうはんかいはしを行ったり来たりするだけだろうから、ありがたい。

 両親にもとの大学へ行けって高校入学早々に言われてたから、成人するまでなかあきらめてた生活ようしきたなからぼたもちに手に入れて、女々さんにかんしやはしているけどさ。

 俺はこのかいひとらしを求めているのだ。青春ポイントのばいよう、もとい増加にてきしたかんきようだからな。この二年でのもくひようとして、ちよきん15ぐらいはねらいたい。

 こうそうビルのならえきまえからはずれた道を十分ぐらい進んで、てきじんが増えた土地に入る。それでも緑が少なく、きんぞくの目立つ風景なことに多少おどろいたり。

 都会のにおいは、かなものくさそうだ。土臭い地元よりは色々期待できそう。

 などとかつこうつけてほくそ笑んでいたら、ルームミラーしに女々さんと目が合う。

 じやつかんずかしい。

 そして、道路の頭上にある地名のかかげられたかんばんつうしたしゆんかん、女々さんがくるっとあいきようたっぷりに振り向いて、


「ようこそ、ちゆうじんの見守る町へ」

「……はい?」


 にこやかに、ぎやくけいえんしたくなるかんげいをされた。

 ほんわかほうしやせんじようにひびれた発言が一部ざっていたとまくのうへ伝達する。

 しかしタクシーの運ちゃんの走行ていいつすんみだれもないことから、俺の聞きちがいののうせいいなめない。ここは、なおぜんとしておいた。


「あれ、ちょっと引いた?」女々さんが作り笑いを浮かべ、目を丸くする。


とつぴようのなさにこうはんのうすることがなかっただけです」

「ここ、UFOのもくげきじようほうとか多いのよ。フロリダ州的っていうの?」女々さんのしやくめい


「はぁ」あ、そういうこととなつとくはしつつも、ひょっとしてこの人はエイリアンしんぼうしやかな、とねんうずく。MMRちよくげきだいかも知れない。

 そして宇宙に俺の青春はない。みぎかた上がりの予定のポイントが、せんたんしおれさせかけている。