トカゲの王I ―SDC、覚醒―
プロローグ1『トカゲと鴨のゲシュタルト』 ①
教室の前の扉を開けると、裸の女子がいた。
しかも振り返ったそいつと目が合った。
目の前で火花でも
「あぅああ」だの「わわわわ」だの、要領を得ない悲鳴のようなものに口もとが
おれの悲鳴を聞きつけて、隣の教室の先生が廊下に飛び出してきていた。授業中にもかかわらず廊下で
見慣れた四年生の教室。いい加減な消し方で、算数の授業の跡が残った黒板。雲が羽を広げたように横に広い、そんな青空が映る窓。
先生がおれになにか言ってくるけど、ほとんど聞き取れない。でも起きるのを手伝ってくれて助かった。そうこうして隣の担任、
タオルで
頭の白帽子には赤字で『4─3 すがもりょう』と書かれている。そこでようやく、その女子の名前がスガモであると思い出した。スガモは
「遅れるよ、行こう」
おれの手を引いてその場を離れようとする。もうとっくに始まっているんだけど、と反論を
二階の階段の近くまで引きずられてから、そこでやっとスガモの手を振りほどく。スガモは大した抵抗も見せず手を離して、水着の
スガモがおれの目をじぃっと、鑑賞でもするように
目を
「おま、なにやって、んだよ」
やっと出たのは絞り出すような声で、スガモの顔もマトモに見ることができない。スガモの方は
「プールに行くから着替えてたの」
「あ、あ。そう、そっか。そうだな、次、体育だし」
次というか、もうなんだけど。窓の向こうの遠くで
「トカゲくんは? プール行ってなかったの?」
下の名前で呼ばれて、少し困惑する。仲のいい相手でもないし、女子だし。照れる。
「ゴミ捨てに行って……あーまぁ、色々あって遅れちゃったわけで」
サボっていたと正直に話すこともできなくてごまかす。スガモとは親しくもない上に、あの裸だ。なんでこいつだけ残って、一人で着替えてたんだろう。
入り口側に背中を向けて、片足をあげているところだったから、
「ふーん。トカゲくんは泳げないもんね、プール入りたくないからサボってたんだ」
全部見透かしたようにスガモが言う。なんで知ってるんだよ。
「スガモは? なんで……えっと、
「探すのに時間かかったから」
「ん? 探すって?」
「水着」
短く答えて、スガモが階段を下りていく。スガモの言葉をすぐに理解できず、ぼぅっと目の焦点を合わさないまま考えて、数秒後にやっと気づく。
よく見ると、スガモの水着は所々に汚れが
「なにお前、いじめられてるの?」
「お金持ちだから」
スガモの返事は淡々としていて、しかもなんだか的が外れているような気がした。でもスガモの家が金持ちだという
なにしろ、スガモはキレイだから。かわいいっつーか、キレイ。だから女子に嫌われる。
「えぇっと、お前、大丈夫なのか?」
「うん」
スガモは階段を下りていく。でもおれはまだ一段目にも足をかけていない。遠ざかる背中と尻を交互に
「考えるのがめんどいから、なんとも思わないの」
「なんだ、そりゃぁ」
スガモの言い分はさっぱりだ。でもいじめられているなんて話を聞いて黙ったままでいるのは正しいのだろうか。
別に一般的な正義感とかそういう
おれの目が、それを見過ごすなとうるさいのだ。
「なー、スガモ」
「なに?」
「さっき、あっと、色々あったし」
「色々はなかったよ」
「いやそこはいいんだよ。だから、だな」
スガモが階段を下りきる。おれはその後ろ姿を見下ろして、顔の熱さが取れないままに問う。
自分にそんな力があるかは分からない、だけど。
「助けて、やろうか?」
「いらない」
即答だった。
踊り場で振り返って、スガモが首を
おれの『今の』
スガモは珍しくにこやかに
「でもそのうち、返して
目を開く
目玉は
「あのー、横で痛々しく格好つけたことぶつぶつ語るのやめてくれません?」
俺こと
しかしそれは少なくとも当初、望むべき『力』ではなかった。
「とまぁ切に
握り
「
「いやマジ面白いよ」
「お前に言われるまでもなく、そんなことは知っている」
あくまでも上からの目線を意識して言い返すが、成実はさして反応を見せず、活字を目で追っている。いつにも増して反応が面白くないので、黙ってブランコに座り直した。
日曜日の公園には俺たち以外の人影が見当たらなかった。正確には公園と呼べるほどの施設でもなく、立体交差の道路の下に、ほんのわずかな遊具が設置されているだけだが。全面が道路の影に



