年下の女性教官に今日も叱っていただけた

プロローグ 3人の美少女に不法侵入していただけた

 勇者訓練校の寮で熟睡していた俺は、自室のドアが開く音で夢から覚めた。

「うえ~い! レオンっちー! 遊びに来たよー!」

 まだ薄暗い室内に、底抜けに明るい声が響き渡った。

 直後に部屋に上がり込んできたのは、ピンク髪の美少女――同じクラスのフィオナさんだった。

 フィオナさんは勇者候補生なのに私服が大胆で、今もお腹を思いっきり露出している。


「え、なんで寝てんの? もうすぐ5時だよ?」

 ベッドの横までやって来たフィオナさんが、不満そうに言った。

 まるで俺が寝坊しているかのような口調だが、彼女と約束の類いは一切していないし、午前5時前に起きている方がおかしいと思う。

 俺は寝ぼけ眼をこすりつつ、上半身を起こした。


「こんな時間にどうしたんですか……?」

「今まで友達とオールしてたんだけど、レオンっちに会いたくなったから遊びに来た! なんか面白いことやって~!」

 深夜テンションのフィオナさんが、面倒くさい無茶振りをしてきた。

「いや、急に言われても……。面白いことなんかできないですから」

「は? ノリ悪っ。冷めるんだけど」

 フィオナさんの声が急に低くなり、俺を睨み付けてきた。


「てかさ、ウチに逆らっていいと思ってんの? お風呂覗いたこと、学校で言いふらすよ?」

 恐ろしすぎることを言われ、俺はすぐさまベッドから飛び降りた。

 そして思いつきで四つん這いになり、勢いに任せ、ブタのモノマネをする。

「ブヒブヒ! ブヒィ~!」

「何それ、ぜんぜん面白くないんだけど」

 寝起きの頭で精一杯やった俺に、フィオナさんは非情な評価を下した。


「てか、なんで急にブタ? それが面白いと思ったの?」

「……すみませんでした」

「いや、謝らなくていいから。ウチはなんでブタのモノマネをしたのか教えてほしいだけ」

「そ、その……特に理由とかはなくて……。追い詰められて、咄嗟に……」

「咄嗟に思い浮かんだのがブタのモノマネってヤバいでしょ。頭大丈夫?」

「大丈夫じゃないです……」

「あとクオリティ低すぎだから。モノマネやるならもっと真剣にやらないと」

「真剣なブタのモノマネとは……」

「まず服を着たままやるのはおかしいよね? ブタは全裸なんだから」

 フィオナさんの瞳が怪しく光った。


「ってわけで、脱いでみよっか~!」

「いやいやいや、何を言い出すんですか」

「あれ? レオンっち、な~んで服着てんの? な~んで服着てんの? 脱ぐために着てんの! はい脱いで脱いで脱いで! 脱いで脱いで脱いで! 脱いで?」

「飲み会のコールみたいに脱がそうとしないでください」

 いくら美少女でも、朝5時に深夜テンションの対応をするのは面倒すぎる……。


 と、そこで、部屋のドアがノックなしで開かれた。

 現れたのは長い金髪の美少女――クラス委員長のシエラさんだった。モコモコのパジャマ姿で、とんでもなく可愛い。

 シエラさんは室内にフィオナさんがいるのを認めた瞬間、悲鳴に近い声を出す。

「話し声が聞こえたから様子を見に来たら――」


 シエラさんは言葉を区切り、駆け寄ってきてフィオナさんを睨みつけた。

「私のレオンちゃんと何をしていたんですか!」

「レオンっちをブタにするために全裸にしようとしてた」

「本当に何をしていたんですか!?」


 シエラさんは絶叫しつつ俺の頭部を両手で掴み、自分の胸に押しつける。

 おでこが2つのやわらかい球体に包み込まれた。思わず全神経を触覚に集中させる。

 幸せだ……!!

 しかし、抱きしめる力が強すぎて、鼻と口が圧迫されている。美少女のおっぱいを堪能する代償として、呼吸を諦めなければならないわけだ。

 シエラさんはそうとは知らず、俺の後頭部を何度も優しくなでる。


「よしよし、怖かったでちゅね~。でももう大丈夫、ママが守ってあげまちゅよ~」

 シエラさんは赤ちゃん言葉で俺を慰めてくれた。ちなみに彼女はただのクラスメイトであり、俺の母親ではないばかりか、血の繋がりさえ存在しない。

 とはいえシエラさんのような美少女とくっつけるチャンスは少ないので、俺は赤ちゃん扱いされることを受け入れ、しばし抱き枕になる。


 ――だが、さすがに息が限界になってきた。

「シエラさん、もう大丈夫です。ありがとうございました」

 俺はお礼を言いつつ拘束から逃れようとした。しかし――

「『もう大丈夫』……? それは、私は不要だということ? 独り立ちしたいってことなのかな?」

 シエラさんは急に真顔になり、返答を求めてきた。


「レオンちゃん。あなたにとって私は何なの?」

「それは……優しくしてくれるクラスメイト――」

「違うでしょ!!」

 シエラさんは悲鳴に近い声を出し、また俺の頭を胸に押しつけた。


「どうして忘れちゃったの!? 私はレオンちゃんのママなんだよ!?」

「そ、そうです。シエラさんはママで、俺は子どもです」

「ただの子どもじゃないでしょ!?」

「……はい、無力な赤ちゃんです」

「具体的には!? なんちゃいなの!?」

「……何年生きてるか数えられない赤ちゃんです」

「可愛い!! そうなの!! レオンちゃんは私がいないと何もできない無力な赤ん坊!! 大丈夫なんてことはないの!!」


 シエラさんは絶叫しつつ、豊満な胸の谷間に俺の顔をグリグリ押しつける。

 暴走した母性は、もはや暴力だ。

 でもおっぱいが最高だから、すべてを許せる。


「ちょっと!! レオンっちを変なプレイに巻き込まないで!!」

 至福の感触を楽しんでいると、フィオナさんが悲鳴に近い声を出した。

 直後に俺は首根っこを掴まれ、背後に引っ張られる。


 しかし、シエラさんも負けてはいない。引き離された俺の顔面に、すぐさま飛びついてきた。

「変なプレイじゃありません! 親子のふれあいです!」

「いやいやいや! レオンっちといいんちょは赤の他人っしょ!」

「違います! レオンちゃんは私がお腹を痛めずに産んだ子です!」

「そんな出産あるわけないでしょ! そもそも、同年代の男子を自分の赤ちゃん扱いして、何が楽しいわけ? レオンっちはいいんちょのおっぱいに顔をうずめて喜んでる変態だよ!」

「変態じゃありません! 赤ちゃんがママのおっぱいに惹かれるのは普通のことです!」


 シエラさんは純真な口調で弁解してくれたが、俺は彼女のことを母親だとは思っていないし、完全に性的な目で見ている。

「そ、そうですよフィオナさん。俺は子どもとして至極まっとうなことをしているだけで、変態じゃありません」

「変態は黙ってて」

 シエラさんと睨み合っているフィオナさんが、体温のない声音で言い捨てた。


 ――と、そこで、またしてもノックなしで部屋のドアが開かれた。

 現れたのは、紺色を基調とした教官服に身を包んだ銀髪の美少女――リリアさんだった。

 リリアさんは17歳という若さでこの学校の教官になった秀才であり、俺たちのクラスの担任でもある。


「男子寮から女性の声が聞こえてきて、どうせレオンさんの部屋だろうと思って来てみたら、案の定……」

 青筋を立てたリリアさんは、冷酷に言い放つ。

「全員腕立て100回」


 こうして俺たち3人はうつ伏せになり、与えられた罰を遂行し始めた。

「ううっ……なんでウチがこんな目に……!!」

 フィオナさんが悔しそうにつぶやいたが、この人がすべての元凶なので、同情の余地はない。

「レオンちゃん……ママが守ってあげられなくてごめんね……」

 隣で腕立て伏せをするシエラさんが謝ってきた。


「この程度の罰は毎日受けているので、気にしないでください」

「そうですね。レオンさんは毎日わたしを苛つかせていますもんね」

 リリアさんは怒気を含んだ声音で言い、右脚を俺の背中に乗せて体重をかけてきた。

 ブーツの踵が筋肉に食い込み、心地よい痛みを感じる。


「少し罰をハードにしましょう。もっとも、わたし程度の体重では、大した負荷にはならないですが――」

「リリア先生! レオンちゃんを踏まないでください!」

「却下。これも指導の一環です」

「でも――」

「いいんちょ、気にすることないよ。レオンっちはリリアせんせーに踏んでもらって喜んでる変態だし」

「お、俺は変態じゃないですって……!」


 腕立て伏せを続けながら否定したが、真横にいるフィオナさんはジト目を向けてくる。

「せんせーに踏まれながらそんな気色悪い笑みを浮かべておいて、よくそんなことが言えるね」

「…………」

 ち、違うんだ。これは表情筋が誤作動を起こして口角が上がっているだけで、決して俺はリリアさんに踏まれて喜んでいるわけでは……。


 しかし、こんなメチャクチャな状況であっても、3人の美少女に囲まれていれば、多少の喜びを覚えてしまうのが男というものだ。特に俺のような、女性と縁のない生活を送ってきた男は……。

 この嬉しい悲鳴を上げたくなるような日々は、1週間ほど前に急に始まった。そのキッカケは、森の中でリリアさんと出会ったことだった――