年下の女性教官に今日も叱っていただけた

エピローグ① さようならスライムさん

 リリアさんからの命令があれば魅了されていても闘えるようになった俺は、満を持して、スライムさんとのリベンジマッチを行うことになった。

 もちろん、モン娘が相手だとまともに闘えないのは変わらないし、女性が苦手なのも簡単には直らない。

 だが、傀儡人形として闘えば、スライムさんを倒せるはずである!


 などと他人任せなことを考えつつ闘技場に入り、砂が敷き詰められた第1アリーナの中央に立った。

 そして鉄檻が跳ね上がり、スライムさんが飛び出してくる――


「ザコのお兄ちゃーん!! 見て見てー!!」

 スライムさんは楽しげな声を上げつつ、宙を舞っていた。

 文字通り、飛び出してきたのである。


「な、なんでスライムが飛行能力を……!?」

 驚愕するリリアさん。それにスライムさんが答える。


「アタシ、レベルが上がりすぎて空を飛べるようになったみたい! ザコのお兄ちゃんのおかげで、自由の翼を手に入れたの!」

 スライムさんはそう告げた直後に急上昇。そのまま逃亡してしまった。


 スライムさんの姿が見えなくなった後、俺とリリアさんは顔を見合わせた。

「……レオンさんのせいで、新種のモン娘が誕生してしまったんですが」

「これ、俺のせいなんですかね? スライムさんがドレスを自在に操れるようになった時点で、何らかの対策を講じるべきだったのでは?」

「あ゙あ゙?」

「すべて俺の責任です! 申し訳ありません!」


 こうして俺たちは、厄介なモン娘を世に解き放ってしまった。

 そして当然、放課後の特別授業はこれからも続くのだった。 


エピローグ② 美少女たちに叱っていただけた


 スライムさんを解き放ってしまった翌日の昼。俺はリリアさんの部屋に呼び出され、金貨を受け取ることになった。宿屋でドラゴン使いと遭遇した翌日、俺1人で村を襲った魔物を討伐した報酬らしい。

 ちなみに、宿屋を壊してしまったことに対する補償は、ドラゴンの死体を売った代金でまかなえたそうだ。


「ありがとうございます。幼少期からずっと魔物討伐をしてきましたが、報酬をもらうのは初めてなので、すごく嬉しいです……!!」

「昔の話を聞く度に思いますが、レオンさんは大変な環境で育ってきたんですね……」

「はい。でも、リリアさんのおかげで今はまともな生活ができているので、本当に感謝しています」

「そう言っていただけて、わたしも嬉しいです。ちなみに、その報酬を何に使うかは決めているんですか?」

「もちろんです。このお金で大人のお店に行ってみようと思っています」

「死ねよ!!」


 リリアさんが絶叫した。

 その命令を受け、俺はすぐさま抜刀し、自らの首筋に当てる。

 だが、一思いにやろうとしたところで、リリアさんに制止された。

「死ぬな! 今のはただの罵倒であって、命令ではない!」

 命令が取り消されたので、俺は刀を首筋から離す。


「リリアさん、紛らわしいことをしないでくださいよ。危うく死ぬところだったじゃないですか」

「わたしのせいにしないでください。命令されたからといって、あんなに躊躇なく死のうとする方がおかしいです」

「自分の意思とは関係なく体が動くよう、リリアさんに芸を仕込まれた結果です」


「『黙れ』」

「…………」

「話を戻します。報奨金の使い方は基本的に自由ですが、今回はトラブルに巻き込まれる危険があるので見過ごせません。なぜ大人のお店に行こうと思ったんですか?」

「…………」

「――あ、そっか。『話せ』」


「一番大きい理由は、今回のスライムさんの件に責任を感じているからです。二度とこんなことが起きないよう、早急に女性への免疫をつけなければならないと思いました」

「動機だけを聞くと間違ってはいないんですが、再発防止策の内容に腹が立ちますね」


「でもリリアさんもこの前、『モン娘の裸で毎回興奮するのは、人間の女性を知らないから』って言っていたじゃないですか」

「その後、『そういうお店での性交はリスクが高い』とも言ったはずですが」

「えっ? そうでしたっけ?」

「あなたの脳みそは自分に都合がいいところだけ記憶する仕組みになっているんですか?」

 リリアさんは眉間にしわを寄せ、嘆息した。


「レオンさんのように女性が大好きな人間は、そういう行為にハマってしまう危険があります。そして毎日お店に通うために借金を重ねて破滅した人が何人もいるんですよ」

「もし毎日通いたいと思った時は借金などせず、魔物の討伐依頼を達成した報酬で支払うことを考えています。何度も女性と交われば免疫ができますし、魔物に悩まされている人たちも救えて一石二鳥ですよね?」


「理屈が通っていて反論できないので、かわりに殴らせてください」

「理屈が通っているなら怒らなくていいのでは!?」


         S         S         S


 こうして俺はリリアさんに殴打された後、学校近くの街の外れにある、怪しげなお店が集まる路地にやって来た。

 まだ日が高いのだが、エロそうなオッサンがそこら中におり、これから入るお店を吟味しているようだ。


 さっきはリリアさんに大人のお店に行く理由を「スライムさんの件に責任を感じているから」と説明したが、実はそれ以上に大きな目的がある。

 性交時のマナーを学ぶことだ。


 近い将来、俺はフィオナさんとセックスする関係になれるかもしれない。何せ俺は彼ピ(仮)なのだから。

 しかし、セックス時の作法がわからない。

 そもそも、やり方もよくわかっていない。

 昨日は図書館に行ってみたのだが、セックスについて書かれた本はなかった。

 勇者訓練校に男性の知り合いはいないから、質問することもできない。八方塞がりだ。


 というか、普通はどうやってそういう知識を仕入れるのだろうか? 友人同士で情報共有することは何となく想像できるが、そのグループの最初の1人はどうやって性の知識を得るんだ? まさか、両親に聞いたりするのだろうか? 俺は親というものを知らないのだが、そんなに開けっ広げなものなのか……?

 などと悩みまくった結果、いざその時に恥をかかないよう、勉強しに来たのだ。


 正直、大人のお店に入るのは怖い。何をされるかわからないからだ。

 しかし、短い間に何度も死にかけたことで、そういう経験をしないまま死ぬことの方が怖いと思うようになった。

 少なくとも俺は人類の中ではかなり腕っ節が強い方みたいだし、過剰に心配することもないだろう。そう自分に言い聞かせながら、店の看板を見て回る。


 だが、『印象倶楽部』や『回春美容術』など意味不明な店名ばかりで、どんなサービスを受けられるのかは、ぜんぜんわからない。

 いったい、どの店に入ればセックスができるんだ……!?


 途方に暮れかけていると、『混浴楽園』という文字が目に飛び込んできた。

 他の店に比べ、圧倒的にサービス内容が想像しやすかった。まず間違いなく、お店の女性と混浴できるのだろう。


 しかしそれだと、普通の混浴温泉との違いがないような……? 大人のお店だし、体を洗ってもらえたりするのだろうか……?


 しばらく悩んだ挙げ句、『混浴楽園』に入店することを決めた。セックス前には体をキレイにする必要があるだろうし、最高の未来を迎えられそうな気がする……!!

 よし! 入るぞ!


 ……だが、店の入口まであと1メートルというところで、足が前に進まなくなった。

 ここから先は、まさに未知の領域。そう考えると、ドラゴンと相対した時よりも緊張してしまう。

 本当に入店して大丈夫か? 何をされるのかまったくわからないが、どこかのタイミングでちんこを折られたりしないだろうか?


「――あっ! レオンっち見つけた!」

 あらぬ想像をしている最中、背後から呼びかけられた。

 直後、首根っこを掴まれ、怒鳴られる。


「まさかこのお店に入ろうとしてる!? ウチっていう可愛い彼女がいるのに、そんなことしていいと思ってんの!?」

「フィオナさん!? なんでここに!?」

「リリアせんせーから教えてもらったの! レオンっちが大人のお店に行こうとしてるって!」

「なんだと……!?」

 俺の恥ずかしい情報を流布するなんて、いったい何が目的なんだ!?


「そんなことより、ちゃんと説明して!! レオンっちはウチの彼ピだってこと自覚してる!? してないよね!!」

「ち、違うんです! これはフィオナさんのためでもあって……!」

「はぁ?」

「その……将来そういうことをする時、俺がテクニシャンだった方が嬉しいかと思って……」

 と、企みをすべて話した瞬間、フィオナさんはさらに眉をつり上げた。


「他の女で練習されて嬉しいわけねーだろ!!」

「えっ!? そうなんですか!?」

「当たり前でしょ!! レオンっちはウチが他の男で練習してたらどう思うわけ!?」

「……最悪な気持ちになりました」

「でしょ!!」


「でも、女性が練習するお店なんて――」

「実はさ、この近くに女性用の風俗もあるっぽいんだよね。探してみよっかな~」

「今すぐ帰りましょう!!」


 知らない男にフィオナさんの体を汚されるなんて、あり得ない。

 しかもそのためにお金を払うなんて、意味がわからなすぎる。

 こうして、大人のお店でセックスの作法を学び、ついでに女性への免疫を付けるという俺の計画は、あっさり霧散した。


「……てかさ、レオンっちって、ウチのことそういう目で見てたんだ?」

「そ、それは……まぁ……。仮とはいえ、一応彼ピなわけですし……」

「ふーん……」

「な、なんですか?」

「ちょっと想像――いや、なんでもない。ウザいからこっち見んな」

「す、すみません……」

 俺たちは微妙な雰囲気になりながら、この路地の出口に向かう。


 だがそこで、前方にあり得ないものを発見した。

「――えっ!? シエラさん!? なんでここに!?」

「ウチが連れてきたの。いいんちょと二手に分かれて、レオンっちを捜してたんだよ」

 動揺する俺に、フィオナさんが淡々と解説してくれた。


 つまり、俺が大人のお店に行こうとしたことが、シエラさんにも知られているのか……!!

 いや、でも、まだ入店しようとしたことがバレたわけではない。何とかごまかすしか――

「聞いてよいいんちょ! レオンっちが混浴のお店に入って、体を洗ってもらおうとしてたの!」


 少し離れたところにいるシエラさんに向かって、フィオナさんが大声で最悪の報告をしやがった。初手で俺の息の根を止めたのである。

 もうシエラさんのことは諦めるしかない……と思っていたのだが――


「なんだ。レオンちゃん、お風呂で体を洗ってほしかったんですね」

 俺たちと合流したシエラさんはそう言って、なぜか笑顔を向けてきた。

「それならレオンちゃん、ママと一緒にお風呂に入りましょう」

「……はいっ?」

 提案内容が理解不明すぎて、聞き返すことしかできなかった。


 それから数秒経ち、言葉の意味を解読できたところで、ようやく驚く。

「――ええええっ!? いいんですか!?」

「ちょっといいんちょ!? 何を言い出すの!?」

「何って、私とレオンちゃんは親子なんだから、普通のことでしょ」

「たしかに!」

「いや納得すんなし!! アンタらは偽装親子でしょ!!」

「偽装じゃないもん! 本物だもん!」

「そうですよ! 一緒にお風呂に入ることによって、そのことを証明してみせます!」

「いやそんなの証明にならんから!!」


 ※この続きは書籍版でお楽しみください。