年下の女性教官に今日も叱っていただけた

第6話 女性教官に芸を仕込んでいただけた④

 ――その瞬間、俺の魂が震えた。

 そして考えるよりも早く、右腕が動いた。

 自分の意思と関係なく、俺の右手が柄を握り、抜刀したのである。


 そのことに気付いたドラゴン使いは、すぐさま飛び退いた。

「まさか、アタシの催眠が解けたの!?」


 しかし、そうだとは言えなかった。刀を構えることはできたものの、相変わらず体は自由に動かないのだ。

「……なんだ、一瞬動けただけか。……そうよね、アタシの催眠を自力で解けるヤツなんか、いるわけがないわ。驚かせやがって――」


「『突進』『刺突』!」

 ドラゴン使いが気を緩めた直後、リリアさんが叫んだ。

 その声が鼓膜に到達した刹那、俺の体は走り出していた。


 ――そうか。催眠状態にあっても、リリアさんの命令には従えるのか。

 なぜなら、無意識レベルで体に叩き込まれたから――


 その事実に思い至ったのとほぼ同時に、俺の体はドラゴン使いを目掛けて、刀を突き出していた。

 ドラゴン使いの胸部に、俺の刀が深々と突き刺さる。


 直後、俺は催眠状態から解放され、体の自由を取り戻した。

 すぐさま方向転換し、ドラゴンに向かって疾駆。そのまま首を刎ねた。


 ドラゴンが死んでいることを確認した後、床に横たわるドラゴン使いに視線を移動させる。

 俺の攻撃によって肺を損傷したらしく、苦しそうに肩で息をしている。

 目が合うと、ドラゴン使いの唇が、力なく動き出した。


「た……助けて……。アンタたちを襲ったのは、ほんの出来心で……。自分が大ケガをして、初めて他人の痛みがわかった……。これまでのこと、本当に後悔してるの……」

 ドラゴン使いの瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。

「……リリアさん、この人をどう――」


 問いかけようとした刹那、リリアさんがドラゴン使いの首に勢いよく剣を突き立てた。


「ぐあっ……!! この……クソおん……」

 ドラゴン使いは血を吐きながら悪態をつこうとしたが、途中で力尽き、動かなくなった。

 リリアさんは納剣した後、俺の目をまっすぐに見据えた。


「――レオンさん、愚問です。どんな見た目だろうが、魔物は魔物。こいつらの涙にも命乞いにも価値はありません」

「は、はい……」


「本当ならこれから1時間ほど説教をしたいところですが、わたしは傷の手当てをしなければならないので、後日にしましょう」

「だ、大丈夫ですか?」

「あまり大丈夫ではありません。わたしは治療のために学校に戻ります。明日討伐する予定だった魔物は、レオンさん1人で倒せますよね?」

「ええっ? いや、俺も結構ケガしてますし、さすがに荷が重いんですが……」

「わたしは無理だと思う提案はしませんが?」

 リリアさんは有無を言わさぬ口調だった。


「……頑張ります」

「あと、宿屋の部屋を壊してしまったことへの謝罪と補償、ここにある魔物たちの死体の処理もお願いします」

「はい……」


 力なく返答した俺に背を向け、リリアさんは廊下に向かって歩き出した。

 だが、部屋を出て行く直前、こちらを振り返る。


「……催眠状態にも拘わらず、わたしの命令通りに動いたことは褒めてあげます。ほんの少しではありますが、成長しましたね。――駄犬から傀儡人形に格上げしてあげます」


 月明かりにぼんやりと照らされる中、リリアさんはそう言って微笑んだのだった。 


 

 インターミッション リリアの苦悩③


 

 ドラゴンとの闘いで負傷したわたしは、あまりに苦しくて喘いでいた。

 悪路を走る馬車が揺れる度、全身に鋭い痛みが走る。


 レオンさんの前では強がっていたけれど、かなりの重傷だった。手持ちの薬草ではどうしようもないので、学校に着くまで耐えるしかない。

 気を紛らわすため、今日の出来事を思い返すことにした。


 まず、午前中は普通に授業をして……。放課後、レオンさんはまたしてもスライムのモン娘に魅了され、敗北した。

 わかりきっていた結果だけど、どこかでホッとしている自分がいた。シエラさんやフィオナさんと爛れた関係になっていない可能性が高まったからかもしれない。


 その後、わたしはレオンさんに自分の生い立ちを話した。重いと思われる危険もあったけど、「リリアさんのことを、信じたいと思ったんです」と言ってもらえて、素直に嬉しかった。

 ……それはそれとして、あの流れで体の関係を求めてこなかったのは、いったいなぜなのか。


 わたしは「わたしの体を教材として差し出すことを検討する必要がある」とか、「人類の悲願を達成するためなら、わたしの体くらい安いものです」とか、「少しくらい恥ずかしくても、我慢できます」とまで言ったのに。


 いや、別にレオンさんと性交したかったわけではない。

 でも、下半身に頭を支配されているレオンさんなら、「やらせてください」と頼み込んでくると覚悟していたのに。


 シエラさんやフィオナさんに比べて、わたしの体には魅力を感じないとでも?

 それとも、人間としての理性がわずかに残っていて、わたしに同情したのか?


 その後、レオンさんはドラゴン使いと遭遇し、またしても魅了され、催眠にかけられた。

 そして痛めつけられながらニヤニヤ笑っていた。救いようのない変態だ。


 でも、傀儡人形としてわたしの命令通りに動いたから、褒めてあげた。

 あれだけ強いレオンさんを意のままに操れることに、わたしは喜びを覚えている。次はどんな命令をしてやろうか。

 まずは明日、スライムのモン娘を八つ裂きにしてやろう。