バッカーノ! The Rolling Bootlegs
『1日目』 ⑥
「でも凄いねえ、私達、そんな大金持ちになれるの?」
「なれるさ。
クイーンは物理的に無理だろう。
「よく
いつしか二人は感極まって、ジャズミュージックを口ずさむ。
そして、車に
⇔
「──死んだか?」
車の後部座席から、
「いえ………速度が速度ですから……あ、動いています。おそらくバランスを崩して転倒しただけでしょう」
運転席から返って来たのは、若い女の声だった。
「なら、さっさと行け」
「はい」
何事も無かったかのように、車は速度を上げて走り出した。路地裏を抜け大通りにまで出ると、ようやく男が話題を続けた。
「……気をつけろ。
「申し訳ございません。
男は少しの間沈黙する。そして、運転する女は今までくだらない
「……踊り出した?」
「はい、男の方はタキシード、女の方は黒いドレスを着ていましたから……恐らく舞台の
「………ブロードウェイには少し遠いぞ」
「あと…男の方は右手に
男は
「…近頃の若い者はわからんな……」
運転席からの返事は無い。
「ふん……もっとも、昔から若い
ゆっくりと目を
「そうだな……200年程前……あの
「…セラード様に比べたら、世界の
運転席からの声が耳に入る。独り言を
「無論だ。だから私は誰も信用していない」
その言葉を最後に、車内は沈黙に包まれた。
女の運転する黒い大型車は、グランド・セントラル駅の南にあるビルの前に止まった。
周囲を見渡すと、来年完成予定といわれているエンパイア・ステート・ビルが見えた。建造中であるにも関わらず、堂々たる威圧感をもって町を見下ろしている。
女運転手が先に降りて、後部座席のドアを開く。後部座席の方に
セラード・クェーツは不機嫌そうに降り立つと、ただでさえ
「……
女運転手が
扉の前に来ると、運転手は傘を持たない方の手で
ビルの中には、何も無かった。ただ部屋の仕切りがあるだけで、生活の
セラードは登り階段の横にあるスペースに行くと、その床に何度か
数秒の
少し前の床が持ち上がったかと思うと、中から初老の男の首が
「これはこれはクェーツ様、お久しゅうございます!」
「たかが20年だ。そう久しくも無い」
「ははは…
「時は常に一定だ。感じ方が違うのは認めるがな」
そんな会話を交わしながら、二人の老人と一人の女が階段を降りて行く。
老齢を思わせぬ足取りの先に、彼らがいた。
「おお、クェーツ様」
「お元気そうで何よりです」
「何一つお変わりが無い…」
「やはり
十数人の男達が、20年前と何ら変わらぬクェーツの姿に感嘆の声を
男達の
囲まれた老人が囲む老人達を見回して、つまらなそうに言った。
「バーンズとスタージェンの姿が無いな」
老人達は互いに顔を見合わせ
「バーンズ様は現在『蒸留所』の方におります。……スタージェン・ハイム様は…昨年、永眠なされました」
「そうか」
特に感情を抱いた様子は無かった。
「
死因が老衰であると断言する。そして、異議を唱える者はいない。
彼らは理解しているのだ。自分達は、事故や病ではまず死なないという事を。
「出来そこないの酒では、お前達に
小さな歓声が、地下の広間に響き渡った。
「…しかしだ、何やら問題が起きたようだな」
歓声が、一瞬にして静寂へとすりかわる。
「調合師が死んだというのは本当か」
セラードの言葉に、
「は、はい……昨日、
「犯人はどうした?」
すると、40
「セラード様。犯人は捜査官の囮捜査により、つい先ほど
「……偶然か…。こんな事なら…名前も知らんが、その調合師もメンバーに加えておくべきだったな。…出来そこないとは言え、あれさえ飲んでいれば強盗ごときで死ぬ事は無かった」
何か思うところがあるのか、セラードは軽く舌打をした。
「お言葉ですがセラード様…その者は調合と
「そうか……そうだな」
貴様らも大して変わらんと思うがな。心中で周囲の老人達を
「…調合師はまた探せばいい。問題は『完成品』だ。バーンズが確保しているのだろう」
「はい、
「
「あそこは名目上小麦の倉庫となっておりますから、
だったらお前らが行けばいいだろうに。
「エニス。車で酒とバーンズを迎えに行け」
「はい」



