バッカーノ! The Rolling Bootlegs
『1日目』 ⑤
しかし二人は気にもせず、儀式の後に行われるパーティーの
その時、入れ替わりで男女の二人組が入って来た。
男の方はマイザーよりも
二人ともやけに気取った格好で、男の方はノーネクタイのタキシードに黒い皮手袋。女の方も黒く染まったワンピースに、
要するに、
「おっと、失礼」
肩がぶつかったので、マイザーが即座に謝った。
「おいおい、気をつけてくれよ」
「気をつけてくれよ!」
男の言葉を追いかけるように、女も同じ言葉を
その場はそれ以上何も無かったが、フィーロはそのブロードウェイから抜け出して来たような男女を見ながら思う。
(二人とも
自分の
フィーロ達が去った後の
「いいか、ミリア…もう一回だけ確認しておくが、決して目立つような行動はするなよ」
「
「その通りだ。解ってるならいい」
服装と比べてあまりに説得力の無い会話をすると、二人は帽子に埋め尽くされた壁を見回した。男は右手に旅行用の大きな
「
「買い放題だね!」
「帽子で世界が征服できそうだ」
わけの解らない例えを持ち出すと、男は適当な帽子を手に取り、指でくるくる回し始めた。
「どんな帽子にする?」
ミリアが尋ねる。
「まあ、最初は普通のでいいだろう。…いや、
店の奥に行くに従って、
冬だというのに麦わら帽子が並べてあったり、インディアンの羽飾りが置いてあったり、イギリス王室の
「…これって勝手に売っていいのか?」
アイザックが手にしているのは、ニューヨークの制服警官の装備品であるヘルメットであった。一方ミリアの方は、合衆国の軍用ヘルメットを
「うわ、こりゃ
棚の上段に、
「なあにこれ? ブーメランかなぁ?」
「これで
その
「はーん…日本の
「きっとそうだよ。なんだかピカピカしてるし!」
王冠の下の段には、なんとか文明の仮面だの
「……ちょっと
「
ミリアがニッコリと笑いながら、さらりと恐ろしい事を口走った。
「まあいいや、まとめて買ってこう」
ミリアの
それでも、店主は無言だった。目でちらりと品物を見ただけで、紙にさらりとそれぞれの単価と合計金額を書き連ねた。
紙には、銀行員の給料二ヶ月分程の額が示されている。男はバッグの中から
一分後、多く出しすぎた十数枚の
「いいか
「忘れるんだなあ」
余計な事を言う二人。ただでさえ目立つ格好でこの言動では、場合によってはその場で通報されかねない。どうにもこの二人、外見と
「もし警察なんかに通報したら………したら……どうする?」
自分が犯罪者だと告白しながら、ミリアへ堂々と助け舟を求める。
「んーと、
「そうか。ともあれ
「ぶつ!」
どうやら外見以上に
二人の
男女は途端に無言になると、レジに置かれた品物を
店主は新聞に目をやると、今しがた来た客の事など奇麗さっぱりと忘れてしまった。
「はあはぁはぁ……こっ………ここここ怖かったぁ」
「怖かったぁ」
「くそう……あの爺さん、きっとかなりの
「
「そう、それだ…ひと睨みで俺を退かせるとはな……いや、もちろん戦えば勝てたけどよ、ほら、なんだ、相手も強いから、ミリアに
「本当に?」
ミリアが
「ああ本当さ!
「八十七回ぐらい」
「………」
「………」
「そらみろ! まだ百回以下じゃねえか!」
「本当だ! すごおい!」
心の底から感動の声をあげる。この調子では、危険だと認識すらできなかった危機も数あることであろう。
「そうさ! このニューヨークで最後の大仕事をして、後はマイアミあたりでのんびりと暮らすんだ。そうなりゃもう俺達に危険なんて言葉は
「
「大きい家を買おう。そこにプールを作って、朝から晩まで泳ぎ通そう」
「夜は寒いよ」
「大丈夫、ストーブを十台ぐらいつけりゃプールも暖まるだろ」
「十個も!
確かに砂漠の夜は冷え込むが…どうにも頭の悪さが
「それで、庭には鉄道を走らせようぜ。家から門まで、毎日汽車に揺られるのさ」
「わあ、でもそれじゃ切符代が大変だよ」
「それもそうだ。よし、鉄道はやめよう」



