Fate/strange Fake(1)
プロローグⅡ 『バーサーカー』 ③
だが、運がよかったことに、
フラットはそのまましばし
中から出てきたのは、ひと振りのナイフ。
歯止めはしてあるものの、刃の光沢などはどことなく高級感がある。
「でも、本当に教授には
箱から取り出した後も
そして──あろうことか、聖杯は彼を選び、聖杯戦争への参加資格である令呪をその身に宿らせたのだ。
ただ、ナイフと令呪を見比べながら──彼は先刻と同じように、時折何かを
30分ほど経った
他の令呪の持ち主達が知れば卒倒しそうな出来事が、その公園の中で巻き起こる。
それは正しく奇跡とでもいうべきもので、仮に彼の
奇跡と呼ぶべきか偶然と呼ぶべきか、あるいは彼自身の才覚を理由とするか。いずれにせよ、彼の
ただし、それを知覚したのは当のフラット本人だけだったのだが。
『問おう。
「は、はいッ!?」
ヤケにハキハキとした声が
だが、周囲には家族連れやカップルが
『今の返答は肯定と見ていいのかね? ならば契約は完了だ。共に聖杯を望む者同士、仲よくやっていこうではないか』
「え? ええッ!?」
首を上下左右に
混乱する青年を
『なんと……
「え、ええと……すいません、色々
『ふむ……まあいい、それだけ優秀な
どうやらサーヴァントらしき存在の声は、
自分の中から、
「あ、あの……どうにも
『いや、私が特殊なだけだ。とくに気にしないでくれたまえ』
サーヴァントの声は思ったよりも気さくな調子で、奇妙なことに、
『何しろ私には、確たる「素性」というものがないのでな。姿も形も、
男なのか女なのか、老人なのか子供なのか、どのような
「あの……
ふと、そう尋ねてみた。
自分が手にしたナイフの出自が事実ならば、その正体は自分の想像通りのはずだ。
だが、フラットの中ではどうしても頭の中の声と、彼のイメージする『
頭の中で『英霊?』としたのは、フラットにも、それが『英雄』と呼ばれる
だが、恐らく──英国産の映画や小説が普通に出回る国ならば、ほとんど知らぬ者はいないだろう。もっとも、知名度ではシャーロック・ホームズやルパンに劣るだろうが──彼らと違い、その存在は過去に確実に実在した存在である。
その視界の中に、不意に黒を基調とした大柄な男の姿が目に入る。
「あ、やっと
「何を言っている?」
黒い服なのは当たり前だ。
腰に
「ナイフを握って独り言とは
「い、いや! あの! 違うんです!」
「
と、眼前の警官が突然柔和な態度となり、手にした警棒をフラットに持たせる。
それは質感などは本物の警棒であったのだが──その質量が、途端に手の中から消え失せる。
驚いて前を見ると、そこにはすでに警官の姿など存在せず、代わりに
そして、その女性が、女の声のまま、先刻頭の中に
「自己紹介の前に、私の特性を理解してもらおうと思っただけだ」
「え? え? あれ!?」
さらに驚くフラットの前から、
『驚かせてすまない。我がマスターよ。実際に見せたほうが早いと思ってな』
声は再び、頭の中に。
周囲にいた家族連れの何人かはその『異常』の一端を目にしていたようで、目を
その様子や、目の前に残るハイヒールの足跡などを見ても、今しがた見た者が幻覚などではないと確信できる。
『では、改めて自己紹介するとしよう。我が
フラットはゴクリ、と息を
彼はこのサーヴァントの正体を知っている。だが、真命はその『伝説』にとって、まったく別の意味で重要な意味合いを持つ。
彼は期待をこめて相手の声が脳内に響くのを待ち続けたのだが──。
サーヴァントの答えは、彼を別の意味で驚かせる結果となった。
『正直な話、私にもわからん』
「ちょっとッ!?」
思わず中腰になる青年だが、中腰になったところでつかみかかる相手もいないことに気付き、恥ずかしそうに周囲を見回しながら腰を下ろす。
そんな青年の様子を相手にすることもなく、声は、やはり感情も特徴も感じられない調子で
『私の本名を知る者が居るとすれば──恐らくは、伝説ではない、真実の私と……あるいはその凶行を止めた者だけだろう』
× ×
フラットの持つナイフは、実際遺物などではなく、イミテーションに過ぎなかった。
だが、その
大衆向けとして作られたイミテーションだからこそ、より強く
そのサーヴァントに名前などなく、だが、確実にこの世界に存在した
だが、人々は
姿すらも、本当の名前すらも、男なのか女なのか、
いや、果たして人間であるのかさえ。
恐怖の象徴として世界を恐れさせた、性別すらわからぬ『彼』は、やがて人々の手によって様々な姿に想像され、
あるいは医者、
あるいは教師、
あるいは貴族、
あるいは
あるいは肉屋、
あるいは
あるいは
あるいは
あるいは狂気。



