WORLD END ECONOMiCA I

序章

 その昔、月の裏側には異世界への入り口があると言われていた。

 地球から月の裏側を見ることはかなわず、そんな夢を見ることも可能だったのだ。

 道の先、海の果て、大地の底。

 この世にはたくさんの、誰も見たことのない場所があり、多くの想像をきたててきた。

 そして、誰かが必ず、その誰も見たことのない景色を見てきたのだ。

 自分もそうしてみたい、と思ったのは自然なことだったろう。

 すでに誰かが見たことのある景色ではなく、まだ誰も見たことのない景色を見てみたかった。

 自分が生まれてきたことに意味があるのだとしたら、まさしくそのためだと思った。

 以来、目に映る物全てが手段となった。未踏の地に自分の足跡を残すという自分の夢を叶えるための、手段になったのだ。

 ぐずぐずしてはいられない。

 そんなことをしていれば、また誰かに足跡を残されてしまう。

 速く。速く。もっと速く。

 人類は増え続け、時間はに流れていく。

 その先頭に立つことができるのは本当に一握りの存在だけ。

 先頭に立った時、なにが見えるのかと考えない日はない。

 見慣れた場所も、へきえきする常識も、つまらない過去もない、まっさらな大地。

 自分の一挙手一投足が歴史になる、そんな最前線。

 月面の「静かの海」には、人類で最初に月に立った人物の足跡が、今もそのまま残されている。

 それは多くのことを物語っていた。

 一メートルにも満たない、砂に残された跡。

 しかし震えるほど、かつこういい足跡だった。