アリソン
第一章 「アリソンとヴィル」 ⑤
アリソンも言葉に詰まった。しばらく
「そう! おもしろい話があった。会ったら話そうと思っていたんだ」
楽しそうに言った。ヴィルに向け人差し指をぴっ、と立てて、
「わたし、この前ラブレターをもらったのよ!」
「……ふうん」
「〝ふうん〟、って、それだけ?」
アリソンが
「いや。まあ……」
今度はヴィルが視線を泳がす。
「それがおもしろい話だから、
〝河向こう〟に反応して、ヴィルは驚いてアリソンを見た。アリソンは楽しそうにヴィルを見ていて、目が合った。
「……どうして?」
ヴィルが、これ以上ないほど真剣な顔で聞いた。
「半月ちょっと前に、ロクシェ空軍と向こうで、合同の
ヴィルは
「ラジオで聴いたし、新聞でも読んだ。両方の軍が同じ場所で何かをして、初めて死人が出なかったって書いてあった。
「そう。水上飛行機を使って、
「それで?」
「彼の第一声がこうよ。『こんにちは。あなたはロズメーツ
「そしたら?」
「そしたら、向こうはいたく感激して、まず
「で?」
「おもしろそうだったからついていって、向こうの兵士達にとんでもなく注目されて、飛行機についてお話しして、少しだけ盛り上がって──その時はそれっきり。訓練が終わって四日
「…………。それ、
「もちろん。でも、ちゃん届いたわよ。でね、部隊ではちょっとした話題になって、勇気のある
「…………」
黙り込んだヴィルに、
「驚いた?」
アリソンが少し自慢げに
「驚いた。驚いたよ……。それに感心もした。うん。驚いた」
ヴィルが、アリソンを見ながらつぶやいた。
「でしょう?」
「そんな段階まで大丈夫なのか……」
「はい? 何が?」
「両方の関係がさ。軍事交流があっただけで驚いたけれど、軍人同士がそんなに気軽に話して、ましてや手紙が送れるなんて思ってもみなかった……。アリソン、とりあえず手紙だけでもやりとりしようって返事を出せばよかったのに──いてっ」
アリソンはヴィルを
* * *
ヴィル運転のサイドカーは、畑の中を走っていた。道は一段高くなっている。土を固めただけで、舗装はされていない。
アリソンは、
何もないところで、ヴィルが速度を落とした。前を見ながら、アリソンに話しかける。
「そう言えば先月、僕はカアシに行った」
「……先月ってことは、例のお祭りでしょう?」
アリソンは顔をヴィルに向けた。ヴィルが
「それは、ちょっといいな。楽しかった?」
「それが……、遊びに行った訳じゃなくて、
「ヴィルが? どうして?」
アリソンが驚いて聞き返した。ヴィルは運転しながら、のんびりとした口調で話す。
「春学期に友達に誘われて、拳銃
「それは、そうでしょう。ラプトア共和国の射撃部なんて、一度はあの祭りに出て、みんなの前で撃ちたくて練習してるんだから」
アリソンが
「それで、結果はどうだったの? 何かもらえた?」
軽い
「六位だった」
ヴィルがぼそっと答えて、
「なんですって? 六位?」
アリソンは
「立つと危ないよ。──偶然だったのか、たまたま調子がよかったのか。緊張していて、よく分からない間に始まって終わったみたいだった。でも、みんなが
アリソンはゆっくりと座った。
「それは、そうでしょう……。はー、驚いた。どうしてそれをさっき言わないのよ?」
「なんか、自慢したいみたいで」
ぽつりと言ったヴィルに、アリソンが人差し指をさす。
「ヴィルはね、何度も言うけれどもっと自分を誉めた方がいいわ。多少
そしてその手を開いて空に向けて、
「──って、そんな性格じゃないか。いいわ。代わりにわたしが、今度から
ヴィルは、苦笑いと照れ笑いの中間の顔を作った。
「ヴィルに鉄砲って向いているのかもね。ほら、のんびりやさんほど射撃は
「そう言ってくれたのは、アリソンで二十七人目だよ」
「数えてるの?」
アリソンが聞いて、
「いや。覚えてるだけ」
ヴィルは何気なく言った。アリソンはふーんとつぶやいた。そして、
「射撃の腕がいいのはいいな。わたしなんか、拳銃の訓練で五メートル先のスイカに当たらないのよ。隊長には、『そんなんじゃ
「……僕に聞かれても」
細い道は、用水路をまたぐときに橋になる。
石橋の
七十歳を過ぎたほどの男性で、頭は
老人は、遠くからやってくるサイドカーを見つけた。
「ああ。あのお
ヴィルが、道の先で手を振る老人を見て言った。速度とギアを落とす。
「知り合い?」



