アリソン
第一章 「アリソンとヴィル」 ⑥
「知り合いかどうかはともかく、うちの学生であの人を知らない人はいない。町はずれの一軒家に一人で住んでいて、何をやってるのか全然分からないんだ。毎日町や草原をぶらぶらしていて、たまに学生をつかまえて、変な
「変なって?」
「いろいろ。自分はかつてとある王家で
「なにそれ」
「
「ふーん」
「たぶん、家まで乗せていってほしいって言うと思うよ、だいぶ前にも一度あった」
ヴィルは、道をふさいで両手を振る老人の少し前でサイドカーを止めた。彼は、老人とは思えないほど素早く駆け寄って、
「やあ! いつも勉学にいそしむ上級学校の優秀な学生さん。……と、なんとも
ヴィルが軽く周りを見渡す。草原しか見えない。質問をするために、
「どうぞ」
老人にその席を
「おおこりゃすまんの」
老人は側車に、アリソンはヴィルの後ろのサドルに座った。
「いいの?」
ヴィルが振り向いて聞いて、
「どうせそのつもりだったんでしょ? ヴィルが頼まれて断る訳ないし。それに──」
アリソンは笑いながら言う。
「
すぐそこと言われた老人の家は、たっぷり十キロは離れていた。
バス道から外れて、
井戸の前に、自転車にエンジンをつけたような、小さなバイクが置いてある。ヴィルは、その
「いやあ、助かったよ。どうもありがとう。とてもていねいな運転だな。感心した」
老人がそう言いながら
「お
彼女はエプロンを脱ぎながら、いきなり大声を出した。
「まったく! こっちの都合というのもあるんですからね。戻ってこられないんでしたら遠くまで
「いやあ、すまんすまん」
老人が、少しも申し訳なさそうではない態度で言った。
「そうそう、こちらは乗せてくれた親切な学生さんと、そのお知り合いの
「うるさいは
そう言い残し、お手伝いさんは小型バイクに乗ってエンジンをかける。
「きぃつけてな」
老人が言うと、彼女は振り向いて、驚いた
「はい」
小さく言い残して、小型バイクは走り去った。そして老人は、二人をお茶に誘った。
「せっかくだから、午後のお茶でのんびりしていきましょ。どうせ予定ないし」
アリソンはそう言って、
ドアを開けてすぐに小さなテーブルがあって、イスが三つ。
「ああ、二人とも座っていていいよ。すぐにできる」
老人はそう言うと、手際よくポットにお茶を作り、テーブルに持ってきた。アリソンとヴィルは、礼を言ってカップを受け取った。
老人は自分の分もなみなみとついで、イスに座った。
「いや。疲れたらお茶だな」
楽しそうに老人が言った。お茶を
「おいしい! こんなおいしいの初めて飲んだ」
ヴィルも飲んで、静かに
「おいしいです」
老人がぱしんと手を
「それはよかった。何せこれは、スターツ王室
「へえ、いいですね。──で、その話も
アリソンが聞いた。ちょうど飲み込もうとしていたヴィルがむせた。
「アリソン……」
「だって──」
「あはははは! 実は本当じゃあないんだ。すまんな。王家は全然関係ない。そう言えば庭師もしたことないなあ」
老人は
「やっぱり」
アリソンも楽しそうに言った。ヴィルは老人を見て、
「以前
「おお。よくそんな昔のことを覚えているな。……一年以上前だろう」
老人がいたく感心した
「ええ。それは本当ですか?」
「いいや。すまんな」
老人が正直に答えて、アリソンは笑った。
「お嬢さんも、あそこの学生さんかい?」
「ううん。私はそんな頭よくないからとっくに働いてるわ。休暇で遊びにきただけ」
老人は頷いた。
「ヴィルはもちろん学生で、成績もよくて、カアシ祭の
アリソンは、ヴィルの背中をはたきながら言う。
「ほお、それは大したものだ。自慢していい」
老人が目を大きくして言った。
「でしょう?」
「ただ、わしにはやや及ばんな。わしが若い頃は、優勝が四回、二位が三回だった。あまりに勝ちすぎて、もう出るなって言われたよ」
「それも
アリソンがヴィルを指さして言う。
「これからがんばります」
苦笑いしたヴィルがそう答えて、老人とアリソンは、同じように笑った。
「いやあ、お嬢さんはなかなか楽しい人だ。学生みんながそうだと、わしも一生
「いただきます」
アリソンが二杯目をもらって、老人はヴィルにも勧める。ヴィルは
自分のカップについだ後、老人はイスに座った。
「ところで、だ。お二人さん。退屈しのぎにもう一つ、おもしろい話をしてあげよう。これはまだ、あまり
老人はさんざんもったいぶって、そして言う。
「
「宝?」
言い返したアリソンがヴィルを見た。ヴィルはカップに口をつけながら、
「ああ、宝だ。興味はないかい?」
老人が身を乗り出して言った。アリソンが聞く。
「それ、本当の話ですか?」
「ああ。わしはたくさんでまかせを言ってきたが、実はこれだけは本当だ」
老人が、
「もし
そう言いきった老人を見て、数秒
「そう……。興味あるわ。──どんな宝?」
「凄い宝だ」
「いくらくらい?」



