学園キノ
キノの旅第四部・学園編第一話 「キノ颯爽登場!」─Here Comes KINO─ ⑩
エルメスがそう言った
「何……?」
「さあ乗って! 屋上まで駆け登るんだ!」
そう
「朝それやってくれれば、遅刻しなくてすんだのに……」
「いいから早く!」
キノはエルメスにまたがると、右足でキックスターターを
キノはアクセルを
「行くよ、エルメス!」
「行こう! 今始まる二人の愛のライド!」
いつの間にか二人乗りしていたサモエド仮面がキノにしっかりと抱きついてそう言って、キノは発進と同時に左手
「あう」
落ちた男に
「えい!」
キノは一気にアクセルをあけて体を後ろに。そのままドカドカと駆け上がります。踊り場では
化け物は、まだ手すりの向こうにいました。
「早まらないで!」
キノがエルメスを止めるやいなや飛び降りてそう叫びました。エルメスは、
「うわー」
がちゃん! と左側に倒れます。
「
キノは化け物に向かい一歩近づきましたが、すぐにでも飛び降りそうな化け物を見て足が止まります。
「ど……う……せ……」
化け物が、言葉を発しました。半地下の踊り場で泣いていた、か細い女の子の声でした。
「どうせ……私……なんか……。
身の丈三メートルの化け物は恐る恐る金網にしがみついて、そう言って大きな目から涙を流すのでした。
「そんなことはない!」
キノが叫びました。
「そんなことはない! あの先輩は、別にあなたのことを邪魔者だなんて思ってないわよ!」
「ほ……ん……と……?」
キノは両手を広げて、力を込めて言います。
「そうよ! たまたま断り方が
「で……も……、すぐに……その後、一年の……髪が短い子と……キスしてた……」
へ? とキノが
「したっけ?」
「たぶん偽の映像を見せられたんだ。それより起こして」
キノはエルメスを起こさずに、再び化け物へと振り向きます。
「そんなことはない! きっと何かの誤解! あの先輩は、
「じゃあ……、私はなんで暴れているの……?」
化け物の
「誰だって、ふられたらちょっと荒れるからじゃない? 部屋で
キノもまた、
「そう……。私……。
化け物が、ゆっくりと手すりを乗り越えて、屋上のコンクリートの上へ。その際手すりはグニャグニャに
「じゃあ、戻りましょう!」
「どうやったら……、戻れるの……?」
ゆっくりとキノへと足を進める化け物へ、キノは右手で抜いたビッグカノンを向けました。
「そのままでいいの。わたしがあなたを助ける。だから目を閉じて……。どうしたいのか、心の底から
「私……。戻りたい……。
化け物が静かに歩みを止めて、大きな体で
「戻りたい……」
エルメスが、
「今だ、キノ」
「うん」
キノがビッグカノンのハンマーを親指で上げます。カチリ、と音がして、相手の胸へとピタリ
「危ない!
サモエド仮面が汗ダクダクで
化け物は先ほどまで自分の命をマジで狙っていた相手に瞬時に反応すると、そいつへと猛ダッシュをかけました。
「来たな我が愛刀のサビにしてくれる!」
抜刀したサモエド仮面めがけて飛びかかる化け物へ、キノの狙いが動きます。
「外せない……。一発キリ……」
やがてサモエド仮面と化け物が
「今だ! ──できれば一発で二人いっぺんに!」
キノは
た──────────────────────────────────んっ!
学園の屋上に、長く重い銃声が
そして、学園に静寂が戻ります。
髪の長い生徒でした。どこにもけがはなく、気を失っていただけでした。担架で運ばれていくとき、
「戻れる……。きっと……」
小さくつぶやいて涙を流しましたが、救急隊員にその真意は伝わらなかったことでしょう。
安全が
髪の短い生徒でした。どこにもけがはなく、机の上に
「ちっくしょー、やっぱ
小さくつぶやいてため息をつきましたが、クラスメイトにその真意は伝わらなかったことでしょう。
最上級学生担当の教師が教室に戻ってきたとき、日本刀を腰に差した一人の男子生徒が、頭からダラダラ血を流しながらすました顔で立っていました。
「先生もご無事で何よりです」
(
あえて無視しました。
学園に風が吹きました。
屋上に落ちていた
今──
彼らはこれから何を見て、何を得て、何を食べて、何を失うのでしょうか?
彼らの学園生活は始まったばかりです。
ところで静。保健室行った方がいいぞ。



