男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。I ‐Time to Play‐〈上〉

第二章 「四月十七日・僕は彼女に聞かれた」 ②

『私あの人嫌い。でも、向こうもそう思ってるわよ』


 多分、こんな感じになる。

 あまり英語らしくない響きの言葉だけれど、それもそのはずで、元はラテン語らしい。

 この英語表現を知ったのは、中学生のときだ。英語の授業ではなかった。教科書にはっていなかった。図書館で見たやや古いアメリカ映画のタイトルが、これだった。



『ヴァイス・ヴァーサ』がどんな話か一言で表せば、〝異世界しようかんモノ〟だ。

 応募原稿の、そしてやがて一巻となった話のあらすじは、こうだ。


 主人公は、現代の日本に生きる少年。

 名前は〝つみぞのしん〟。もちろん、ヴァイス・ヴァーサの意味、〝逆もまた真なり〟に引っかけている。

 真は、おとなしい性格の男子高校生だった。遠くに山々を望むぼう県の某町で、幼なじみの女子の〝ゆい〟や、あまり多くはないが気の置けない友達に囲まれて、とてもおだやかな高校生活を過ごしていた。

 しかし、あるときなぞの音楽が頭の中に聞こえたかと思うと、突然異世界へと連れていかれてしまう。

 そこは、〝レピュタシオン〟と呼ばれる、絶対に地球ではないどこか。空に五つの月が浮かんで、わくせいを囲むリングが光り輝く場所。

 ほうが当然のように存在し、エルフからドワーフからいろいろな人種が、そしてありとあらゆるモンスターがせいそくする世界。

 わけも分からずさまよう真は、そこで、自分そっくりの少年と出会う。

 それが、もう一人の主人公である〝シン〟。

 外見はふたとも思えるほどそっくりだが、真とは対照的にこうげき的な性格とそうぜつな戦闘能力の持ち主だった。

 シンは、この世界に乱立する王国の王子。少し前に先王の父が死に、若くして国を受けいでいた。

 シンは、自国を生き残らせるために戦っていた。そして、やがてはこの世界を一つにまとめることを、誰もが安定して暮らせる世界を夢見ていた。

 レピュタシオンには、かつて〝偉大なる二人の王〟がゆうを決する大勝負をした歴史があった。勝ち残った〝真の王(自称)〟が、以後統治していた。しかし、数百年の時代が過ぎ、〝真の王(自称)〟はいずこかへと消え去っていた。そのこうかすみ、今は混乱の時代を迎えていた。

 しんは、そんな血なまぐさい戦国時代の真っただ中に放り込まれるになった。そしてそうぐうした最初の戦闘で、あっさりと死んだ。

 そして、生き返った。

 この世界において真は、何度でもよみがえろう者だったのだ。

 どんなに体が痛めつけられても──、つまり首が飛ぼうが、全身が焼かれようが、爆弾で小間切れになろうが、血肉は集まり、必ず復活する。

 シンはそんな真に目をつけて、彼の利用を思いつく。

 真はそんなあらごとには首を突っ込みたくないと思いながらも、他に生きるすべも戻る方法も分からずに、シンと行動を共にする。



 シンの妹で、やはり顔は二人によく似ている美少女エマ、二人の近衛このえへいである美人メイド集団、マッチョなぞろいの臣下達といつしよに、真は乱世での毎日を何度も死にながら過ごし──、

 やがて、強大な敵国との戦争を迎える。

 りんごくの若きもうしようプルートゥが軍勢をひきいて、シンの国にめてきたのだ。

 負ければ国がなくなるという状況で、しんは、しようは優しく、いくさを誰よりもきらっているシンの心と決意を知った。そしてありったけの勇気をしぼり、シンに協力することを決めた。

 最終決戦。

 真はシンのかげしやとなって、わざとりよになった。

 にせものだとあっさりばれて殺されて、作戦通り生き返って逃げ出して、真は戦場を混乱させる。そして、最後はプルートゥとの一対一の勝負を迎える。

 真は何度死んでもプルートゥに食らいついて、戦った。結果、美形のプルートゥが実は男装のれいじんだったと分かったすきに、勝利する。

 こうして、敵国をなんとか退しりぞけて、真とシンは国を救った。

 シンやエマが、国家として真へのほうしゆうを考えているとき──、自分をここに送り込んだあの音楽が聞こえてきて、真は戻れることを知る。

 レピュタシオンから消えるとき、真が同じ顔の少年にかつこうよく言い残したのは、


「貸しにしとくぜ! シン!」


 だった。

 現代日本に戻ってくると、そこでは、一秒も時間が過ぎていなかった。

 消えた場所、消えた時間に無事に戻ってきた真は、あれは夢だったのだと思いながら──、

 それでも少しの勇気が出せた自分を誇らしく感じながら──、

 自分を呼ぶ友達の声へとけていく。

 おしまい。


 と思わせて、ここでは終わらない。

 ページをさらにめくらせて、本当のラストは──、

 数日後の放課後、ゆいや友達と遊びに行く途中の真の前に、


「なんだここはっ!?」


 現代日本に突然現れた、完全武装のシン。

 そして、それを見た真の顔。

 一巻は終わり、二巻に続く。



『ヴァイス・ヴァーサ』は、九巻まで出ている。

 そのうち奇数巻が〝サイド・真〟、偶数巻が〝サイド・シン〟と呼ばれている。

 これは、僕と担当さんがメールの中で便べん的に使っていた言葉だったのが、そのうちに作品紹介の文章に使われて、今ではすっかり読者さんたちにも広まった。

 だんだが、耳では区別がつかないので、サイド・しんを〝サイド・まこと〟と呼ぶこともある。

 奇数巻は、真がレピュタシオンに飛ばされて戦う、血なまぐさくてシリアスな話。

 偶数巻は、シンが現代日本に飛ばされて騒動を引き起こす、コメディタッチの話。


 二巻──、日本にやってきたシンは真の友人達に見つかって、真のとっさの思いつきで、〝中世よろい姿コスプレ大好きの、長い間生き別れていた顔がそっくりでふたわくがある〟という設定にされる。

 それから、シンはけいさつじゆうとうほう違反でつかまりそうになり、車やビルや飛行機など現代日本のいろいろなものに驚き、遠くを見ようとして高圧電線てつとうに恐るべき早さでよじ登り感電死して落下して──、

 そしてやっぱり生き返る。

 このままだと食うために追いはぎをしでかしそうなシンを、真は家に連れて帰る。

 すぐに母親にばれたが、


「従兄弟ならしかたがないよね」


 のんびり屋の母親になぜかあっさりと受け入れられて、いつしよに生活することになる。

 いつどうやったら戻れるのか分からないまま、シンは真と日本で暮らし──、

 やがて真の周りで巻き起こったトラブルを、かなり強引な方法で解決する。

 二巻の最後、消えていくシンへお礼を言いかけた真に、


「貸しにしとくぜ! 真!」


 前巻とまったく逆のシチュエーションで終わる。


 三巻では、真が再びレピュタシオンへ。

 四巻では、シンがまた日本へ。今度は、たまたま手をつないでいた妹エマもついてくる。

 こうして、シリアスな話と、コメディタッチの話を繰り返していく。


 自分で言うのもなんだが──、

 いや、書いた自分だからこそ誰よりもよく分かっているのだが──、

『ヴァイス・ヴァーサ』は、コテコテな話だ。

 中世おうしゆうっぽいファンタジー世界も、多種多様なモンスターも、派手なほうも、あやしい科学とメカも、戦闘も戦争も、旅の要素も、あいぼうもの要素も、可愛かわいくてえる美少女達も、多数の個性的なキャラクターも、熱い男達の友情も、政治家達のけんぼうじゆつすうも、同じ顔をふくめた推理トリックも、ろうネタも、色気のあるシチュエーションも、ギャグも、泣けるエピソードも、悲しい別れも、平和な学園物も、シニカルな不条理も、オタクなエピソードも──、