世界最強の魔法使い。だけどぼっち先生は弟子に青春を教わります

第1話 凶悪な弟子ども ⑫

「私たち3人が友達になって差し上げます!」


 私はフリーズしてしまった。

 イリアさんやプラミさんやメローナさんが……友達? 友達ってあの友達だよね?

 他愛もない冗談を言い合ったり、教科書を広げて一緒に勉強を頑張ったり、休日に仲良くショッピングに行ったり……。

 自分が弟子たちとそういうことをしている映像をイメージしてみた。

 光の速度で結論が出た。


「それはちょっと遠慮しておきます」

「何で!?!?!?」

「だ、だって怖いんだもん! イリアさんは権力と財力で脅迫してくるし、プラミさんは卑猥な目で見てくるし、メローナさんには問答無用で殴られそうだし」

「てめえ殺されてーのか?」

「ほらそういうところっ!!」

「じゃあ友達じゃなくて恋人になってあげる♡」

「だからそういうところっ!! ここにいる3人は私の理想の友達じゃないのっ!!」


 イリアさんは「はあ」と盛大な溜息を吐き、


「……では、もっと実利的な契約にしましょうか」

「な、なに……?」


 身構えてしまう。豪邸とかプレゼントされるのだろうか。

 ところが、イリアさんは予想外の提案を投げかけてきた。


「セレネ先生によれば、私たちはそれぞれセレブ・恋愛強者・不良という属性を持っているのですよね? これはある意味、リア充と解釈できるのではないでしょうか」


 私はとりあえず頷いておいた。

 確かにこの3人は私にないものを持っている。上流階級としての財力・権力・社交性、不良としての大胆不敵なメンタル、恋愛強者としての経験――とんでもないリア充たちだ。


「だからリア充の最先端である私たちが、セレネ先生を青春的に楽しませてあげますね」

「え……?」

「本当は友達になるのが手っ取り早いですが、先生が認めてくださらないようですので。……ただし交換条件です。私たちがセレネ先生に青春を教えてあげるかわりに、セレネ先生は私たちに魔法を教えてください。言うなれば〝青春契約〟――こうすればウィンウィンじゃないですか?」


 私はしばらく呆然と固まってしまった。

 凶悪な弟子たちと友達になるのはポリシー上、不可能だ。

 でも青春のいいとこどりをできるなら……いやいや騙されちゃダメだ! 結局この子たちと一緒に過ごすことになるんだから!


「や、やだ! 私にみんなを指導できるとは思えない……!」

「お願いです! セレネ先生に魔法を教えてもらいたいんです!」

「頭を上げてよっ……!」


 あろうことかイリアさんは土下座をして懇願した。必死でやめさせようとしたけれど、接着剤でくっついているかのごとく微動だにしない。このままじゃ、弟子をむりやり跪かせる悪徳マスターっていう噂が流れちゃう!


「……セレネ様、少しは譲歩してあげたらどうですか~?」

「無理だよ、私にも色々事情があるのっ」

「でもイリアさん、すっごく真剣ですよ?」


 私はハッとしてイリアさんを見下ろした。

 思い返してみれば、この子はいつだって全力だった。土下座なんてそう簡単にできるものじゃない。この子は魔法を学ぶために他のすべてをなげうとうとしている。


「そ、そんなに本気なの……?」

「はい。メローナさんやプラミさんもそうです。私たちにはセレネ先生しかいないんです……いえ、セレネ先生がいいと思ったんですっ」

「…………」


 私は悩む。悩んで悩んで悩みまくる。

 ここまで真剣に頼まれたら、断れなくなっちゃうじゃん……。