【恋バナ】これはトモダチの話なんだけど ~すぐ真っ赤になる幼馴染の大好きアピールが止まらない~
第一章 【恋バナ】これはトモダチの話なんだけど ①
「ねぇ、知ってる? なんかまた告白されたらしいよ」
ある春の朝、
ちらと視線を向ければ、前方に数人の女子が集まって話している。これはいわゆる恋バナというやつだろう。
「えー、またー? これで何人目? どうせ今度も振ったんでしょー?」
「まあね。これまで玉砕した男の数は百を超えてるとか」
「いやいや、いくらなんでも盛りすぎだって~! 多くても五十人くらいでしょ」
「あはは、それでも多すぎ~」
時に笑いながら、大声で盛り上がっている。こういう場合は、大抵が他人の恋愛話である。
(……なるほどな)
この時点で、蒼汰は話題の人物に見当がついていた。
都心から少し外れた位置にあるそれなりの進学校、ここ都立
しかもその女子といえば、蒼汰と同じ二年B組の所属で、それに──
──ガラーッ。
そのとき、前方の扉が開いた。同時に室内は静まり返る。
現れたのは、一人の女子生徒だった。
それが彼女の名前だった。
異様なほどに
だがそこで、先ほど恋バナをしていた連中の一人が近づいていく。
「おはよ、藤白さん! 今ちょうど藤白さんの話をしていたところだったんだよね~」
しかも自ら話題に挙げていたことを暴露したではないか。これには他の女子も驚いている。
「おはよう。そうなの?」
さっぱりとした表情で小首を
「ちょっと、本人に話すつもり?」
「いいからいいから。事の真相とやらをはっきりさせておきたかったし」
その女子生徒は
「あのさ、藤白さんってこの前サッカー部の
サッカー部の山内先輩といえば、部内のエースで相当なイケメンとも言われているザ・モテ男子のはずだ。それほどの人気者を即座に振った理由が気になるらしい。
皆から人気のイケメン男子の名前が出たというのに、乃愛は無表情で淡々と答える。
「興味がなかったから。──というか、正直誰のことか覚えてない」
ばっさり、と。
どこまでも素っ気ない乃愛の言葉に、女子生徒たちは衝撃を受けた様子で固まった。
(ああ、やっぱりこうなったか……)
その光景を遠目に眺めながら、蒼汰は
これまでにも蒼汰は、何度か同じような光景を目撃している。
乃愛は昔からこの手の話題を振られても素っ気なく答えるのみ。普通の女子が食いつくような恋愛の話には興味を示さずに、周囲を困惑させるのが常である。
だが今回に限っては、周囲の反応が予想していたものとは大きく異なった。
我に返った女子たちは
「やっぱり藤白さんって、すごいクールなんだね! そういうの憧れちゃうな~!」
「……どうも」
質問した女子は目を輝かせていて、乃愛は少し驚いているようだった。
どうやらこの一年で、『藤白乃愛はそういう人』という認識が学内に広まった影響らしい。
乃愛が恋愛話に興味を持たないことも、学内のイケメンからの告白を問答無用で断ることも、クールで話し方が少し独特なことも、今や意外なことではないというわけだ。
要するに、乃愛がちょっと変わった人だという認識が定着し、受け入れられたのだろう。
この変化が
「けどさ、うちらも今年で高二だし、そろそろ彼氏作らないとやばいよね! 来年受験だし」
「あー、華のセブンティーンって言うもんね~!」
「あはは、イマドキその言い回しはどうなん? でもマジで
「…………」
「藤白さん? おーい」
乃愛は黙っていたかと思えば、呼びかける声にも無反応のまま、会話の輪から外れる。
そしてそのまま、蒼汰の隣である
「おはよう、蒼汰」
「ああ、おはよう乃愛」
乃愛が名前呼びで挨拶をしてきて、蒼汰も親しげに返答する。
その光景に女子たちは黄色い声を上げた。普段から乃愛は男子とろくに話もしないことで有名だが、一人だけ例外がいて──それを実際に
蒼汰はそれらの反応を鬱陶しく思いながらも、乃愛との会話を続ける。
「話の途中だったみたいだけど、抜けてきてよかったのか?」
「問題ない。元々、周囲の意見に左右されるつもりはないし」
「そうは言うけど、もうちょっと
「必要ない。私は蒼汰にだけ理解してもらえれば十分だから」
淡々と口にした乃愛の言葉に、周囲の熱気はさらに増す。
騒がしい空気の中、蒼汰はわざと周りに聞こえるように告げた。
「そんなことを言うとまた勘違いされるだろ、俺たちはただの『
そう口にした通り、蒼汰と乃愛は『
二人の関係は十年以上も続いていて、いわゆる家族ぐるみの仲とも言えるほどに良好。それゆえに、乃愛は蒼汰にだけ親密に接してくるのだ。
「べつに、私は勘違いされようが構わないし」
「はいはい、周囲の意見に左右されない人は楽ですね~」
「相変わらずのつれない態度。照れ隠しもほどほどにしてほしい」
「反応しづらい言い方をしないでほしいんだが!? そりゃあ俺だって、時と場所を考えてくれればもう少し丁寧な対応をすると思うぞ!」
「蒼汰なんかもう知らないから」
「ここであからさまに突き放されると、それこそ
乃愛はむくれてそっぽを向いてしまう。
せっかくなんでもない空気を作り出そうとした蒼汰の努力は
そうして二人だけの空間ができたことで、蒼汰はふと乃愛の横顔を眺めてみる。
ぱっちりとした目元に長い
(やっぱりこいつ、黙っていればものすごく
いくら
──つまり蒼汰は、
きっかけはわからない。ただ、気づいたときには好きになっていたのだ。
けれど、この気持ちを表に出すつもりはない。



