【恋バナ】これはトモダチの話なんだけど ~すぐ真っ赤になる幼馴染の大好きアピールが止まらない~

第二章 【デート】可愛いあの子と急接近してドキドキ大作戦 ④

「「あ」」


 うわさをすればなんとやら。そこにはやはり、茜の姿があった。他にも三人、茜の友達であろうギャルっぽい女子たちの姿がある。

 だが、蒼汰が今最も気になっていたのは、隣にいる乃愛のリアクションだった。

 何せ茜を見た際、一緒に『あ』と声を出したのだ。あれは知人を目にした反応だろう。


(やっぱり、夏井さんがトモダチなのか?)


 仮に茜=トモダチであり、乃愛が茜の告白を知っていて、なおもトモダチの正体を隠す理由があるとすれば……考えてみてもはっきりとしたことはわからないが、隠していることで蒼汰に茜の存在を意識させず、情報を聞き出すことができるところはメリットかもしれない。

 などと蒼汰は考えながら乃愛の方をるが、こちらに視線を向けてくることはなく。


「どもです、一年の夏井茜ですよ。覚えてます?」


 茜はフランクな物言いで近づいてきて、そのまま目の前にやってくる。

 以前とは違い、緊張した様子はない。どこか吹っ切れたような態度だった。


「ああ、もちろん覚えてるよ。夏井さんね」

「やだなー、茜でいいですよ? その代わり~、あたしも蒼汰センパイって呼んでもいいですか?」

「え、べつにいいけど……じゃあ、茜ちゃんで」

「やった~! 蒼汰センパイと偶然会えるなんて、やっぱり休日は出歩くものですね~」


 これが陽キャのコミュ力というやつなのか、ほとんど面識のない後輩女子と名前呼びの関係になってしまった。

 しかも、相手は一度告白を断った女子だ。今どきの女子高生は、告白の結果うんぬんなどいちいち気にしないものなのだろうか。


「ところで蒼汰センパイ、デートのお邪魔しちゃいました?」

「いや、まあ……」


 茜が少し気まずそうに乃愛の方を気にしているのがわかる。

 てっきり、乃愛が威嚇でもしているのかと思ったが──


「…………」


 無表情。

 だが、乃愛のまとう雰囲気は絶対零度のごとくてついていて、上機嫌ではないことだけは確かだった。


「あ、ああ、紹介するよ。こっちはおさなじみの藤白乃愛」

「どもでーす、一年の夏井茜って言います」

「どうも」

「藤白センパイのことも知ってますよ? うちの学校だと有名人ですし」

「そう」


 んん? と蒼汰の中に疑念が生まれていく。

 二人の間に流れている空気はなんだか特殊だ。まるで竜虎がにらっているようであり、かといって表立っての闘争心は見せないように努めている感じ。

 ギリギリの部分でお互いが踏み込まない絶妙な均衡を保っていたかに思われたが、


「ねぇ」


 その均衡を破ったのは、意外にも乃愛の方で。


「私たち、どこかで会ったことある?」

「ギクッ」


 今、茜は『ギクッ』と言わなかったか?


「この顔、どこかで見たことがあるような……それも最近じゃない」

「え、え~、知らないなぁ? どこだろ? あたしは藤白センパイと違って、校内の有名人とかでもないんだけどなぁ~」


 ごまかし方が下手すぎて、どうにもかわいそうに思えてくるほどだ。

 と、そこで助け舟を出すように、後方のギャル集団の一人が「茜~、早く行かないとカラオケ混んじゃうってば~」と声をかけてきた。


「いっけない、もう行かなきゃ! でもその前に~、この間はありがとうございました! 蒼汰センパイとは連絡先って交換してなかったですよね?」

「うん、してないけど」

「じゃあしときましょ! ついでってわけじゃないですけど、藤白センパイもよかったら登録させてください」

「いいけど」


 乃愛は相変わらずの無表情でスマホを取り出し、茜との連絡先を交換した。


「それじゃ、また学校で~!」


 ひらひらと手を振りながら、茜は軽快な足取りで離れていった。

 茜があちらと合流した後、遠くでキャッキャと騒ぐギャル集団が一度だけこちらを向き、再びキャッキャとし始める。……あれはきっと、話のネタを見つけて喜んでいるに違いない。

 それはそれとして、先ほどまでのからみを見ている限り、茜が乃愛のトモダチという線については考え直す必要があると感じた。

 少なくとも、二人は普段から連絡を取り合っているような仲には見えないというか、連絡先の交換もしていなかったみたいだ。

 ……いや、それらも全てトモダチの正体をカモフラージュするための作戦だとしたら、蒼汰には手に負えない気もするが。


わいい子だった」


 ぼそりと、つぶやくように乃愛が言う。


「まあ、そうだな」

「蒼汰はああいう子がタイプなの?」

「な、なんだよいきなり」

「元から知り合いだったみたいだし、日頃からちょっかいをかけているのかと思って」

「いや、まあ、ちょっといろいろあっただけだよ」

「意味深。それが『この間』ってやつ?」

「うっ……多分、おそらくは」

「ふーん」

「の、乃愛の方こそ、やけに食いついていたじゃないか」

「……ううん、今日が初対面のはず」


 こっちもこっちで意味深というか、露骨に顔を背けている辺りが怪しい。

 ただまあ、ここで問い詰めるのはやぶへびというものだ。お互いにある程度のプライバシーは守るべきだろう。

 本当は蒼汰の方から、茜に告白された件を話してもいいのかもしれないが、茜も自分からは言わなかったし、乃愛から変に後腐れ的な仲を疑われるのも望ましくないので、ひとまずはやめておくことにした。


「それじゃ、帰るか」

「うん」


 二人で駅まで歩いてから、電車に乗る。

 行きは無言でもワクワクしたというのに、帰りの電車内は静かなだけだった。それに不完全燃焼な感じがする。誰が悪いわけでもないのだが、水を差されたようなものだからだろうか。

 このままデートが終わるというのは、なんとも歯切れの悪いものに思えてしまう。

 そんなことを蒼汰が思っているうちに電車が最寄り駅に到着し、二人はホームに降りた。

 隣を見ると、乃愛の横顔も沈んでいるように見えて。


「あのさ」


 自然と声をかけていた。


「なに?」


 顔を向けてきた乃愛に対して、蒼汰は少し気恥ずかしさを覚えながら言う。


「最後に、もうちょっとだけ遊んでいかないか?」


 目的はどうあれ、せっかくの初デートだ。このまま終わるのは嫌だった。

 すると、乃愛も同じ気持ちだったのか、勢いよくうなずいてみせる。


「いいけど、どこに行くの?」

「公園とかでもいいけど、せっかくだしゲーセンに行くか。最近行ってなかったしな」

「うん、行きたい」


 乃愛の瞳にワクワクした感情がともる。

 それだけで蒼汰の気持ちも晴れやかになった。


「んじゃ、行きますか! ばあちゃんに帰るのが遅くなる連絡だけは入れておけよ?」

「了解」


 乃愛は祖母との二人暮らしをしていて、いつも夕飯時を過ぎるときには連絡を入れているのだ。

 そういったもろもろの連絡を済ませてから、駅前にあるみのゲームセンターに向かう。

 一時期、放課後にゲームセンターへ寄るのが二人のブームになっていたことがあり、そのときはハマりすぎて時間もお金も容赦なく使ってしまったことから、近頃は控えていたのだ。

 ちなみに蒼汰はゲーム全般があまり得意ではなく、乃愛の方はプロ級にかったりする。これが逆だったなら、多分ゲーセンに寄るのがブームになったりはしなかっただろう。


「これぐらいあれば十分だろ」


 ゲーセンに入るなり、数枚のお札を両替して小銭を作る。

 機械音で騒がしい施設内の雰囲気がとてもなつかしい。

 それに、自然と気持ちがたかぶってきた。


「フッ、どうやら久々に本気を出すときが来たらしい」


 乃愛も同じ気持ちみたいだ。

 最初は乃愛の希望で、シューティングゲームを始めることになった。選ぶのは協力モードではなく、タイムアタックモードだ。並び立ったプレイヤー同士で、どちらが早くエリアを攻略できるかを競うものである。