【恋バナ】これはトモダチの話なんだけど ~すぐ真っ赤になる幼馴染の大好きアピールが止まらない~

第二章 【デート】可愛いあの子と急接近してドキドキ大作戦 ③

「トモダチが言っていた、デートには雰囲気作りが大事であると。そして蒼汰は積極的に行動してきているから、こういう距離感の近いデートがしたいのかと思って」

「雰囲気作り、ね……。そこまで深いことは考えてなかったけど、どうせなら互いを思いやれるデートになるといいよな」

「ふむ、まさか蒼汰がこれほどまでにせい系女子に飢えていたとは」

「こっちの話聞いてたか!? 照れ隠しでそういうことを言っても離さないからな? 実際、手を離したら迷子になりそうだし」

「手汗がすごい」

「ああうるさいな!? 本気で嫌ならそう言ってくれよ!?」

「…………」

「そこで黙られると困るんだけどな……」


 とはいえ、世間一般で言う恋人つなぎではない。

 あくまで普通に手をつなぎながら、並んで歩いているだけだ。

 それでも、蒼汰にとってはこの前の腕組みよりも刺激的な気がして。

 きっと顔を赤くしたままの乃愛も、同じように感じてくれているだろうと思った。


 映画館に着くと、予想通り混雑していた。

 乃愛のお目当てである純愛映画《アオハルを君と》の空席も残りわずかとなっている。

 まもなく上映開始とのことで、チケットの他にポップコーンとドリンクを購入して席に着く。

 休日ということもあって、館内はほぼ満員だ。見たところ蒼汰たちと同じ世代のカップルや女子高生の集団が多く目につき、周りからすれば自分たちもカップルに見えているんだろうかと蒼汰は考えてしまった。

 そんなことを蒼汰が考えているうちに館内の照明が落とされ、映画《アオハルを君と》が始まった。

 内容としてはオーソドックスな恋愛模様をひたすらイマドキっぽく描いているが、蒼汰からすればいまいち納得がいかないような描写が目についた。

 でも、女の子にはこういうものがウケるのも理解できる。最近りのイケメン俳優に振り回されたいという願望があるなら、きっと満足できるのだろう。

 物語も中盤に差し掛かったところで、友人の恋愛を応援するサブキャラクターが現れた。


(やっぱり、乃愛が誰かの恋愛に協力しているっていうのも違和感があるんだよな)


 スクリーンをぼんやりと眺めながら、蒼汰はそんなことを思う。

 そこでふと隣を見ると、


「「っ!」」


 こちらをガン見していたらしい乃愛とばっちり目が合ってしまった。あまりにも予想外だったせいで、蒼汰は反射的に視線をらしてしまう。

 しかもそのタイミングで、スクリーンに映る主人公とヒロインがキスをした。

 はっきり言って、だいぶ気まずい状況だ。


「(ちゃ、ちゃんと集中しろよ)」


 照れ隠しに蒼汰が小声で言うと、乃愛も合わせて小声で答える。


「(上映中に蒼汰の顔を観察するのも大事なこと。それと、飲み物がなくなったから蒼汰のやつをもらってもいい?)」

「(コーラでよければ、お好きにどうぞ)」


 と、そこで再び気になって隣を見ると、


「~~~~っ」


 すごい形相でコーラのストローを凝視して、何やら葛藤する乃愛の姿があった。

 ……なので、今のは見なかったことにしておいた。

 ────。

 そうして映画は二時間ほどで終了した。

 この内容でよくこれだけ尺をもたせたなと蒼汰はズレた感心をしつつ、外に出る準備をする。


「微妙だった」


 館内を出る直前に乃愛がぼそりと言ったのを、蒼汰は聞き逃さなかった。


 映画館を出た後は、二人でカフェに入った。

 といっても個人経営の店ではなく、学生客も多いような有名チェーン店だ。

 蒼汰が映画デートの詳細をざっと調べた際に、鑑賞後はカフェなどで感想を話すと盛り上がると書いてあったので、いざ実践してみようと思ったのである。

 ただ、肝心の映画が『微妙だった』となると、この選択が間違いだったような気もするが。

 二人席におのおのが頼んだキャラメルマキアート(乃愛)とホットココア(蒼汰)が並んだところで、向かいに座る乃愛に映画の感想を求めると、


「微妙だった」


 またそう言った。よほど微妙だったらしい。


「でも映画デートなら、マイナスな感想は言わない方が好印象らしいぞ」

「じゃあ、最高だった」

「ずいぶんと適当だな……ちゃんと集中してたのか?」

「序盤であまり合わないと思ったから、途中からは蒼汰の反応を見て楽しんでいた」

「ほんとに適当だな! これだと映画の内容について話せないじゃないか!」

「ごめんなさい」


 乃愛は口では謝っているものの、特段悪びれている様子はない。

 ちなみに、あれで原作漫画は二百万人が胸キュンしたとのことだが、乃愛のお眼鏡にはかなわなかったようで残念だ。


「まあ、俺も正直微妙だとは思ったけどさ。ザ・少女漫画が原作って感じの恋愛模様で、なんか設定はコテコテの割に、内容はあっさりしすぎているっていうかさ」

「へー」

「というか、乃愛のトモダチとやらはどういう経緯でアレを勧めてきたんだ?」

「内緒」

「さいですか」

「……ただ、今りの恋愛映画だったから、蒼汰と見れば良い雰囲気になれるかもって」


 そこで言葉を切られると、なんだか乃愛自身がそう考えたように聞こえてしまう。

 だが、その可能性は低いはずだ。今のトモダチ最有力候補は何と言っても茜なのだから。


「まあ確かに、好きそうかもな」


 茜の容姿を思い出しながら、蒼汰はなんとなしに言う。

 すると、乃愛はいぶかしむような視線を向けてきた。


「どういうこと?」

「え、なにが?」

「誰があの映画を好きそうだと思ったの?」

「いや、その……なんとなく、クラスの女子とか?」

「じぃーっ」


 まずい、これは明らかに疑われている。

 何に気をつければいいのかはわからないが、とりあえずは話題を変えるべきだろう。


「えっと、目的の映画は終わったけど、これから何をするかとかは考えてあるのか?」

「特には」

「じゃあ、適当にぶらつくか」

「賛成」


 よし、く話題を変えることができた──と蒼汰が思った直後、


「ところで、クラスの誰がさっきの恋愛映画を好きそうだと思ったの? 名前を教えて」

「あー、そういえばあの映画って、出ている女優はみんなわいかったよなー」

「露骨な話題らし……でもまあ、乗ってあげる。──蒼汰の好みはどれ?」

「えっと……一番はやっぱり、主演の子かな!」


 黒髪ロングが似合う、今話題の若手女優だったはずだ。SNSなんかでも画像が流れてくることが多い。


「ふむ。蒼汰はてっきり、軽薄そうなギャル友達の子が好みかと思ったけど」


 気のせいか、今の言葉にはとげがあるように思えた。

 そういえば、あの女優は髪色やメイクのせいもあってか、どことなく茜に雰囲気が近かったような……


「じぃーっ」

「ま、まあ、確かにあの女優さんもわいかったな!」

「やっぱり」

「でも、特別あの人のファンってわけでもないぞ? いや、ほんとに」


 あからさまにジト目を向けられて、蒼汰は居心地の悪さを覚える。

 それからは日常的な話題を振ってみたものの、乃愛の態度は大して変わらず。

 蒼汰はカップの中身を飲み干したところで、意識的に笑みを作って言う。


「もうお互い飲み終わったみたいだし、そろそろ出るか」

「べつにいいけど」


 結局このカフェでは、映画の内容が微妙だと話題がれがちになる、ということを学んだのだった。


 店の外に出ると、すでに日が暮れ始めていた。

 映画を終わった辺りで夕方近くだったが、いつの間にか結構な時間がっていたらしい。

 そのままぶらぶらと街中を歩き、雑貨屋や洋服屋を見て回る。

 途中にあった露店でクレープなんかも食べていたら、あっという間に時間は過ぎた。

 すっかり日も沈みきった頃、そろそろ帰ろうかと駅前に向かって歩き出したところで、


「あれー? 瀬高センパイじゃないですか」


 つい最近聞いた覚えのある声が耳に届いて、蒼汰は反射的に視線を向ける。