【恋バナ】これはトモダチの話なんだけど ~すぐ真っ赤になる幼馴染の大好きアピールが止まらない~

第二章 【デート】可愛いあの子と急接近してドキドキ大作戦 ②

 というか、経験不足でアドバイスができないと言う割には、やけにすんなり『映画』という単語が出てきた。自分でリサーチしたのか、あるいはトモダチから伝え聞いたのだろうか。


「蒼汰?」

「ああ、えっと、念のために確認だけど、この流れで誘うってことは……」

「映画デート。蒼汰は言わせたがり?」


 きょとんとしながら言われて、蒼汰の顔は急激に熱くなる。


「いや、その、ごめん。あまりに直球で誘われたから照れただけだ。──もちろんいけど、るものは決まってるのか?」

「そこは当然、恋愛映画をるのが鉄則」

「えぇー、恋愛映画か」

「休日に男女でる映画と言ったらそれしかないはず」

「いや、いつも俺たちがてるのはSFファンタジーじゃないか」

「蒼汰はいちいち細かい。物事にはセオリーがあるもの」

「なんだろう、乃愛にだけはそういう一般論を解かれたくないんだが」

「そして失礼。これだと先が思いやられる」


 なんて言いながら、乃愛の耳が赤くなっているのを見逃していない。

 いくらトモダチのためとはいえ、デートのお誘いをするのは恥ずかしかったらしい。


(でも乃愛のやつ、夏井さんからは何も聞いてないのか? それとも、夏井さんはまだ諦めていないとか?)


 あのとき蒼汰は、茜の告白をしっかり断ったはずだが……女子の考えることは基本的にわからないし、リベンジの可能性もあるのかもしれないと思った。

 だから蒼汰は念のために探りを入れておくことにする。


「このデートも、やっぱりトモダチのためなのか?」

「もちろんそう。今度のデートはプランから何まで全ての経験がトモダチに還元される。る予定の映画だって、トモダチがオススメしてくれたもの」


 なんだろう、違和感がある。

 そもそも乃愛が友人の恋路に協力するというのもピンとこないが、もっと感覚的な話だ。

 最初に映画を提案してきたときもそうだが、乃愛はあらかじめ話す内容を決めていたような、そんな気がしていた。

 とはいえ、蒼汰の考えすぎかもしれないし、そこをいちいち尋ねたりはしないつもりだ。

 代わりと言ってはなんだが、蒼汰は今回のデートでトモダチの正体がはっきりすればいいなと考えていた。

 トモダチ=茜なのか、それとも他にいるのか。

 あるいは、乃愛自身のことなのか。

 今の蒼汰の中では、十中八九で茜がトモダチという説が最有力なわけだが。


「まあ、なんでもいいけどさ」


 なんて答えながら、内心ではヤキモキしているのだった。


 デート前日の夜、乃愛からメッセが届いた。


『トモダチと服の話になったんだけど、蒼汰はガーリーな服とせい系の服なら、どっちの方が好み?』


 明日着ていく服のチョイスで困っているのだろうか。

 自室で寝転がっていた蒼汰は本題よりも、乃愛が以前より『トモダチ』を話題にからめてきていることの方が気になってしまう。


「というか、ガーリーな服ってどんな感じだ? さっぱりわからん」


 一応、画像検索をしてみたものの、せい系の服との差がわからなかった。どちらも白系統のワンピースが出てくるばかりで、時折ピンク色もまざっているくらいだ。

 なので、『どっちもいいと思うぞ、着る人の好きな方で』という文面を送る。

 このメッセを送ったとき、蒼汰はドヤ顔だった。

 なぜなら、『どっちもいい』と『どっちでもいい』は違うからだ。この場合、ちゃんと『どっちもいい』と伝えることで、服に興味がないわけじゃないことをアピールしつつ、しっかりと褒めるという、蒼汰なりの気遣いを含めた高等技術を使ったつもりである。


「俺だって、だてに告白された経験があるわけじゃないんだぜ? ──お、返信がきた」


 デート前だからか、蒼汰は少々浮かれた気分でスマホを確認したのだが、


『優柔不断。どっちか選んで』

「かぁ~~っ! 女心ってわかんねぇっ!」


 やっぱり慣れないことはするものじゃないと痛感させられる。

 なのでここは大人しく『せい系の方が俺は好みです』と送ることにした。


「でも、デートか」


 天井を見上げながらふと思う。

 今までだって何度も乃愛とは遊んでいるし、それこそ映画にだって行くことはあった。

 だから二人で出かけることぐらい、今さらなんてことはないはずなのだが、やっぱり意識してしまう。


「それもこれも、トモダチの話があるおかげなんだよな」


 もしもトモダチの正体をはっきりさせることで、今みたいな時間が終わるとするならば。

 乃愛とするのは『デート』ではなく、以前のようにただの『遊び』に戻るのであれば、トモダチの正体は判明させない方がいいんじゃないだろうか。

 そんな風に考えてしまう。よくない考えである。

 ──ブーッ。

 乃愛からの返信がきた。


『お楽しみに』


 たったこの一文だけで、乃愛も少なからず浮かれているのが伝わってくる。

 確かに蒼汰は細かいことを考えすぎかもしれない。

 今はただ、明日のデートを楽しむことだけ考えようと、蒼汰は思い直して備えるのだった。



 デート当日。

 集合は午後一時に駅前。蒼汰は予定時刻の三十分前には到着済みだ。

 この日の服装は、白いシャツにベージュのチノパンを合わせた無難なコーデ。ファッションについては初心者だからこそ、なるべく普通にいこうと考えた。


「デート、なんだもんな。俺と乃愛が。ひと月前の俺が聞いたらびっくりするぞ」


 待ち合わせ場所でスマホを確認しながら、そわそわする自分がちょっとおかしい。

 約束した時間の五分前になった頃、


「おまたせ」


 後ろから声をかけられて振り返った蒼汰は、思わず目を奪われていた。

 立っていたのは、純白のワンピースに身を包んだ乃愛だ。

 長い黒髪をハーフアップにまとめ、風になびかせながら押さえる仕草は様になっている。

 深窓の令嬢然としたせいたたずまいを前にして、蒼汰の鼓動は早鐘のように高鳴ってしまう。


「…………」


 言葉を失う蒼汰を見て、乃愛は不思議そうに小首をかしげる。


「蒼汰、眠いの?」

「……ふぅ。そのぶっきらぼうな物言いで、ようやく目の前にいるのが俺のおさなじみだって現実を受け入れられたぜ」

「デートだからオシャレしたまで。効果はバツグンのようで何より」


 憎まれ口でごまかそうと思ったが、あちらにはれていたことも含めてお見通しらしい。

 予想はしていたことだが、昨夜のメッセで蒼汰が答えた通りのせいなコーディネートでまとめてくれたことが、素直にうれしかった。

 にしても、せいな美少女がこの口調で話すのはいささか不釣り合いのように感じる。そこはなんとかならないのだろうか。


「なぁ、せっかくなら口調もおしとやかにならないか?」

「やだ、ならない」

「オーケー、なら無口キャラでいこう」

「そんなことより、デートのためにばっちりキメてきた女の子に言うことがあるはず」

「……めちゃくちゃわいいです」

「──ッ! ……ありがと」


 顔を真っ赤にしてもじもじする乃愛。

 しおらしいその姿はあまりにもわいすぎて、蒼汰はもう最初からクライマックスの気分だった。


「そ、それじゃあ、行きますか……」


 蒼汰がぎこちなく言うと、乃愛はこくりとうなずいてみせる。

 それから二人は無言のまま電車に乗って、十分ほど揺られてから都心の駅に降りた。

 休日だからか、やけに人でごった返している。

 はぐれるのもよくないかと思い、蒼汰はおもむろに乃愛の手を握った。


「──ッ!?」

「きょ、今日はデートなんだろ。なら、これぐらいはしてもいいはずだ」

「こ、これが、蒼汰の理想のデート?」

「ん? どういうことだ?」