青春2周目の俺がやり直す、ぼっちな彼女との陽キャな夏
第二話『安芸宮羽純』 ④
「テニス部だっけ? がんばって」
「うん、ありがとー」
そう笑顔で口にして、
「さて、俺もっと……」
そんな
この二度目の夏に戻ってきてからの、俺の放課後の過ごし方は決まっていた。
「
「明日言ってた漫画、持ってくるから」
「あ、ばいばーい、
声をかけてきてくれるクラスメイトたちに挨拶をしながら教室を出ると、まっすぐに校舎裏へと向かう。
昇降口を出て校舎を左に曲がったところで、すぐ見えてくる一面の
五十メートル先からでもわかる鮮やかな黄色が目にまぶしい。
だけど近づいてよく見てみると、それ以外にも色があることがわかる。
もちろんこれには理由があった。
『園芸部』
ここはその、活動場所だ。
校内でもその存在を知る者がほとんどいないその部活に、俺は入っていた。
ちなみに部員は他には一人しかいない。
部長である……
「あ、
俺の姿を目に留めると、
そのままうれしそうな顔で小走りに駆け寄ってくる。
「今日も来てくれたんだ、ありがとう!」
「それは、いちおう部員だし」
「えー、やっぱりわたしに会いたいんじゃない?」
「あ、え」
「なーんて。でもほんと、別に毎日は来なくてもいいんだよ? もちろん
「や、それはそうかもだけど」
だけど図らずも彼女が自分で言った通り、俺は毎日
「別に俺は大変とかは思ってない。その、ここの雰囲気はけっこう好きだし」
「そうなんだ。そう言ってくれるとうれしい。
そう太陽のように笑って、ぺこりと頭を下げてくる。
後ろで一つにまとめられていた髪が、重力に従ってするりと下に流れた。
「……それで、今日は何をやればいい?」
「うん、そうだね。雑草を抜くのを手伝ってほしいのと、その後に水まきをするからそれもいっしょにやってほしいかな」
「ん、わかった」
うなずき返して、さっそく作業を開始していく。
とはいえ雑草取りはなかなかに厳しい。
控えめに言って、なかなかに過酷な環境だ。
とはいえそんな俺でも何とか作業を続けられているということに、十代の
(酒を飲んでないからか、
もしかしたらそれが一番大きいのかもしれない。
もしも未来に戻ることができたら、酒量は少し減らそうと心に誓った。
やがて三十分ほどが経過し、ほぼ全ての雑草を抜き終わる。その頃には、すっかり汗だくになってしまっていた。
「ありがとう。それじゃあ水をまくね」
「──えいっ♪」
「え?」
最初は何が起きたのかわからなかった。
冷たい感触が顔にかかって、視界が一瞬遮られた。
同時に涼しげな空気が広がって、全身を包んでいた暑さがスッと引いていく。
水をかけられたのだと気づいたのは、前髪から流れ落ちる水滴が頰に触れたからだ。
「あ、
「ふふ、だって
そう言ってぺろりと舌を出す。
そうだった。
こんなに女子らしく
とはいえやられたままでいるのはあれなので、きっちりリベンジはすることにする。
「やったな……!」
ホースはもう一本あったので、それを使って
「きゃ……っ……」
上がる小さな悲鳴。
だけどもちろんイヤがっているわけじゃないことは、その楽しげな表情から見て取れた。
「くらえっ」
「甘いよ、
「うわっ、それは反則だって」
「ふふ、決闘には反則なんて言葉は存在しないんだよ」
ホースの水がキラキラと宙を舞い、辺りに小さな虹を作る。
どれくらいそうしていただろう。
やがて疲れてその場に座りこむ頃には、二人とも頭からズブ
「はぁ、引き分けかな……」
「だな……」
「ふふ、二人ともびっしょびしょだね。プールにでも飛びこんだみたい」
「それは、
「えー、それを言うなら
「う、それは……」
「あはは、二人とも新ジャガイモと同じくらい子どもってことだね」
そう言って笑い合う。
心地よい疲れだった。
全身水に
「……ありがと、ね」
「え?」
と、隣でのんびりと日光浴をしているように見えた
「えっと、昼休み。花瓶が落ちるの受け止めてくれてた……よね?」
「あ……」
見てたのか。
「おかげで
「いや、そんな大げさなことじゃ……」
「いーの。わたしが勝手にそう思ってるだけなんだから」
そう言って再び笑いながら太陽の方に
その笑顔は隣で咲き誇る
少しだけ満ち足りた心地で、気持ちよさそうに日光浴をする
「……って、あ」
「……?」
気づいてしまった。
さっきまでは
……言っておくと、これは決してワザとじゃない。
……そうしようと思って、やったことじゃない。
ただ俺同様に全身くまなく
「……っ……」
遅れて彼女も気づいたのか、慌てたように胸元を両手で覆い隠した。
「わ、悪い! そういうつもりじゃなかったんだ……!」
「……」
「その、つい夢中になって、気づかなくて……」
「だ、だいじょうぶ……」
「え……?」



