エイム・タップ・シンデレラ 未熟な天才ゲーマーと会社を追われた秀才コーチは世界を目指す
エイム・タップ・シンデレラ 未熟な天才ゲーマーと会社を追われた秀才コーチは世界を目指す ⑩
そんな
「でも、もし、もし本当にお姉ちゃんが興味あるなら紹介はできるかもしれない」
「……紹介って、誰を何に?」
「私たちのチームで、見習いみたいな仕事とか」
「……見習い?」
「そこでゆっくりと知識をつけるっていう手はあると思う」
ゲームの知識がない人。見習いなら紹介できる。
そうか。
──いや違う、
手をグッと握り、机を見つめる。
「私だって、ずっと続けていた」
「え?」
「私だって、ずっとゲームを続けてたって言ってるの。お父さんと離れてからも、ずっとゲームは見てきた。もちろん
──お父さんの娘なんだ。
「お姉ちゃんが、ヴェインストライクを見てるの?」
「そうだよ」
「私の試合も?」
抑え込んでいた感情が、まるで噴火するかのようにあふれ出ていた。
「何よ、見ちゃ悪いの。
「お姉ちゃん、ちょっと待ってよ、なに言ってるの?」
「ああ、ごめん、ユウキたちが近くに来てる。実はこのあと撮影が入ってて」
バッグの中から財布を取り出しながら、
「けど、お姉ちゃん……やっぱり、もう一度考えた方がいいと思う」
言ってしまった。
もう、後に引けないではないか。
昼下がりの中目黒。
がらんとしたオフィスの二階で、
二階の半分は執務エリアになっており、ソファが設置されている休憩スペースもある。
パーティションで仕切られた残り半分の空間はまだ何もなく、今後ゲーミングスペースになる予定だ。
「妹さんと話したらケンカして、その勢いでチームに勧誘した? しかも断られたって?」
「あはは、
「いいよいいよ。ちなみに他にアテはある?」
「妹に頼めば誰か紹介してくれるかもしれませんけど」
「それはちょっと面倒そうだな。まあ、任せるよ。最高のチームを作ってくれればそれでいい。実力だけじゃなく、ルックス、キャラ、経歴にも気をつけてほしい。何か質問ある?」
サラッと高い要求を並べられた。
「あの、チーム名は決まっていますか」
「ああ、確かにそれは重要だな。そうだ、かっこいいやつをAIに提案させてみるか」
「エニグマ・ディヴィジョン、ですか」
なぜ、暗号機? 中二病? ダサくない?
思わずそんな言葉が口から出そうになる。
「シンプルだけど気に入った」
もちろん、できるならばそうしたい。実際、予算は潤沢だ。
しかし、問題はタイミングにあった。
シーズン開幕はもう間近に迫っている。
違うのは、その空間にいるのが自分だけということだった。
***
ついこの前までは何もなかった、中目黒オフィスのゲーミングスペース。
そこに今は、ゲーム用のデスク、チェア、PC、それにモニターがずらっと並んでいる。
だが、その空間に座っているのは、相変わらず
「フラッシュ頼む!」
男性の声が
目の前に人影が現れた瞬間、手に持っていたライフルが頭を撃ち抜いた。敵を倒した時のエフェクトが画面上に表示されると同時に、ラウンド勝利の文字が大きく表示された。
次のラウンドが始まるまでの準備時間。
「ナオト、フラッシュのタイミングもう少し早くしてほしい」
先ほどの声が再び聞こえた。
フラッシュとは、敵の視界を一時的に奪うサポートスキルのことだ。
「いや、あのタイミングがベストだろ」
高い声で応えるのは、先ほどナオトと呼ばれたプレイヤーだった。
議論を交わしている二人は、セジュンとナオト。
セジュンは韓国系日本人で、本名もセジュン。
ナオトはハンドルネームで、こちらは両親ともに日本人。
二人とも十九歳の男性で、既にチームの選考を通過し、メンバーとして確定している。
プロチームでは、毎日スクリムを数試合行い、その後に反省会や作戦会議をするのが一般的だ。今のスクリム相手は、韓国の中堅プロチームだった。
次のラウンドが始まるまで続きそうなナオトとセジュンの議論に、別の声が割り込む。
「おい、そういうのは反省会でやれよ」
と声をかけたのはテオだった。テオはセジュンの同級生で、韓国系の日本人男性。先に
次のラウンドが始まると、一瞬静寂が訪れたところで、指示が飛んだ。
「次はフェイクでいこう。テオとナオトがアクションを起こして、残りは逆サイドで待機」
この指示を出したのはジンだ。
ジンも既にチーム入りが確定している選手で、年齢は二十六歳の日本人男性。別ゲームでは日本代表をした経験も持つベテランだ。選手の中では最もキャリアが長いこともあって、自然にチームのオーダーをしている。オーダーとは、要するに司令塔のことだ。



