メイクアガール

プロローグ ZERO TO ONE

愛は、ふたつの肉体に存在するひとつの魂によって構成される。

──アリストテレス




 人はなぜ、ひとりでは生きていけないのだろう。

 巨大な円柱状の水槽を見上げながら、そんなことを考える。

 歴史をひもけば、それはさほど難しい問いではない。

 生命とは、自己を継続しようとする複雑なシステムだ。とはいえ進化学的に考えれば、継続というのはやや誤解を招く表現だろう。長い時の中で環境の変化を乗り越え、続いていったものだけが今存在している。そこには誰の意志もない。すなわち単に継続というほうがより適切だ。

 しかしそれゆえに、人は純粋になもので構成されている。

 人間は次世代を、未熟な状態で出産する。生まれた次世代は、放置されれば簡単に死んでしまう。しがみついて移動し、乳を飲み、守られてはじめて生きていくことができる。すべての人間は、他人に生存を託した無力な状態で生まれてくるのだ。

 なぜか。一説によれば、それは早い段階で胎内を出なくては出産できなくなってしまうほど、巨大な脳を持つからであるという。

 そしてその性質こそが、人間に新たなものを生み出せる創造性を与えたはずである。

 つまり、こういうことだ。

 なにかをするからこそ、人は誰かをとする。

 そしてこれは、逆転を可能にする。

 誰かがになったのなら、すればよい。

 だから私は創った。

 この大きな水槽の中に。

 液体で満ちたその中心に浮いているのは。

 だ。

 生まれたままの、いや、生まれる前の姿。背中にはさいたいの代わりに栄養を循環させ老廃物を回収するためのチューブが複数接続され、伸びつつある髪が特殊な溶液の中を静かに揺蕩たゆたっている。

 今はまだ、眠っているけれど。

 ほどなくして、目覚めは訪れるだろう。

 幾つもの日を見送り、月を迎え、共に生きていくために。

 定められた歯車が、今、動き出すのだ。