学校生活で一番胸躍るイベントとは何だろう。
文化祭、体育祭、修学旅行、挙げ始めたら枚挙にいとまがないが、頻繁且つ日常的に行われるイベントと考えたら、それは『席替え』ではないだろうか。
友人同士近い席で高校生活を過ごしたい、できるだけ意中の人と近づきたい、そういった思惑とドキドキ感。それは学校で頻繁に行われるイベントの中ではかなり胸が躍るものだろう。
……いや、楽しんでいるのはあくまで陽キャだけだ。
陽キャとは対にあるぼっちの陰キャの気持ちを考えたことはあるだろうか?
できるだけ教室の隅の席を望み、周りにはせめてクラスの二軍三軍くらいの目立たない人間にいて欲しいと思う陰キャの気持ちを。
ぼっち陰キャにとっての席替えは、逆の意味で一番胸が躍るものであり、やっと慣れてきた席から離れなければいけないという、ハイリスクほぼノーリターンなイベントだ。
一人静かにラノベを読めていたあの神席から、離れなければならなくなったぼっち陰キャの心境なんて、同じ立場のぼっち陰キャにしか分かるまい。
そう、これは俺みたいなぼっち陰キャしか到底理解できないのだ。
その上、俺の場合はその次の席がよりにもよって……。
「ねえ! 今日の帰りスタバ行こーよー? 愛莉、新作のフラペチーノ飲みたーい」
「またスタバぁ? あたし今月ちょい金欠気味なんだけど」
「ふふっ、ならわたしが優里亜の分も出してあげる。それなら行くよね?」
「ま、まぁ……瑠衣がそこまで言うなら」
「じゃあ決まりね? あとは〜」
左右と前の席に座る美少女三人の視線が、一気に俺に集まる。
「もちろん諒太も、一緒に行くんだからねっ」
席替えにより、なぜかクラスの美少女三人衆に囲まれてしまった陰キャの俺。
しかもそれがきっかけで、彼女たちのとある秘密を知ってしまい、色んな意味で俺は美少女三人衆に包囲されてしまった。
こんな状況になった俺の気持ちなんて誰にも……いや間違いなく俺にしか分からないだろう。
それもこれも、全てはあの日から始まった──不運で幸運な、あの日から。