今日は朝からやけに嫌な予感がしていた。
目が覚めたと思ったら急に金縛りに遭ってしまい30分のロス。
たまたまやってたテレビの占いは、俺の射手座がダントツの最下位。
家を出た時間的に、朝のHRに間に合わない可能性もある。
ただでさえ俺はクラス内で陰キャオタクとして通っているのに、遅刻なんてしたらさらに立場がなくなる。
「もう朝のHRが始まったかな? だとしたらかなりヤバいぞ!」
クラス担任の山田は、常に竹刀を持ち歩いている時代錯誤の暴力教師であり、もし遅刻なんかして彼の逆鱗に触れたら……ただじゃ済まないだろうな。
俺は本気で焦りながら、自分の教室である2年B組の教室に飛び込む。
すると──教室では席を移動するクラスメイトの姿があった。
スクランブル交差点を行き来する人集りのように、それぞれ違う方向へ行ったり来たり。
クラスメイトは皆、自分の机の中に入っていたものを取り出し、抱えながら移動している。
「このクラスになって初めてだよねー」
「うんうん。山田先生厳しいから席替えなんてしないと思ってたし」
せ、席、替え……?
「それもこれも委員長の黒木が頼んでくれたおかげだよな」
クラス内を移動するクラスメイトの会話を聞く限り、どうやら学級委員長の黒木が担任の山田を説得して席替えを行ったらしい。
抽選は既に終わっているようで、それぞれが黒板に書かれている席へ移動しているみたいだ。
前黒板には白のチョークで綺麗に名前が書かれており、俺、泉谷諒太の名前もしっかりあった。
席替えなんて陰キャの俺にとって全く嬉しいイベントじゃない。
俺みたいな陰キャは、好きな相手と隣になりたいとか友達と近い席になりたい、なんて感情を持ち合わせていないからだ。そもそもぼっちだし。
さてと、俺の席は……って、ん?
「う、噓……だろ」
黒板に書かれた俺、『泉谷諒太』の名前の周りを見て、俺は啞然とする。
左隣の席には市之瀬優里亜。
右隣の席は黒木瑠衣。
さらに、前の席には海山愛莉……だと!?
左右と前方、俺の周りの席にいたのは、クラスカーストのトップ美少女三人だったのだ。
2年B組のクラスカーストトップに君臨するS級美少女──市之瀬優里亜、黒木瑠衣、海山愛莉。彼女たちは常に一緒に行動している美少女三人衆である。
明るい栗色の髪のギャルっぽい見た目をした市之瀬優里亜と、黒髪清楚で2年B組の学級委員長も務める才色兼備の黒木瑠衣、そして甘えた声をした爆乳妹系美少女の海山愛莉。
この三人は、クラス内だけでなく高校全体で見ても一際目立つ存在であり、誰もが認めるS級美少女である。
クラスカーストトップの彼女たちに対し、クラスカースト最底辺といっても過言ではない俺は、これまで話したこともなければ、目が合ったことすらない。
そんな彼女たちに席を囲まれてしまった目の前の現実を受け入れられず、前黒板に書いてある自分の席を何度も確認する。
しかし何度見たところで俺の名前に間違いはなく、俺の名前はこのクラスの『美少女三人衆』に囲まれていた。
こ、これは……どう考えても最悪の席じゃないか!
あの三人は何もしていなくても周りの視線を集めるほどの美貌と存在感があるし、誰もが認めるクラスの中心。
そんな中心である三人に囲まれた席なんて……地獄でしかない。
俺はひっそりと、教室の隅の席でラノベを読みながら、ニヤニヤしていたいんだ。
それなのにこんな席じゃ、落ち着いて本も読めないだろ!
俺は動揺を隠せないものの、早く席を移動しないと今の俺の席に座る人が困るため、とりあえず荷物を抱え、地獄の席へと移動する。
俺が移動した時には、既に目の前の席に海山愛莉が座っていた。
海山は『カワイイ』の権化と言われるほど、何から何まで〝可愛い〟大人気の女子生徒。
明るい髪色のツインテールも、まん丸で大きな瞳とそのアヒル口も、あざとさを感じさせる。
また、クラス男子たちが海山に対して熱視線を送るのはただ可愛いというだけではなく……そのデカすぎる胸も一つの理由だろう。
腰は細いのに胸と太ももがムチッとしているのはグラドル並みに反則のスタイルだと思う。
「愛莉おはよ」
「あっ、優里亜じゃん。おはよ〜」
すると今度は美少女三人衆の二人目、市之瀬優里亜が登校してきた。
市之瀬は俺の左隣の席に荷物を置いて座る。
「あたしらの席近いね?」
「だよねー? 瑠衣ちゃんが近くにしてくれたのかな?」
「じゃなきゃこんなにあたしら近くならないっしょ? ま、どっちでもいいけど」
いや、俺からしたらいい迷惑なんだが……!
「今日の優里亜のネイルめっちゃ綺麗ぇ。トップコート変えたの? それともオイルかな?」
「別に大したことしてないし」
市之瀬はクールに言うと自分のスマホに目を落とした。
市之瀬優里亜はその鋭い目つきと尖った性格が特徴的なダウナーなギャル。
海山と違って可愛いというよりも美人顔で、胸はもちろん太ももがハンパなくデカい。
二次元のギャルはそこそこ好きな俺だが、現実のギャルは大の苦手だ。
理由はシンプル。この世界にはオタクに優しいギャルなんて存在しないからだ。
きっと市之瀬は俺みたいなオタクのことを軽蔑してるだろうし、極力関わりたくはない。
オタクに優しいギャルなんて空想上の生き物だからな。
「てか瑠衣ちゃん遅いね? おトイレかな?」
「どうだろ。あ、山田が来たよ愛莉。前向かないと」
市之瀬が言った瞬間、廊下から担任教師の山田が現れ、続いて委員長の黒木も教室に入ってきた。
「全員席に着け」